王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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アシュレイの闇

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「もういいのか?」

 アシュレイが身じろぐと、アルダの声が降ってきた。

 抱き締めていてくれた腕が、ゆっくりほどける。

「ごめんなさい。取り乱して……」

 名残惜しいなんて、感じてはいけない。

 アシュレイは未練を断ち切るように、顔を上げた。

 晒したのは取り乱すどころではない醜態だ。

 合わせる顔がないような気もするが、お互い様だろうか?

「悪いのは俺だ。口の中は? 切れていないか?」

 アルダは背を丸めて、そっと口の中を覗き込む。

 その態度は、アシュレイを宥め、包んだ時と寸分も違わない。

 気まずさは残っていたものの、アシュレイもなるべく自然に振舞おうと決めた。

「貴方の指のほうがよっぽどひどい傷になってるわ!」

 唇に指先が触れ、アシュレイはアルダに加えた攻撃を思い出した。

 アルダの手はアシュレイの倍くらいの大きさだ。

 指も長く一回りは太いものの、人差し指と中指の関節にがっつりと歯形が付いている。

 もう血は止まっているが、皮膚が裂け、赤黒く窪んだ傷口が痛々しかった。

「このくらい、なんでもない」

「まずは傷を、綺麗にしましょう。傷付けた私が言うのもおこがましいけど……清潔な布はある?」

「俺のことはいい。お前は怪我をしていないんだな? 腕は?」

「大丈夫。少しも痛くないから」

 これは、少しだけ嘘だ。

 手首をくるりと捻って、無傷をアピールしようとしたら、途中で引っ掛かるような痛みがあった。

 けれど、アシュレイは自分から殴り掛かったのだし、そこは隠し通そう。

 アルダのほうは、指の噛み傷はともかく、腕や身体には損傷がなさそうだった。

 力一杯殴ったのに、良く鍛えられているなと感心する。

「水は外?」

 部屋を見渡すと、隅に水瓶を見つけた。

「なら、自分でやる。お前はトイレに行きたがっていただろう。外へ出て右だ」

「えっ? ああ、そうだけど……」

 唐突な話題を振られて、一瞬戸惑う。

 指摘されてみれば確かに、尿意は自覚できるほど蘇った。

 けれど、この話の流れで「じゃあ」と答えるのも気が引ける。

「時間が経ったから、更に切羽詰まっているだろう? 早く行くといい」

 躊躇っているアシュレイの肩に手を置くと、アルダは器用にアシュレイを回れ右させた。

「今更もじもじするな。さあ」

 アルダは自分の主張が済むと、軽く背中を押した。

 振り向いた時にはもう背を向けて、さっさと水瓶へ歩み寄っていた。

 広いダイニングキッチンのような間取りの端には、簡易なキッチンが備えられている。

 アルダの提案を今無視して、後で行きたいとも言い出しにくい。

 割り切ることにして、アシュレイは指示されたドアから外に出た。
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