99 / 223
代償
2
しおりを挟む
「ここを、お願い。ちょっと、行ってくるわ」
努めて明るい声を出して、アシュレイは踵を返した。
後ろめたい気持ちが一瞬だけ、湧き上がった。
アシュレイは避難民の誘導に充てられた人員だ。
誰にどう咎められたわけでもないのに、アシュレイは後ろを振り返らず駆け出していた。
(ごめんなさい。でも……やっぱり、ここで待ってるなんてできない……!)
武器庫となっている天幕から、剣と弓矢を拝借し、マントを深く被る。
この格好なら誰もアシュレイとは気づかないはず。
応急処置用の救護鞄を背負って、アシュレイは街の中央に向かう。
(首尾よく行っていれば、半分は城内の制圧が済んでるはず……よね。怪我人が出ているかもしれないし、役に立てるかも)
理由を半ば、無理矢理にこじつけて、城門を目指す。
何もなければそれでいい。
城門へ近づくと、俄かに騒がしく感じられた。
怒号と悲鳴、それに折り重なるような咳が混ざり合う。
催涙弾の粉塵を警戒し、マントの襟を立て、口元を覆った。
城門は破られ、城壁を警備していた王国軍の騎士はあらかた拘束されている。
中には負傷し、流血する者も見られたが、大きな怪我ではなさそうだ。
さっと通り抜け、城内へ急ぐ。
しかし、内部は外に比べ、酷い有様だった。
「これは……」
屋内は瓦礫と粉塵が舞い、床や壁の石材も崩れ、ほぼ剥き出しになっている。
屋内にもかかわらず、発砲した兵士がいるらしい。
この分では建物の被害は相当に大きいだろう。
屋内である分、反響も大きく、音の出どころは判別し辛い。
タァァーーン
何処へ向かうか。アシュレイが思案しているうちにも、どこかで銃声が鳴り響く。
(もし、まだ城内で戦闘が続いているなら……)
アシュレイは慎重に歩を進めた。
忙しなく走り回る足音が接近し、金物が打ち合う音が混ざり合う。少し先の十字路から、2人の騎士が現れた。
「っ、貴様! 何者だ!?」
アシュレイの格好を見て、1人が声を上げる。
もう1人はまだ粉塵で視界が悪いらしく、目を凝らすように目を細めている。
アシュレイは走り寄ると、騎士たちの間をすり抜けた。
「待てっ! ……うっ」
2人の騎士がアシュレイを引き留めようと追ってきた。
すり抜け様に確認したが、いずれもアルダシールの率いるギルフォードの軍兵ではない。
剣の柄を握り締める。
迫ってきた1人を、振り向きざまの左上段で打ち払い、右から斬りつけてきたもう1人の剣を屈んで避け、その勢いのまま足を払う。
「悪く思わないで……っ!」
倒れた膝を目掛けて、鞘ごと剣を振り下ろす。
「ぐあ~~ッ」
痛みに堪らず悲鳴を上げて、騎士はのたうち回った。
「き、貴様……ッ、ぐうぅ!」
返す一太刀で、もう1人の膝を砕く。
「うあ……!」
動きを止めるだけなら、脛を折れば充分だった。
しかし、騎士たちはブーツを履いているため、やむを得ない。
1人の騎士は気丈にも、地を這うようにして抜き身を振り回した。
だが、アシュレイは倒れた2人を飛び越えて、素早くその場から離脱する。
努めて明るい声を出して、アシュレイは踵を返した。
後ろめたい気持ちが一瞬だけ、湧き上がった。
アシュレイは避難民の誘導に充てられた人員だ。
誰にどう咎められたわけでもないのに、アシュレイは後ろを振り返らず駆け出していた。
(ごめんなさい。でも……やっぱり、ここで待ってるなんてできない……!)
武器庫となっている天幕から、剣と弓矢を拝借し、マントを深く被る。
この格好なら誰もアシュレイとは気づかないはず。
応急処置用の救護鞄を背負って、アシュレイは街の中央に向かう。
(首尾よく行っていれば、半分は城内の制圧が済んでるはず……よね。怪我人が出ているかもしれないし、役に立てるかも)
理由を半ば、無理矢理にこじつけて、城門を目指す。
何もなければそれでいい。
城門へ近づくと、俄かに騒がしく感じられた。
怒号と悲鳴、それに折り重なるような咳が混ざり合う。
催涙弾の粉塵を警戒し、マントの襟を立て、口元を覆った。
城門は破られ、城壁を警備していた王国軍の騎士はあらかた拘束されている。
中には負傷し、流血する者も見られたが、大きな怪我ではなさそうだ。
さっと通り抜け、城内へ急ぐ。
しかし、内部は外に比べ、酷い有様だった。
「これは……」
屋内は瓦礫と粉塵が舞い、床や壁の石材も崩れ、ほぼ剥き出しになっている。
屋内にもかかわらず、発砲した兵士がいるらしい。
この分では建物の被害は相当に大きいだろう。
屋内である分、反響も大きく、音の出どころは判別し辛い。
タァァーーン
何処へ向かうか。アシュレイが思案しているうちにも、どこかで銃声が鳴り響く。
(もし、まだ城内で戦闘が続いているなら……)
アシュレイは慎重に歩を進めた。
忙しなく走り回る足音が接近し、金物が打ち合う音が混ざり合う。少し先の十字路から、2人の騎士が現れた。
「っ、貴様! 何者だ!?」
アシュレイの格好を見て、1人が声を上げる。
もう1人はまだ粉塵で視界が悪いらしく、目を凝らすように目を細めている。
アシュレイは走り寄ると、騎士たちの間をすり抜けた。
「待てっ! ……うっ」
2人の騎士がアシュレイを引き留めようと追ってきた。
すり抜け様に確認したが、いずれもアルダシールの率いるギルフォードの軍兵ではない。
剣の柄を握り締める。
迫ってきた1人を、振り向きざまの左上段で打ち払い、右から斬りつけてきたもう1人の剣を屈んで避け、その勢いのまま足を払う。
「悪く思わないで……っ!」
倒れた膝を目掛けて、鞘ごと剣を振り下ろす。
「ぐあ~~ッ」
痛みに堪らず悲鳴を上げて、騎士はのたうち回った。
「き、貴様……ッ、ぐうぅ!」
返す一太刀で、もう1人の膝を砕く。
「うあ……!」
動きを止めるだけなら、脛を折れば充分だった。
しかし、騎士たちはブーツを履いているため、やむを得ない。
1人の騎士は気丈にも、地を這うようにして抜き身を振り回した。
だが、アシュレイは倒れた2人を飛び越えて、素早くその場から離脱する。
290
あなたにおすすめの小説
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。
ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。
毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。
【完結】財務大臣が『経済の話だけ』と毎日訪ねてきます。婚約破棄後、前世の経営知識で辺境を改革したら、こんな溺愛が始まりました
チャビューヘ
恋愛
三度目の婚約破棄で、ようやく自由を手に入れた。
王太子から「冷酷で心がない」と糾弾され、大広間で婚約を破棄されたエリナ。しかし彼女は泣かない。なぜなら、これは三度目のループだから。前世は過労死した41歳の経営コンサル。一周目は泣き崩れ、二周目は慌てふためいた。でも三周目の今回は違う。「ありがとうございます、殿下。これで自由になれます」──優雅に微笑み、誰も予想しない行動に出る。
エリナが選んだのは、誰も欲しがらない辺境の荒れ地。人口わずか4500人、干ばつで荒廃した最悪の土地を、金貨100枚で買い取った。貴族たちは嘲笑う。「追放された令嬢が、荒れ地で野垂れ死にするだけだ」と。
だが、彼らは知らない。エリナが前世で培った、経営コンサルタントとしての圧倒的な知識を。三圃式農業、ブランド戦略、人材採用術、物流システム──現代日本の経営ノウハウを、中世ファンタジー世界で全力展開。わずか半年で領地は緑に変わり、住民たちは希望を取り戻す。一年後には人口は倍増、財政は奇跡の黒字化。「辺境の奇跡」として王国中で噂になり始めた。
そして現れたのが、王国一の冷徹さで知られる財務大臣、カイル・ヴェルナー。氷のような視線、容赦ない数字の追及。貴族たちが震え上がる彼が、なぜか月に一度の「定期視察」を提案してくる。そして月一が週一になり、やがて──「経済政策の話がしたいだけです」という言い訳とともに、毎日のように訪ねてくるようになった。
夜遅くまで経済理論を語り合い、気づけば星空の下で二人きり。「あなたは、何者なんだ」と問う彼の瞳には、もはや氷の冷たさはない。部下たちは囁く。「閣下、またフェルゼン領ですか」。本人は「重要案件だ」と言い張るが、その頬は微かに赤い。
一方、エリナを捨てた元婚約者の王太子リオンは、彼女の成功を知って後悔に苛まれる。「俺は…取り返しのつかないことを」。かつてエリナを馬鹿にした貴族たちも掌を返し、継母は「戻ってきて」と懇願する。だがエリナは冷静に微笑むだけ。「もう、過去のことです」。ざまあみろ、ではなく──もっと前を向いている。
知的で戦略的な領地経営。冷徹な財務大臣の不器用な溺愛。そして、自分を捨てた者たちへの圧倒的な「ざまぁ」。三周目だからこそ完璧に描ける、逆転と成功の物語。
経済政策で国を変え、本物の愛を見つける──これは、消去法で選ばれただけの婚約者が、自らの知恵と努力で勝ち取った、最高の人生逆転ストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる