5 / 140
選定式
4
しおりを挟む
やがて、最後の一人が壇上に上がると、神官は手元の羊皮紙を読み上げていく。
「生年月日1072年4月13日、14歳……出身地エルドール領」
淡々と読み上げられるその声さえ遠く聞こえるようだ。
(ああ……)
オリヴィエの胸が、絶望で押し潰されそうになる。
「それでは、判定を」
神官が告げた瞬間、オリヴィエは息を呑み込んだ。
「判定は〝変化なし”。これを以て、第19回の聖女選定式を終了といたします」
神官の判定は、〝変化なし”――つまり、この場には聖女となる女性はいない。
オリヴィエは崩れ落ちそうになった。
しかし、そんなオリヴィエを支える手があった。
シャルルだ。彼はオリヴィエの視界を聖女像から遮るように抱きしめた。
「お疲れ様、オリヴィエ。何かの間違いかもしれん。先ずは何か、美味いものを食べて帰ろう」
シャルルはオリヴィエを労わるように、背中を撫でた。
(そうよ……きっと、何かの間違いよ)
何かの間違いなら、証拠が欲しい。だが、何度目をこすっても景色は変わらない。
オリヴィエには絶望だけが残された。
2人は神官の見送りを受けて聖堂を出た。
広場に出ると、大勢の人が待っていた。皆、聖女選定の儀を見に集まっていた。
「おい、あの子じゃないのか?」
「しかし、衣は変化してないのよ――」
口々に噂する声を締めだすように耳を塞ぎながら、オリヴィエはシャルルに連れられて馬車に乗り込んだ。
悪い夢なら、早く覚めて欲しい。
◆◆◆◆◆
「オリヴィエ、着いたぞ」
「あ……」
物思いに沈んでいて、今自分が何処にいるのかも気付かなかった。
深い眠りから覚めたように、オリヴィエは瞬きをした。
いつの間にか、馬車は屋敷の前に到着していた。
シャルルが、オリヴィエの肩を優しく撫でる。
「疲れただろう?さあ、部屋に行こう」
オリヴィエを労わるように、馬車から降ろすと、手を引いて屋敷に入っていく。
けれどその手も足も重くて仕方がない。足取りも覚束なかったのだろう。
オリヴィエは階段を上る途中で、足を滑らせた。
「あ……」
踏みとどまろうとしたが、そのまま階下へと滑り落ちていった。
「オリヴィエ!?」
「お嬢様!」
シャルルと侍女のミユが同時に声を上げた。
だが、咄嗟に手すりを掴んでいたため、大事には至らない。
だが、つるつると1階まで降りきると、そのまま床に尻餅を搗いた。
(私ったら……何やってるのかしら)
すぐに立ち上がろうとしたが、身体が動かなかった。
いや、動きたくなかったのかもしれない。足も手も、鉛のように重かった。
シャルルはすぐさま階段を駆け下りてきた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
シャルルが差し出した手を、オリヴィエは掴んだ。
ゆっくりとオリヴィエを立ち上がらせた。
「生年月日1072年4月13日、14歳……出身地エルドール領」
淡々と読み上げられるその声さえ遠く聞こえるようだ。
(ああ……)
オリヴィエの胸が、絶望で押し潰されそうになる。
「それでは、判定を」
神官が告げた瞬間、オリヴィエは息を呑み込んだ。
「判定は〝変化なし”。これを以て、第19回の聖女選定式を終了といたします」
神官の判定は、〝変化なし”――つまり、この場には聖女となる女性はいない。
オリヴィエは崩れ落ちそうになった。
しかし、そんなオリヴィエを支える手があった。
シャルルだ。彼はオリヴィエの視界を聖女像から遮るように抱きしめた。
「お疲れ様、オリヴィエ。何かの間違いかもしれん。先ずは何か、美味いものを食べて帰ろう」
シャルルはオリヴィエを労わるように、背中を撫でた。
(そうよ……きっと、何かの間違いよ)
何かの間違いなら、証拠が欲しい。だが、何度目をこすっても景色は変わらない。
オリヴィエには絶望だけが残された。
2人は神官の見送りを受けて聖堂を出た。
広場に出ると、大勢の人が待っていた。皆、聖女選定の儀を見に集まっていた。
「おい、あの子じゃないのか?」
「しかし、衣は変化してないのよ――」
口々に噂する声を締めだすように耳を塞ぎながら、オリヴィエはシャルルに連れられて馬車に乗り込んだ。
悪い夢なら、早く覚めて欲しい。
◆◆◆◆◆
「オリヴィエ、着いたぞ」
「あ……」
物思いに沈んでいて、今自分が何処にいるのかも気付かなかった。
深い眠りから覚めたように、オリヴィエは瞬きをした。
いつの間にか、馬車は屋敷の前に到着していた。
シャルルが、オリヴィエの肩を優しく撫でる。
「疲れただろう?さあ、部屋に行こう」
オリヴィエを労わるように、馬車から降ろすと、手を引いて屋敷に入っていく。
けれどその手も足も重くて仕方がない。足取りも覚束なかったのだろう。
オリヴィエは階段を上る途中で、足を滑らせた。
「あ……」
踏みとどまろうとしたが、そのまま階下へと滑り落ちていった。
「オリヴィエ!?」
「お嬢様!」
シャルルと侍女のミユが同時に声を上げた。
だが、咄嗟に手すりを掴んでいたため、大事には至らない。
だが、つるつると1階まで降りきると、そのまま床に尻餅を搗いた。
(私ったら……何やってるのかしら)
すぐに立ち上がろうとしたが、身体が動かなかった。
いや、動きたくなかったのかもしれない。足も手も、鉛のように重かった。
シャルルはすぐさま階段を駆け下りてきた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
シャルルが差し出した手を、オリヴィエは掴んだ。
ゆっくりとオリヴィエを立ち上がらせた。
358
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜
くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。
味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。
――けれど、彼らは知らなかった。
彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。
すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、
復讐ではなく「関わらない」という選択。
だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
一年だけの夫婦でも私は幸せでした。
クロユキ
恋愛
騎士のブライドと結婚をしたフローズンは夫がまだ婚約者だった姉を今でも想っている事を知っていた。
フローズンとブライドは政略結婚で結婚式当日にブライドの婚約者だった姉が姿を消してしまった。
フローズンは姉が戻るまでの一年の夫婦の生活が始まった。
更新が不定期です。誤字脱字がありますが宜しくお願いします。
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?
綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。
相手はとある貴族のご令嬢。
確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。
別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。
何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる