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火蓋
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しかし徐々に暗闇に目が慣れると、不鮮明ながら来訪者たちの風貌が明らかになった。
「オイ、そこの御者、止めろ」
御者台のマクシムは、促されて馬を止めた。
「なんだ? アンタたち、いったいどうした?」
「こっちを見ろ」
カンテラの灯りが、ゆっくりと男たちを照らした。
男たちはいずれも、夜陰に溶け込む漆黒の衣装を纏っていた。
先頭の男が馬から降りる。
単なる賊かと思いきや、腰に差した得物には、緻密な紋様が刻まれている。
「私は王宮騎士団の先触れ役だ。とある人物を捜索している。先ずは身分を検める故、被り物を取れ。そして、馬から降りて前に出よ」
(王宮騎士団! 追手だ)
アシュレイは潜めた身を強張らせた。
「騎士団の方がこんな夜半に、誰を探しているんですって? ご覧の通り空荷で、朝市で野菜を仕入れに前乗りする予定なんですよ……」
相手の名乗りが真実なら、マクシムの朋輩だ。
気付かれるのも時間の問題となる。
だが、マクシムは話をはぐらかした。
どう、乗り切るつもりか。
今のうちに箱の影にでも身を伏せるか? 視界は悪いが、幌を捲られても乗り切れるだろうか……。
アシュレイは膝を着き、マクシムの動向を注視した。
「お前の事情などきいてない。いいからまずは顔を見せろ」
王宮騎士団の先触れ役を名乗る男が、マクシムの行手を阻んで、被り布を剥ごうと手を伸ばす。
マクシムは、ツ……と剣の柄に手をかける。
マクシムが剣を握れば、王宮騎士団も剣を抜くだろう。
切り伏せるつもりか!?
一触即発の空気に、アシュレイは息を呑む。
「手配人はアルダシール・フェルドウス王子。お前が良くご存じの人物さ。マクシム・べリングバリ?」
後方に控えていた男は馬上に身を置いたまま呟いた。気取った仕草で懐に手を入れる。
「すまないな。こいつらは、王子付きの騎士、べリングバリ卿の顔も知らない新参者なんだ。用心深いアルダシール王子に与さない者ばかりを急ごしらえで集めたもんでな……俺を除いて」
その男はなにがしかの巻紙を取り出し、闇夜に掲げる――と同時に、もう一つ、反対の手で筒状のものをマクシムに向ける。
「その声、ザイードか……ッ」
パーン
マクシムの声に俄かに殺気が籠ったその時、火薬が破裂するような音が轟いた。
続けてマクシムの体が前方へ、ゆっくりとスローモーションのように傾く。
「べリングバリ卿と刃を交えるほど、俺は自分の腕を過信しちゃいない。悪いが、こちらも命令なんでな」
ザイードと呼ばれた男がマクシム向けた筒状の物体に目を向けると、細くたなびく白い煙が立ち上った。
「オイ、そこの御者、止めろ」
御者台のマクシムは、促されて馬を止めた。
「なんだ? アンタたち、いったいどうした?」
「こっちを見ろ」
カンテラの灯りが、ゆっくりと男たちを照らした。
男たちはいずれも、夜陰に溶け込む漆黒の衣装を纏っていた。
先頭の男が馬から降りる。
単なる賊かと思いきや、腰に差した得物には、緻密な紋様が刻まれている。
「私は王宮騎士団の先触れ役だ。とある人物を捜索している。先ずは身分を検める故、被り物を取れ。そして、馬から降りて前に出よ」
(王宮騎士団! 追手だ)
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「騎士団の方がこんな夜半に、誰を探しているんですって? ご覧の通り空荷で、朝市で野菜を仕入れに前乗りする予定なんですよ……」
相手の名乗りが真実なら、マクシムの朋輩だ。
気付かれるのも時間の問題となる。
だが、マクシムは話をはぐらかした。
どう、乗り切るつもりか。
今のうちに箱の影にでも身を伏せるか? 視界は悪いが、幌を捲られても乗り切れるだろうか……。
アシュレイは膝を着き、マクシムの動向を注視した。
「お前の事情などきいてない。いいからまずは顔を見せろ」
王宮騎士団の先触れ役を名乗る男が、マクシムの行手を阻んで、被り布を剥ごうと手を伸ばす。
マクシムは、ツ……と剣の柄に手をかける。
マクシムが剣を握れば、王宮騎士団も剣を抜くだろう。
切り伏せるつもりか!?
一触即発の空気に、アシュレイは息を呑む。
「手配人はアルダシール・フェルドウス王子。お前が良くご存じの人物さ。マクシム・べリングバリ?」
後方に控えていた男は馬上に身を置いたまま呟いた。気取った仕草で懐に手を入れる。
「すまないな。こいつらは、王子付きの騎士、べリングバリ卿の顔も知らない新参者なんだ。用心深いアルダシール王子に与さない者ばかりを急ごしらえで集めたもんでな……俺を除いて」
その男はなにがしかの巻紙を取り出し、闇夜に掲げる――と同時に、もう一つ、反対の手で筒状のものをマクシムに向ける。
「その声、ザイードか……ッ」
パーン
マクシムの声に俄かに殺気が籠ったその時、火薬が破裂するような音が轟いた。
続けてマクシムの体が前方へ、ゆっくりとスローモーションのように傾く。
「べリングバリ卿と刃を交えるほど、俺は自分の腕を過信しちゃいない。悪いが、こちらも命令なんでな」
ザイードと呼ばれた男がマクシム向けた筒状の物体に目を向けると、細くたなびく白い煙が立ち上った。
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