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代償
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「ここを、お願い。ちょっと、行ってくるわ」
努めて明るい声を出して、アシュレイは踵を返した。
後ろめたい気持ちが一瞬だけ、湧き上がった。
アシュレイは避難民の誘導に充てられた人員だ。
誰にどう咎められたわけでもないのに、アシュレイは後ろを振り返らず駆け出していた。
(ごめんなさい。でも……やっぱり、ここで待ってるなんてできない……!)
武器庫となっている天幕から、剣と弓矢を拝借し、マントを深く被る。
この格好なら誰もアシュレイとは気づかないはず。
応急処置用の救護鞄を背負って、アシュレイは街の中央に向かう。
(首尾よく行っていれば、半分は城内の制圧が済んでるはず……よね。怪我人が出ているかもしれないし、役に立てるかも)
理由を半ば、無理矢理にこじつけて、城門を目指す。
何もなければそれでいい。
城門へ近づくと、俄かに騒がしく感じられた。
怒号と悲鳴、それに折り重なるような咳が混ざり合う。
催涙弾の粉塵を警戒し、マントの襟を立て、口元を覆った。
城門は破られ、城壁を警備していた王国軍の騎士はあらかた拘束されている。
中には負傷し、流血する者も見られたが、大きな怪我ではなさそうだ。
さっと通り抜け、城内へ急ぐ。
しかし、内部は外に比べ、酷い有様だった。
「これは……」
屋内は瓦礫と粉塵が舞い、床や壁の石材も崩れ、ほぼ剥き出しになっている。
屋内にもかかわらず、発砲した兵士がいるらしい。
この分では建物の被害は相当に大きいだろう。
屋内である分、反響も大きく、音の出どころは判別し辛い。
タァァーーン
何処へ向かうか。アシュレイが思案しているうちにも、どこかで銃声が鳴り響く。
(もし、まだ城内で戦闘が続いているなら……)
アシュレイは慎重に歩を進めた。
忙しなく走り回る足音が接近し、金物が打ち合う音が混ざり合う。少し先の十字路から、2人の騎士が現れた。
「っ、貴様! 何者だ!?」
アシュレイの格好を見て、1人が声を上げる。
もう1人はまだ粉塵で視界が悪いらしく、目を凝らすように目を細めている。
アシュレイは走り寄ると、騎士たちの間をすり抜けた。
「待てっ! ……うっ」
2人の騎士がアシュレイを引き留めようと追ってきた。
すり抜け様に確認したが、いずれもアルダシールの率いるギルフォードの軍兵ではない。
剣の柄を握り締める。
迫ってきた1人を、振り向きざまの左上段で打ち払い、右から斬りつけてきたもう1人の剣を屈んで避け、その勢いのまま足を払う。
「悪く思わないで……っ!」
倒れた膝を目掛けて、鞘ごと剣を振り下ろす。
「ぐあ~~ッ」
痛みに堪らず悲鳴を上げて、騎士はのたうち回った。
「き、貴様……ッ、ぐうぅ!」
返す一太刀で、もう1人の膝を砕く。
「うあ……!」
動きを止めるだけなら、脛を折れば充分だった。
しかし、騎士たちはブーツを履いているため、やむを得ない。
1人の騎士は気丈にも、地を這うようにして抜き身を振り回した。
だが、アシュレイは倒れた2人を飛び越えて、素早くその場から離脱する。
努めて明るい声を出して、アシュレイは踵を返した。
後ろめたい気持ちが一瞬だけ、湧き上がった。
アシュレイは避難民の誘導に充てられた人員だ。
誰にどう咎められたわけでもないのに、アシュレイは後ろを振り返らず駆け出していた。
(ごめんなさい。でも……やっぱり、ここで待ってるなんてできない……!)
武器庫となっている天幕から、剣と弓矢を拝借し、マントを深く被る。
この格好なら誰もアシュレイとは気づかないはず。
応急処置用の救護鞄を背負って、アシュレイは街の中央に向かう。
(首尾よく行っていれば、半分は城内の制圧が済んでるはず……よね。怪我人が出ているかもしれないし、役に立てるかも)
理由を半ば、無理矢理にこじつけて、城門を目指す。
何もなければそれでいい。
城門へ近づくと、俄かに騒がしく感じられた。
怒号と悲鳴、それに折り重なるような咳が混ざり合う。
催涙弾の粉塵を警戒し、マントの襟を立て、口元を覆った。
城門は破られ、城壁を警備していた王国軍の騎士はあらかた拘束されている。
中には負傷し、流血する者も見られたが、大きな怪我ではなさそうだ。
さっと通り抜け、城内へ急ぐ。
しかし、内部は外に比べ、酷い有様だった。
「これは……」
屋内は瓦礫と粉塵が舞い、床や壁の石材も崩れ、ほぼ剥き出しになっている。
屋内にもかかわらず、発砲した兵士がいるらしい。
この分では建物の被害は相当に大きいだろう。
屋内である分、反響も大きく、音の出どころは判別し辛い。
タァァーーン
何処へ向かうか。アシュレイが思案しているうちにも、どこかで銃声が鳴り響く。
(もし、まだ城内で戦闘が続いているなら……)
アシュレイは慎重に歩を進めた。
忙しなく走り回る足音が接近し、金物が打ち合う音が混ざり合う。少し先の十字路から、2人の騎士が現れた。
「っ、貴様! 何者だ!?」
アシュレイの格好を見て、1人が声を上げる。
もう1人はまだ粉塵で視界が悪いらしく、目を凝らすように目を細めている。
アシュレイは走り寄ると、騎士たちの間をすり抜けた。
「待てっ! ……うっ」
2人の騎士がアシュレイを引き留めようと追ってきた。
すり抜け様に確認したが、いずれもアルダシールの率いるギルフォードの軍兵ではない。
剣の柄を握り締める。
迫ってきた1人を、振り向きざまの左上段で打ち払い、右から斬りつけてきたもう1人の剣を屈んで避け、その勢いのまま足を払う。
「悪く思わないで……っ!」
倒れた膝を目掛けて、鞘ごと剣を振り下ろす。
「ぐあ~~ッ」
痛みに堪らず悲鳴を上げて、騎士はのたうち回った。
「き、貴様……ッ、ぐうぅ!」
返す一太刀で、もう1人の膝を砕く。
「うあ……!」
動きを止めるだけなら、脛を折れば充分だった。
しかし、騎士たちはブーツを履いているため、やむを得ない。
1人の騎士は気丈にも、地を這うようにして抜き身を振り回した。
だが、アシュレイは倒れた2人を飛び越えて、素早くその場から離脱する。
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