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王都直前の戦闘
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そういえばあの晩も、影の塊からアルヴァロは姿を現した。
影に潜る……専門家でないから断定はできない。
だが、闇属性の魔法タイプではなかろうか。
「じゃあ遠慮なく。アルヴァロが出迎えに来たってことは、終点はここでいいのね? 気が済んだなら、ウチの子たちを返して欲しいんだけど」
地に落ちた影からスウっと上に伸びて、アルヴァロの姿が顕現する。
透けてもおらず、本物だと信じそうになるが、断定は禁物だ。
レオノールは探る目つきでアルヴァロの様子を注視する。
「……それは、分かっていて私の気を惹いているのかな? なかなか、可愛らしいところがあるじゃないか、レオノール」
「そんなわけないでしょ。囚われの騎士団を解放して欲しければノーキエに来いと言ったのはアルヴァロ、アンタよ」
クククッと愉快そうに笑うと、アルヴァロは足を一歩踏み出した。
足元に滲んでいた影が収縮し、踵は完全に地面から離れる。
レオノールは完全に馬を停止させた。
いつでも動けるように、爪先を鐙からそっと外す。
「なるほど。はっきりと言葉が欲しいと、そういうことか。……それは気が利かず済まなかった」
警戒は緩めずに動向を見守る。
どの道アルヴァロが騎士団を解放するまで、レオノールの任務は終わらない。
しかし、何事を起こすでもなく、アルヴァロはゆったりとした足取りでレオノールのすぐ傍まで歩み寄った。
そのまま優雅な仕草で、馬の足元で地に膝をつく。恭しく、片腕を差し伸べると、そのままレオノールを見上げた。
「レオノール。私は其方が欲しい。今すぐに抱き寄せ、思うがままに弄びたい。その願いを叶えるためにーー其方をこの地に呼び寄せたのだ」
遮るもののない、丈の短い草が茂る丘陵と、背後に浮かぶ白亜の城壁は、何とも言えぬ美しい景色だ。
そんな爽やかな空気の中で、アルヴァロは堂々と欲望を口にした。
外側だけは綺羅綺羅しい、王子然とした振る舞いだ。
「……はァ? 想像より数倍、どうかしてる。……求婚するならまだしも」
当然、その手を取る気はない。
レオノールはあまりにも身勝手な妄言に、ゾッとする。
全身に怖気が走ると、聡い馬は主人の気配を感じ取り、じりりと後退した。
「遠回しに言ってもわからないのだろう? 私も、無駄は嫌いな質だ。これから其方は私に犯され、孕まされる。そうして我々は夫婦となり、力を合わせてこの世界を安泰に治めるのだ。嬉しいだろう?」
侮蔑の眼差しを向けているにも拘わらず、アルヴァロは変わらず勝ち誇ったような、余裕の笑みを浮かべていた。
レオノールは片眉を吊り上げ、口元だけを歪めたつもりだった。
自分を護衛していた騎士団を捕え、クラウディオに心労を負わせ、レオノールには無理難題を押し付けた。
腹立ちを押して駆けつけたのに、ここへ来てこのセクハラ発言だ。
我慢ならずに、奥歯を噛み締めた。
クラウディオに指摘されて、アルヴァロの目的を予測していたものの、怒りで胃が捻じ切れそうになる。
影に潜る……専門家でないから断定はできない。
だが、闇属性の魔法タイプではなかろうか。
「じゃあ遠慮なく。アルヴァロが出迎えに来たってことは、終点はここでいいのね? 気が済んだなら、ウチの子たちを返して欲しいんだけど」
地に落ちた影からスウっと上に伸びて、アルヴァロの姿が顕現する。
透けてもおらず、本物だと信じそうになるが、断定は禁物だ。
レオノールは探る目つきでアルヴァロの様子を注視する。
「……それは、分かっていて私の気を惹いているのかな? なかなか、可愛らしいところがあるじゃないか、レオノール」
「そんなわけないでしょ。囚われの騎士団を解放して欲しければノーキエに来いと言ったのはアルヴァロ、アンタよ」
クククッと愉快そうに笑うと、アルヴァロは足を一歩踏み出した。
足元に滲んでいた影が収縮し、踵は完全に地面から離れる。
レオノールは完全に馬を停止させた。
いつでも動けるように、爪先を鐙からそっと外す。
「なるほど。はっきりと言葉が欲しいと、そういうことか。……それは気が利かず済まなかった」
警戒は緩めずに動向を見守る。
どの道アルヴァロが騎士団を解放するまで、レオノールの任務は終わらない。
しかし、何事を起こすでもなく、アルヴァロはゆったりとした足取りでレオノールのすぐ傍まで歩み寄った。
そのまま優雅な仕草で、馬の足元で地に膝をつく。恭しく、片腕を差し伸べると、そのままレオノールを見上げた。
「レオノール。私は其方が欲しい。今すぐに抱き寄せ、思うがままに弄びたい。その願いを叶えるためにーー其方をこの地に呼び寄せたのだ」
遮るもののない、丈の短い草が茂る丘陵と、背後に浮かぶ白亜の城壁は、何とも言えぬ美しい景色だ。
そんな爽やかな空気の中で、アルヴァロは堂々と欲望を口にした。
外側だけは綺羅綺羅しい、王子然とした振る舞いだ。
「……はァ? 想像より数倍、どうかしてる。……求婚するならまだしも」
当然、その手を取る気はない。
レオノールはあまりにも身勝手な妄言に、ゾッとする。
全身に怖気が走ると、聡い馬は主人の気配を感じ取り、じりりと後退した。
「遠回しに言ってもわからないのだろう? 私も、無駄は嫌いな質だ。これから其方は私に犯され、孕まされる。そうして我々は夫婦となり、力を合わせてこの世界を安泰に治めるのだ。嬉しいだろう?」
侮蔑の眼差しを向けているにも拘わらず、アルヴァロは変わらず勝ち誇ったような、余裕の笑みを浮かべていた。
レオノールは片眉を吊り上げ、口元だけを歪めたつもりだった。
自分を護衛していた騎士団を捕え、クラウディオに心労を負わせ、レオノールには無理難題を押し付けた。
腹立ちを押して駆けつけたのに、ここへ来てこのセクハラ発言だ。
我慢ならずに、奥歯を噛み締めた。
クラウディオに指摘されて、アルヴァロの目的を予測していたものの、怒りで胃が捻じ切れそうになる。
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