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代償
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行き当たりばったりで格闘するのは得策ではない。
とはいえ、心当たりはない。
どうにか、できるだけ人気のない場所から全体の様子を探れないものかと、踊り場へ続く螺旋階段を駆け上がった。
西向きの窓から煙が上がっている塔が見て取れた。
焦燥を抑えてじっと耳を澄ますと、四方から斬撃音が聞こえる。
石造りの堅牢な建物故に、反響は大きく出処は掴めない。
その中には怒声と……悲鳴が混じっている。
甲高く、絹を引き裂くような……女性の悲鳴だ。
見せてもらった城内の見取り図では、西の塔に妃たちの住まう後宮が据えてあった。
もう兵士たちは後宮まで、到達しているのか?
窓枠にしがみつくようにして身を乗り出した。
「あ……っ」
首を突き出したアシュレイの目に、空を横切る巨大な影が映る。
(あれは……、セイカー!?)
鳥と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、羽搏きもせずに滑空する、際の流れるようなフォルムは、鷹の特徴そのものだ。
気高く空を舞う、威厳溢れるシルエットはアルダシールのセイカーに違いない。
一瞬の閃きから、アシュレイは直感した。
セイカーは今、アルダシールの元に向かっている。
目一杯首を伸ばして、その姿を追った。
(この塔の……真上!?)
一瞬、塔の上部が光ったように錯覚する。
見上げれば、窓を突き破って炎が噴き出すところだった。
「アルダ!!」
アシュレイは思わず叫び声を上げる。
アルダシールが何処にいるのか、何の確信もない。
けれどアシュレイは導かれるように、塔の階段を駆け上がった。
***
カッカッカッ
戦闘用の革靴が石階を叩く。
アルダシールは単身、塔の頂上を目指していた。
我ながら、愚かだと、自分でもわかっていた。
城内に侵入して、軍は2つに別れた。
本塔の1階は制圧したが、城内は広い。
政を担う大臣を始め、役人たちが逃げ込んだであろう後宮への通路は、封鎖するのに時間がかかっていた。
有事の際に要人が脱出するための隠し通路も、当然ながらアルダシールは把握している。
万一にもタヒルを逃す事のないよう、戦闘前に出口も封鎖していた。
第一の目標は、タヒル王妃を含む中心人物の身柄の確保だ。
城内の何者においても、抵抗なく降る者は傷付けず、捕縛するよう達してある。
使用人のほとんどは投降した。
首謀者一派はどう足掻いても逃さぬ構えだ。
次向かうべきは北の塔、それなのにアルダシールは1人、宮殿の最奥を目指した。
『私の偽りのない心の証として、約束の刻限に、父を謁見の間に連れて参ります』
捨て置けば良いと知っていた。
しかし、ザイードを介したキュロスのあの言葉が、頭をちらついて離れなかった。
とはいえ、心当たりはない。
どうにか、できるだけ人気のない場所から全体の様子を探れないものかと、踊り場へ続く螺旋階段を駆け上がった。
西向きの窓から煙が上がっている塔が見て取れた。
焦燥を抑えてじっと耳を澄ますと、四方から斬撃音が聞こえる。
石造りの堅牢な建物故に、反響は大きく出処は掴めない。
その中には怒声と……悲鳴が混じっている。
甲高く、絹を引き裂くような……女性の悲鳴だ。
見せてもらった城内の見取り図では、西の塔に妃たちの住まう後宮が据えてあった。
もう兵士たちは後宮まで、到達しているのか?
窓枠にしがみつくようにして身を乗り出した。
「あ……っ」
首を突き出したアシュレイの目に、空を横切る巨大な影が映る。
(あれは……、セイカー!?)
鳥と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、羽搏きもせずに滑空する、際の流れるようなフォルムは、鷹の特徴そのものだ。
気高く空を舞う、威厳溢れるシルエットはアルダシールのセイカーに違いない。
一瞬の閃きから、アシュレイは直感した。
セイカーは今、アルダシールの元に向かっている。
目一杯首を伸ばして、その姿を追った。
(この塔の……真上!?)
一瞬、塔の上部が光ったように錯覚する。
見上げれば、窓を突き破って炎が噴き出すところだった。
「アルダ!!」
アシュレイは思わず叫び声を上げる。
アルダシールが何処にいるのか、何の確信もない。
けれどアシュレイは導かれるように、塔の階段を駆け上がった。
***
カッカッカッ
戦闘用の革靴が石階を叩く。
アルダシールは単身、塔の頂上を目指していた。
我ながら、愚かだと、自分でもわかっていた。
城内に侵入して、軍は2つに別れた。
本塔の1階は制圧したが、城内は広い。
政を担う大臣を始め、役人たちが逃げ込んだであろう後宮への通路は、封鎖するのに時間がかかっていた。
有事の際に要人が脱出するための隠し通路も、当然ながらアルダシールは把握している。
万一にもタヒルを逃す事のないよう、戦闘前に出口も封鎖していた。
第一の目標は、タヒル王妃を含む中心人物の身柄の確保だ。
城内の何者においても、抵抗なく降る者は傷付けず、捕縛するよう達してある。
使用人のほとんどは投降した。
首謀者一派はどう足掻いても逃さぬ構えだ。
次向かうべきは北の塔、それなのにアルダシールは1人、宮殿の最奥を目指した。
『私の偽りのない心の証として、約束の刻限に、父を謁見の間に連れて参ります』
捨て置けば良いと知っていた。
しかし、ザイードを介したキュロスのあの言葉が、頭をちらついて離れなかった。
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