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王都直前の戦闘
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一方、その頃のレオノールと言えば。
ブルルルッと馬が嘶き、一段と高く尻が跳ね上がったので、ハッと覚醒した。
「またぁ!? もう、少しは眠らせてよね……!」
レオノールはボヤくと同時に手綱を引き絞る。
左斜め方向に進路を逸らすと、先ほどまでの進路にあった巨木が、ぎぎぎぃっと鈍い音を立てて傾ぐ。
同時にドッ、と大きな何かが幹で踏み切り飛び上がる。
レオノールは鞍上に腹這うように手をついた。
鞭のように足をしならせ、こちらへ飛びかかってきた影に蹴りを叩き込む。
ベシャッ、と地に転がったのは猿の形をした魔物だ。
「キシャァッ!」
耳障りな鳴き声とともに、すぐさま左右から新手が迫る。
「ったく、約束を守らせる気あるのかね。あの男は」
臨時の愛馬は斑の牝馬だけれど肝が据わっている。
少しでも危機を遠ざけてやるため、レオノールは剣を抜く。
腰を浮かせて、左右に振り抜き、猿の群れを薙ぎ払った。
コールヴァンの予想通り、レオノールは駆け続ける馬上で仮眠を取っていた。
もちろん、ぐっすりとはいかないが、するとしないでは疲労の回復度が違う。
「ノンストップで走ってネルダールでちょっと休憩しようと思ってたのに……!」
ネルダールは目的地であるバルロウの一つ手前の街だ。
今の今まで、まともな休憩も取らずに走り続けたのは、本戦前に少しでも身体を休めたいと考えていたからだった。
猿を蹴散らし、一気に森を駆け抜けると、地平線の先にはっきりと白い城壁が浮かんで見えた。
身を隠す木立を失ったせいか、猿は追撃してこない。
「……ま、そう簡単に休ませちゃくれないよね。アイツもそれくらいは頭にあるか」
「アイツではなく、アルヴァロと呼んでくれれば良いものを」
まだ次があるかと警戒していたら、不意にどこからともなく漂ってくる声がした。
何と今度は、アルヴァロご本人の登場だ。
「王子様を呼び捨てにしていいの? アルヴァロ王子。お出迎えには早いんじゃない」
「アルヴァロでいい。其方と私の仲だ……特別に許そう。其方があまりに強すぎるのでな、予定を早めることにした」
レオノールは馬の歩みを緩め、声のする方向に目を向ける。
初めは上空を——見上げると1羽の鳥が目に入る。
ほとんど羽ばたかせることもなく、滑るように円を描いて同じ場所を滑空している。
空を旋回する鳥の腹部から影が落ちて、そこからすうっと伸びる黒い糸が地面に垂直に垂れた。
糸の先端は地面で広がって、徐々に輪郭を帯び始めた。
アルヴァロはあの晩も、確かに黒い染みから姿を現した。
ブルルルッと馬が嘶き、一段と高く尻が跳ね上がったので、ハッと覚醒した。
「またぁ!? もう、少しは眠らせてよね……!」
レオノールはボヤくと同時に手綱を引き絞る。
左斜め方向に進路を逸らすと、先ほどまでの進路にあった巨木が、ぎぎぎぃっと鈍い音を立てて傾ぐ。
同時にドッ、と大きな何かが幹で踏み切り飛び上がる。
レオノールは鞍上に腹這うように手をついた。
鞭のように足をしならせ、こちらへ飛びかかってきた影に蹴りを叩き込む。
ベシャッ、と地に転がったのは猿の形をした魔物だ。
「キシャァッ!」
耳障りな鳴き声とともに、すぐさま左右から新手が迫る。
「ったく、約束を守らせる気あるのかね。あの男は」
臨時の愛馬は斑の牝馬だけれど肝が据わっている。
少しでも危機を遠ざけてやるため、レオノールは剣を抜く。
腰を浮かせて、左右に振り抜き、猿の群れを薙ぎ払った。
コールヴァンの予想通り、レオノールは駆け続ける馬上で仮眠を取っていた。
もちろん、ぐっすりとはいかないが、するとしないでは疲労の回復度が違う。
「ノンストップで走ってネルダールでちょっと休憩しようと思ってたのに……!」
ネルダールは目的地であるバルロウの一つ手前の街だ。
今の今まで、まともな休憩も取らずに走り続けたのは、本戦前に少しでも身体を休めたいと考えていたからだった。
猿を蹴散らし、一気に森を駆け抜けると、地平線の先にはっきりと白い城壁が浮かんで見えた。
身を隠す木立を失ったせいか、猿は追撃してこない。
「……ま、そう簡単に休ませちゃくれないよね。アイツもそれくらいは頭にあるか」
「アイツではなく、アルヴァロと呼んでくれれば良いものを」
まだ次があるかと警戒していたら、不意にどこからともなく漂ってくる声がした。
何と今度は、アルヴァロご本人の登場だ。
「王子様を呼び捨てにしていいの? アルヴァロ王子。お出迎えには早いんじゃない」
「アルヴァロでいい。其方と私の仲だ……特別に許そう。其方があまりに強すぎるのでな、予定を早めることにした」
レオノールは馬の歩みを緩め、声のする方向に目を向ける。
初めは上空を——見上げると1羽の鳥が目に入る。
ほとんど羽ばたかせることもなく、滑るように円を描いて同じ場所を滑空している。
空を旋回する鳥の腹部から影が落ちて、そこからすうっと伸びる黒い糸が地面に垂直に垂れた。
糸の先端は地面で広がって、徐々に輪郭を帯び始めた。
アルヴァロはあの晩も、確かに黒い染みから姿を現した。
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