100 / 223
代償
3
しおりを挟む
行き当たりばったりで格闘するのは得策ではない。
とはいえ、心当たりはない。
どうにか、できるだけ人気のない場所から全体の様子を探れないものかと、踊り場へ続く螺旋階段を駆け上がった。
西向きの窓から煙が上がっている塔が見て取れた。
焦燥を抑えてじっと耳を澄ますと、四方から斬撃音が聞こえる。
石造りの堅牢な建物故に、反響は大きく出処は掴めない。
その中には怒声と……悲鳴が混じっている。
甲高く、絹を引き裂くような……女性の悲鳴だ。
見せてもらった城内の見取り図では、西の塔に妃たちの住まう後宮が据えてあった。
もう兵士たちは後宮まで、到達しているのか?
窓枠にしがみつくようにして身を乗り出した。
「あ……っ」
首を突き出したアシュレイの目に、空を横切る巨大な影が映る。
(あれは……、セイカー!?)
鳥と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、羽搏きもせずに滑空する、際の流れるようなフォルムは、鷹の特徴そのものだ。
気高く空を舞う、威厳溢れるシルエットはアルダシールのセイカーに違いない。
一瞬の閃きから、アシュレイは直感した。
セイカーは今、アルダシールの元に向かっている。
目一杯首を伸ばして、その姿を追った。
(この塔の……真上!?)
一瞬、塔の上部が光ったように錯覚する。
見上げれば、窓を突き破って炎が噴き出すところだった。
「アルダ!!」
アシュレイは思わず叫び声を上げる。
アルダシールが何処にいるのか、何の確信もない。
けれどアシュレイは導かれるように、塔の階段を駆け上がった。
***
カッカッカッ
戦闘用の革靴が石階を叩く。
アルダシールは単身、塔の頂上を目指していた。
我ながら、愚かだと、自分でもわかっていた。
城内に侵入して、軍は2つに別れた。
本塔の1階は制圧したが、城内は広い。
政を担う大臣を始め、役人たちが逃げ込んだであろう後宮への通路は、封鎖するのに時間がかかっていた。
有事の際に要人が脱出するための隠し通路も、当然ながらアルダシールは把握している。
万一にもタヒルを逃す事のないよう、戦闘前に出口も封鎖していた。
第一の目標は、タヒル王妃を含む中心人物の身柄の確保だ。
城内の何者においても、抵抗なく降る者は傷付けず、捕縛するよう達してある。
使用人のほとんどは投降した。
首謀者一派はどう足掻いても逃さぬ構えだ。
次向かうべきは北の塔、それなのにアルダシールは1人、宮殿の最奥を目指した。
『私の偽りのない心の証として、約束の刻限に、父を謁見の間に連れて参ります』
捨て置けば良いと知っていた。
しかし、ザイードを介したキュロスのあの言葉が、頭をちらついて離れなかった。
とはいえ、心当たりはない。
どうにか、できるだけ人気のない場所から全体の様子を探れないものかと、踊り場へ続く螺旋階段を駆け上がった。
西向きの窓から煙が上がっている塔が見て取れた。
焦燥を抑えてじっと耳を澄ますと、四方から斬撃音が聞こえる。
石造りの堅牢な建物故に、反響は大きく出処は掴めない。
その中には怒声と……悲鳴が混じっている。
甲高く、絹を引き裂くような……女性の悲鳴だ。
見せてもらった城内の見取り図では、西の塔に妃たちの住まう後宮が据えてあった。
もう兵士たちは後宮まで、到達しているのか?
窓枠にしがみつくようにして身を乗り出した。
「あ……っ」
首を突き出したアシュレイの目に、空を横切る巨大な影が映る。
(あれは……、セイカー!?)
鳥と言ってしまえばそれまでだ。
しかし、羽搏きもせずに滑空する、際の流れるようなフォルムは、鷹の特徴そのものだ。
気高く空を舞う、威厳溢れるシルエットはアルダシールのセイカーに違いない。
一瞬の閃きから、アシュレイは直感した。
セイカーは今、アルダシールの元に向かっている。
目一杯首を伸ばして、その姿を追った。
(この塔の……真上!?)
一瞬、塔の上部が光ったように錯覚する。
見上げれば、窓を突き破って炎が噴き出すところだった。
「アルダ!!」
アシュレイは思わず叫び声を上げる。
アルダシールが何処にいるのか、何の確信もない。
けれどアシュレイは導かれるように、塔の階段を駆け上がった。
***
カッカッカッ
戦闘用の革靴が石階を叩く。
アルダシールは単身、塔の頂上を目指していた。
我ながら、愚かだと、自分でもわかっていた。
城内に侵入して、軍は2つに別れた。
本塔の1階は制圧したが、城内は広い。
政を担う大臣を始め、役人たちが逃げ込んだであろう後宮への通路は、封鎖するのに時間がかかっていた。
有事の際に要人が脱出するための隠し通路も、当然ながらアルダシールは把握している。
万一にもタヒルを逃す事のないよう、戦闘前に出口も封鎖していた。
第一の目標は、タヒル王妃を含む中心人物の身柄の確保だ。
城内の何者においても、抵抗なく降る者は傷付けず、捕縛するよう達してある。
使用人のほとんどは投降した。
首謀者一派はどう足掻いても逃さぬ構えだ。
次向かうべきは北の塔、それなのにアルダシールは1人、宮殿の最奥を目指した。
『私の偽りのない心の証として、約束の刻限に、父を謁見の間に連れて参ります』
捨て置けば良いと知っていた。
しかし、ザイードを介したキュロスのあの言葉が、頭をちらついて離れなかった。
306
あなたにおすすめの小説
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが
藍生蕗
恋愛
子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。
しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。
いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。
※ 本編は4万字くらいのお話です
※ 他のサイトでも公開してます
※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。
※ ご都合主義
※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!)
※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。
→同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる