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人質と引き換えに
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だが、キスに溺れていた意識をほんの少し覚醒させるだけの振動が、突如として鼓膜に届いた。
コツン、コツン
硬質なもので、ガラスを弾く音。
まだ欲望のままに、互いの熱に浮かされていたかったけれど、無視できない。
先に気づいたのはレオノールで、すぐにクラウディオも察知した。
2人が同時に音源を探して目を向けたのは、レオノールの寝室だった。
「何の音だ」
王太子夫妻の寝室は、西の棟の2階にある。
窓を叩く者などあるはずがないのだ。
次いでギッ、と木枠が軋む音が響いたとほぼ同時に、全身の毛が逆立つような悪寒に襲われた。
バサッ……
掛け金が外れて窓が開いたーーのだろう。カーテンがはためき、何かが這い寄る気配が接近する。
「クラウディオ様! 下がって」
「下がれ、レオノール!」
反射的に、2人は同時に手を出した。
クラウディオが右腕、レオノールが左腕。互いを背に庇うようにして、半歩ずつ前に出る。
「おや、こちらの部屋に……たのか、レオノール……が違う」
レオノールとクラウディオの部屋を繋ぐ内扉の隙間から、雑音と共に歪な影が滲み出た。
その音は聞き取りづらいが、言葉のようでもある。
魔物の類だろうか。
迎撃すべきかどうか。どちらにしてもクラウディオを下がらせないと。
「待て、レオノール。その声もしや」
判別しようと身を乗り出すレオノールを、クラウディオの左腕が押し留める。
クラウディオにはこの声に覚えがあるようだった。
クラウディオの判断は早かった。
押し留める掌を返して、レオノールの手首を掴んだ。
後方に強く引かれて、たたらを踏む。
「もしや、アルヴァロ王子か!?」
ニヤリ
実態はないはずなのに、あたかも笑顔が浮かんだかのように影が歪む。
「えっ? アルヴァロ王子が? だって王子は……」
ゾゾッ……と、尾を引きながら漆黒の影が床を移動した。
左方の扉から右方の壁へ。
居所を変えたかと思ったら、姿見にぺたりと張り付いて再び形状を変化させた。
ゆらゆらと蠢き、人の形を成していく。
声の主がアルヴァロ王子であるはずがない。
だって、王子はマナ溜まりに落ちて消えたと聞いていた。
しかし、そんな疑いはすぐに否定された。
鏡に映る輪郭がはっきりしてくると、レオノールにもそれが誰なのかがわかった。
黒く塗りつぶされていた箇所が晴れて、見慣れた美貌が浮かび上がる。
「その通り、私だ、アルヴァロ・イバニェスだよ。レオノール殿。先日は刺客からその身を賭して救って頂き、感謝している」
「それはどうも……。って、本物なの? これ、どうなってるんですか」
灯りは落としているのに、鏡の中の姿はハッキリと見える。
黒に近い栗色の髪に、琥珀色の切れ長の瞳。
優雅に微笑む口元から覗く、白い歯。
クラウディオが呼び、当人が自称する通り、鏡に映る人物の姿は紛れもなくアルヴァロ王子そのものだった。
消息不明と聞いていただけだから、死亡したと決まってはいないのだが、今こうして鏡の中に映る意味がわからない。
ふらりとレオノールが接近しそうになるのを、クラウディオの腕に阻まれた。
レオノールの腰を抱き寄せ、己の背で庇うようにして鏡に向き合う。
コツン、コツン
硬質なもので、ガラスを弾く音。
まだ欲望のままに、互いの熱に浮かされていたかったけれど、無視できない。
先に気づいたのはレオノールで、すぐにクラウディオも察知した。
2人が同時に音源を探して目を向けたのは、レオノールの寝室だった。
「何の音だ」
王太子夫妻の寝室は、西の棟の2階にある。
窓を叩く者などあるはずがないのだ。
次いでギッ、と木枠が軋む音が響いたとほぼ同時に、全身の毛が逆立つような悪寒に襲われた。
バサッ……
掛け金が外れて窓が開いたーーのだろう。カーテンがはためき、何かが這い寄る気配が接近する。
「クラウディオ様! 下がって」
「下がれ、レオノール!」
反射的に、2人は同時に手を出した。
クラウディオが右腕、レオノールが左腕。互いを背に庇うようにして、半歩ずつ前に出る。
「おや、こちらの部屋に……たのか、レオノール……が違う」
レオノールとクラウディオの部屋を繋ぐ内扉の隙間から、雑音と共に歪な影が滲み出た。
その音は聞き取りづらいが、言葉のようでもある。
魔物の類だろうか。
迎撃すべきかどうか。どちらにしてもクラウディオを下がらせないと。
「待て、レオノール。その声もしや」
判別しようと身を乗り出すレオノールを、クラウディオの左腕が押し留める。
クラウディオにはこの声に覚えがあるようだった。
クラウディオの判断は早かった。
押し留める掌を返して、レオノールの手首を掴んだ。
後方に強く引かれて、たたらを踏む。
「もしや、アルヴァロ王子か!?」
ニヤリ
実態はないはずなのに、あたかも笑顔が浮かんだかのように影が歪む。
「えっ? アルヴァロ王子が? だって王子は……」
ゾゾッ……と、尾を引きながら漆黒の影が床を移動した。
左方の扉から右方の壁へ。
居所を変えたかと思ったら、姿見にぺたりと張り付いて再び形状を変化させた。
ゆらゆらと蠢き、人の形を成していく。
声の主がアルヴァロ王子であるはずがない。
だって、王子はマナ溜まりに落ちて消えたと聞いていた。
しかし、そんな疑いはすぐに否定された。
鏡に映る輪郭がはっきりしてくると、レオノールにもそれが誰なのかがわかった。
黒く塗りつぶされていた箇所が晴れて、見慣れた美貌が浮かび上がる。
「その通り、私だ、アルヴァロ・イバニェスだよ。レオノール殿。先日は刺客からその身を賭して救って頂き、感謝している」
「それはどうも……。って、本物なの? これ、どうなってるんですか」
灯りは落としているのに、鏡の中の姿はハッキリと見える。
黒に近い栗色の髪に、琥珀色の切れ長の瞳。
優雅に微笑む口元から覗く、白い歯。
クラウディオが呼び、当人が自称する通り、鏡に映る人物の姿は紛れもなくアルヴァロ王子そのものだった。
消息不明と聞いていただけだから、死亡したと決まってはいないのだが、今こうして鏡の中に映る意味がわからない。
ふらりとレオノールが接近しそうになるのを、クラウディオの腕に阻まれた。
レオノールの腰を抱き寄せ、己の背で庇うようにして鏡に向き合う。
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