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選定式

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「ありがとう、お父様」

「旦那様、お嬢様は……」

「さあ、部屋に行こう。疲れただろう?」

 心配そうに様子を窺うミユを振り返り、シャルルは黙って首を振る。

 オリヴィエは部屋に戻され、早々にベッドに横たえられた。

 今日が聖女の選定式だと、この家の誰もが知っている。

 当然オリヴィエが選ばれると考えて、朝から祝いの支度をしてくれていたくらいだ。

 それが、落胆して帰って来たのだから、何が起きたかはすぐにわかる。

 ミユが淹れてくれた紅茶にも、お茶請けに置かれた好物のクッキーにも、食指が動かない。

 シャルルは、オリヴィエが寝るまで傍にいた。

「あまり気を落とさずにお休み。再審査が叶うかどうか、改めて問い合わせてあげるから」

 彼はそう言い残すと、部屋を出ていった。

(再審査……ねぇ)

 父、シャルル・シルバーモント伯爵が強く再審査を望めば、不可能ではないだろう。

 だが、聖女像の反応が同じなら、結果は覆らない。

 オリヴィエは長い間ずっと、聖女になる日を夢見ていた。

 ルーカスの、この国を担う皇太子の伴侶に相応しくなるために、努力は惜しまなかった。

 令嬢の基本的な嗜みの他にも、語学や歴史、マナーなどを学び、時には護身術の稽古もした。

 今振り返れば、何も確定した未来ではなかった。

 ただ、こうであったなら、と望んだだけの未来だ。

 ルーカスの隣で、幸せな日々を送る。そのはずだったのに――

(こんな形で夢が潰えるなんて……)

 ショックで立ち直れない。

 今の気持ちは、ショックの一言も相応しくない。

 何と例えれば良いだろう。まるで心の中にぽっかり風穴があいたような虚しさが吹き荒れている。

 オリヴィエは横になったまま、窓の外の宵闇を見上げた。

 木々の葉が、夜の風に揺れる。

 遠く、馬のいななきが聞こえる。

 ……目を閉じているだけで、眠れていたのかは分からない。

 闇が溶け、再び朝がやって来た。

 それでもやはり、何もする気が起きなかった。

 シャルルと母、ミレイユが代わる代わる様子を見に訪ねてくれるが、無気力は変わらない。

(私、これからどうしたら良いかしら……?)

 選定に漏れたのだから、聖女にはなれない。

 するとこのまま、ルーカスとの再会は叶わないのだろうか。

 聖女でなく、普通の令嬢として生きるのなら、そろそろ社交界へのデビューへ向けて準備を始める。

 そうして家柄の相応しい男性と家庭を持ち、母になる……。

 ぽろぽろっと涙が零れると、堰が切れたようにとめどなく流れ落ちた。

「お嬢様! オリヴィエ様……!」

 部屋の掃除に訪れていたミユが、見かねてオリヴィエを抱きしめてくれた。

「まだ、決まったわけではありませんわ」

 ミユは懸命に慰めてくれる。
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