王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

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火蓋

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 硫黄のような刺激臭で、それが何かを悟る。

 硝煙だ。

(短銃……!? )

「ぐ……っ、うぅっ」

 苦悶の声に、アシュレイは一気に血の気が引いていく。

 しかしマクシムは片腕で身体を支え、敵の接近を許すまいと右手を振り回した。

 俯く顔から、鋭い眼光がアシュレイに向けられる。

 苦悶の表情に、荷台に張り付いた手がカタカタと震え出した。

 俄かに心拍が跳ね上がる。

 衝撃の光景を前にして、アシュレイは恐怖よりも怒りに身を包まれた。

(アイツ、撃った!? いきなり、マクシムさんを……!)

「アルダシール王子の罪状は、国王陛下の第19妃アシュレイ様を不当に連れ去ったこととある。俺は西側に配備されてラッキーだったな。お前が死ぬ前に、一泡吹かせられたんだから」

 ザイードは得意気に銃口にふっと息を吹きかける。

「いいだろう、この銃。王子の捕獲令が降って、特別に支給されたんだ。便利だぜ? 俺のような非力な者たちでも強者を難なく殺せる。難点を挙げるなら弾の装填に時間が掛かるくらいだ。……オイ」

 顎をしゃくると、様子を窺っていた1人が剣を抜く。

 刃に映った灯りに弾かれるように、アシュレイは馬車に積まれた荷箱に飛びついた。

 ザイードの短銃から上る、硝煙の匂いが記憶を呼び覚ました。

 荷箱の中身は、武器類に違いない。

 手探りで留め具を外すと同時に、外ではマクシムの咆哮が上がる。

「ぐ……う、ぅおおおおっ!!」

 次いで、ぶつんと、何かが千切れ飛ぶ音。

 馬が嘶くと、バカッと荒々しい蹄の音が続いて遠ざかる。

「ちぃっ、死にぞこないが。追えッ!」

 マクシムは騎士たちの気を惹くために逃亡を謀った。

 アシュレイは夢中で箱をひっくり返した。

 中身が荷台に転がり出して、ガラガラと音が立った。

「待て、何者か潜んでいる。お前はここに残れ。王女かも知れん、逃がすなよ」

 短い返事と共に、気配が遠ざかる。

 目は頼りにならないから、触覚だけが頼りだ。

 ざっと触れると短剣と長剣、それに混じった異質なフォルムを探り当てる。

 銃だ、と直感したが、弾薬などは台に散らばっていて直ぐに見つからない。

 片手で取り扱える、短剣を鞘から抜いて、幌を固定する紐を切った。

 長方形の構造で、4辺あるうちの2辺、2か所を切り落とす。

 先ほどマクシムが解いた分と併せて、2辺の布が浮き上がる。

 当たり所にもよるが、マクシムは重傷だ。

 2人が逃げおおすためには3人を確実に戦闘不能に追い込むしかない。

 しかも、速やかに。

 アシュレイは一度目を瞑り、細く息を吐いた。

 幌に左頬を張り付けるようにして、隙間から敵の気配を探る。

 先発隊を名乗る騎士は、火を移したらしく手に松明を掲げていた。
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