「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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ノーキエより国使来る・華麗なる転身

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 国使を迎える当日は雲ひとつない快晴となった。

 レオノールはアクアブルーのドレスに身を包み、軽い足取りで回廊を進む。

 ドレスは皇后陛下が結婚の際の祝いの品にと贈ってくれた物の中から、相応しいものを選んだ。

 クラウディオの瞳が青いからか、クローゼットの中には青系のドレスの割合が多い。

「ここから先、私どもの帯同は許されていません。練習を思い出し、お勤めを果たして下さい」

 リュシエンナに見送られ、メリッサと共に謁見の間に向かう。

「レオノール様なら大丈夫、とても素敵です。まるで女神の如き美しさですよ」

 メリッサは翻るドレスの裾を目で追いつつ、リュシエンナと共に見送ってくれる。

 ”任せといて”

 と伝えるように、レオノールはにっこりと紅で彩った唇で笑みを作った。

 アクアブルーのドレスはマーメイドラインで、足元に近づくにつれて淡く輝くグラデーションになっている。

 歩くたびに揺れては、波打ち際の水飛沫を思わせた。

 健康的な小麦色を帯びた肌は、青の衣と対照をなし、凛とした気配を際立たせている。

 背筋はまっすぐ、視線は堂々と前を見据え、その歩みは剣を携えた勇者のそれではなく、まさしく王太子妃のものだ。

 回廊の壁際に控えていた侍女たちは、一斉に息を呑んだ。

「……あれが、本当に」

「まるで、別人だわ」

 さざめくような動揺が広がり、次第に収束する。

 先日まで自分たちが笑いものにしていた女の――その姿は、もはや別人だった。

 悔しさとも畏れともつかぬ感情を募らせながら、誰もが言葉を失う。

 別れ際にあれほど恨みがましい目を向けていたシャヘルでさえも、顔を伏せたきりこちらを見ようとしない。

 扉が開かれると、謁見の間にも緊張が走った。

 居並ぶ人々の視線が一斉に自分へと集まるのを感じる。

 注目は浴び慣れているが、この手の視線は初めてで、これも案外悪くない。

 正面には国王夫妻が座しており、並び立つクラウディオの隣へと導かれる。

 部屋の左右には高官たちが控え、壁際には近衛の兵士が並んでいた。

 その中には旧友、ソノラの姿もあり、儀礼用の武装で場を引き締めている。

 コツリコツリと、ヒールの音が静寂な空間に響く。

 足取りに迷いはない。

 リュシエンナに褒められたように、レオノールは身体能力に抜群の自信があった。

 長身の身体に沿うようなラインの裾を翻し、一歩一歩と着実に近づくと、満足そうに微笑む両陛下と、クラウディオが目に入る。

 ーークラウディオは確かに、レオノールを見ていた。

 見開かれたブルーの双眸が、惑いを秘めて揺れている。

 冷徹と謳われた王太子の表情に、確かな驚きが走った。

 その息遣いが、ほんの一瞬止まった様子もまた、レオノールは見逃さない。

 目が合うとクラウディオは視線を逸らした。

 その姿はまるで、自身が抱いた感想を否定するかのようでもあった。

 できることなら、その目を釘付けにさせて、あわよくば「俺の妻はこれほど美しかったのか」などレオノールに夢中になって欲しい。

 そんな都合の良い展開を夢見ていたが、現実はそう甘くないようだ。

 けれど、ここまで来てみれば、もはや他者からの評価はそれほど重要ではなかった。

 実に満足の行く出来栄えだ。

 レオノールはこれほど、自分が女性らしく振る舞えるとは想像だにしていなかった。

 ここまで導いてくれたリュシエンナには、感謝しかない。

 最善は尽くすつもりだったが、予想を上回る仕上がりだ。

「クラウディオ殿下の妃レオノール、両陛下に謹んでご挨拶申し上げます」

 定められた位置まで進むと、レオノールは深く一礼し、澄んだ声で言葉を紡ぐ。

 謁見の間に凛とした声が通り、広がった。

 元より身体の大きな女だ。

 長い手足に優雅な仕草が加われば、人目を惹かずにいられない。

 その場にいた誰もが言葉を失い、静寂の中でただレオノールを見つめている。
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