「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚

きぬがやあきら

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王都直前の戦闘

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「……随分と、安く見てくれてんのね。……この勇者わたしを……!」

「おや、何を怒る? 其方と同じだ」

 言葉の意味はよく理解していたつもりだ。

「其方も同じようにクラウディオに婚姻を求めたろう」

 王妃を始め、レオノールの婚姻を認めた誰もが、それを望んでいた。

 レオノールが王子クラウディオの子をその胎に宿すことを。

 だがいざ、その指摘を正面から受けると、レオノールの胸はザックリ、音を立てて抉られた。

 自分がアルヴァロに抱いた嫌悪が、そのままそっくり返って突き刺さる。

 クラウディオの嫌悪をまざまざと知って、レオノールは青ざめた。

 あの日レオノールを拒絶したクラウディオの、苦々しい表情が浮かび上がる。



『……俺に愛まで望むとは、強欲な女め』



(ちがう、……そんなことを強要したんじゃない) 

「同じだろう。耳障り良く、言葉をすり替えれば満足するのか? ならば望むようにしてやろう。私は其方を愛している、だから我が妻となれ、レオノール」

 アルヴァロは微塵も揺るがず、むしろ笑みを深めながら立ち上がった。

 レオノールの手を取ろうと、再び右手を伸ばす。

 アルヴァロの主張は詭弁だと感じる。

 なのにレオノールはどこかでその主張を信じ始めていた。

 レオノールの行動は、言葉と本心を美しく飾っただけで、アルヴァロと同質なのだろうか。

(違うよね……? だって、今はクラウディオ様も私のことを)

「その通りだとも。人の心は変化する。だから今其方が私を嫌悪していても何の問題もない。我が妻となれば、時と共に私を愛するようになる」

 ひたり。

 得体の知れない大きな闇が、レオノールを飲み込まんと忍び寄る。

「……ぁ」

 伸ばされた手に、つい気を取られた。

 この世界で最も油断してはいけない相手に対して、刹那の油断を晒す。

 手袋越しに掴まれた左手首に、強烈な冷気を感じた。

 ハッとして手を振り払おうとするも、左半身がガクッと重くなる。

「だから、恐れることはない。ほら、何もかも全てを預ければ良い」

「っは、く……ッ!」

 同時にどっ、と頭の中に黒い靄が入り込んできて、レオノールはようやく精神干渉を受けている事に気がついた。

 微量の魔力では気づかなかったが、感知した時点から身体が防御反応を起こす。

 レオノールは自身の左手で胸元を抑え、浅く呼吸を繰り返した。

 足下が見えなくなるまで闇に包まれる。

 その隙間からちらりと目を上げると、アルヴァロの満面の笑みが目に映った。

「ぐっ、……はぁ、は……っ! やっぱり、闇の魔法……!」

「抵抗するな。身を委ねれば楽だぞ」

 冷えた液体が身体に浸透するようで、気味が悪い。

「くっそ……う!」

 レオノールは唸りを上げ、左手の小指を噛みちぎらんと強く歯を立てた。

 痛みを感じるよりも早く、バチィッ、と皮膚が裂ける感触がある。

 一瞬の激痛で、強引に現実を引き戻す。
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