王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら

文字の大きさ
178 / 223
競い合い

束の間の休憩 1

しおりを挟む
 ローネッドからの疑惑の声に、アシュレイはハッと覚醒した。

 仰ぎ見ればアルダシールが受付に到着するところだった。

 その後方には間隔を空けて参加者が続く。

 コクコクと頷いて、目から逃れるように林に駆け込んだ。

 ローネッドは仕事が残っているからか、深追いはしない。

 がさがさと繁をかき分けていたら、隠れていたマクシムたちが駆け寄ってきた。

 声を憚って囁く。

「アシュレイ様……! 陛下を凌ぐ圧倒的スピードに感服しました」

「ものすごい汗です。こちらを召し上がって下さい」

「ありがと。でも、静かに。……20番が戻ってきたら、起こしてくれる?」

 マクシムたちの顔を見て、ホッとしたのも手伝って途端に、脱力する。

 受け取った水筒の中身を気が済むまで飲み干すと、四肢を投げ出して、ごろりとその場に横になった。

「アシュレイ様? このようなところに」

「次の課題が出るまで、少しでも休みたいの」

 小枝や木の根が張り出して、寝心地が良いとは言えないが、次にどんな課題を言い渡されるか分からない。

 数分であろうと体力の回復に努めたかった。

 折り返しの地点からの体感だが、20人を数えるまでに5分くらいは余裕があったように思う。

(それにしても、良かった……少しは訓練しておいて)

 3年前の輿入れから、アルダシールによる誘拐、内乱への協力と、アシュレイは度々、自身の体力のなさに歯痒い思いをしてきた。

 だから、内政が落ち着いてからは可能な限り、自己鍛錬に時間を割いていた。

 元々ーー千春の頃には体力に自信があったから、それがアシュレイにないのが耐え難かった。

 それがこのような形で報われるとは想像だにしていなかったけれど、とにかく良かった。

 アルダシールの思うようにはさせない、と息巻いて競い合いに参加したのだから一戦目で負けるようでは話にならない。

 悔しいけれど、見たところダントツで、アルダシールが優勝候補だ。

 「3つの課題」が単純な力勝負でさえなければ、あの大男ですら、アルダシールには敵いそうにない。

 アルダシールの勝利を阻止したいなら、アシュレイがやるしかない。
 
「ハァ……ハァ……」

 開いた掌を額の上に翳して目を瞑る。

 次第に呼吸が整って、スゥと意識が途切れた。

「……アシュレイ様、お目覚めください」

 呼びかけられて目を開くと、不安げなマクシムの瞳と目が合った。

 すぐ後ろには似たような表情をたたえたキャヴスの姿もある

 ユリウスはアシュレイの正体が露見しないよう、身を隠していた。

「お命じ通り起こしましたが」

「大丈夫。休んだらスッキリした。2人が見守ってくれたお陰で、安心して眠れたわ」

 アシュレイはサッと起き上がり、会場の様子を視認する。

 マクシムのタイミングはピッタリだ。

 20人目の到着を告げるローネッドの声が響く。

「札を持ち帰れなかった者は失格だ。では、2回戦を始める。残った者は前へ!」

「ええっ!? 俺は今戻ったばかりだぞ?」

「順位の早い者が有利になるのは当然だ。2回戦は場所を変えるから、付いてきなさい」

 息も絶え絶えに、ぜいぜいと肩で息をする20位の男が不満を訴えるも、あえなく却下される。

 アシュレイは手足を回して、自身の疲労の具合を確かめた。

 少々の怠さは残るが、悪くない。2時間走りっぱなしだったのだから当然だ。

 汗もほとんど引いている。

「じゃあ、行ってくるわ」

 マクシムらに背中を向けて、軽く手を振り広場に出て行く。

「アシュレイ様、やはり……そこまでなさらずとも」

 制止しようと立ち上がったキャヴスを、マクシムが留めてくれた。

 たとえ状態が悪かろうと、身体に疲労が残っていようと関係ないし、競い合いは待ってくれない。

 アルダシールに勝利を渡してなるものか。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】記憶喪失の令嬢は無自覚のうちに周囲をタラシ込む。

ゆらゆらぎ
恋愛
王国の筆頭公爵家であるヴェルガム家の長女であるティアルーナは食事に混ぜられていた遅延性の毒に苦しめられ、生死を彷徨い…そして目覚めた時には何もかもをキレイさっぱり忘れていた。 毒によって記憶を失った令嬢が使用人や両親、婚約者や兄を無自覚のうちにタラシ込むお話です。

偽聖女と追放された私は、辺境で定食屋をはじめます~こっそり生活魔法で味付けしていたら、氷の騎士団長様が毎日通ってくるんですけど!?~

咲月ねむと
恋愛
【アルファポリス女性向けHOTランキング1位達成作品!!】 あらすじ 「役立たずの偽聖女め、この国から出て行け!」 ​聖女として召喚されたものの、地味な【生活魔法】しか使えず「ハズレ」の烙印を押されたエリーナ。 彼女は婚約者である王太子に婚約破棄され、真の聖女と呼ばれる義妹の陰謀によって国外追放されてしまう。 ​しかし、エリーナはめげなかった。 実は彼女の【生活魔法】は、一瞬で廃墟を新築に変え、どんな食材も極上の味に変えるチートスキルだったのだ! ​北の辺境の地へ辿り着いたエリーナは、念願だった自分の定食屋『陽だまり亭』をオープンする。 すると、そこへ「氷の騎士団長」と恐れられる冷徹な美形騎士・クラウスがやってきて――。 ​「……味がする。お前の料理だけが、俺の呪いを解いてくれるんだ」 ​とある呪いで味覚を失っていた彼は、エリーナの料理にだけ味を感じると判明。 以来、彼は毎日のように店に通い詰め、高額な代金を置いていったり、邪魔する敵を排除したりと、エリーナを過保護なまでに溺愛し始める。 ​最強の騎士団長と騎士たちに胃袋を掴んで守られながら、エリーナは辺境で幸せなスローライフを満喫中?

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

処理中です...