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競い合い
束の間の休憩 1
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ローネッドからの疑惑の声に、アシュレイはハッと覚醒した。
仰ぎ見ればアルダシールが受付に到着するところだった。
その後方には間隔を空けて参加者が続く。
コクコクと頷いて、目から逃れるように林に駆け込んだ。
ローネッドは仕事が残っているからか、深追いはしない。
がさがさと繁をかき分けていたら、隠れていたマクシムたちが駆け寄ってきた。
声を憚って囁く。
「アシュレイ様……! 陛下を凌ぐ圧倒的スピードに感服しました」
「ものすごい汗です。こちらを召し上がって下さい」
「ありがと。でも、静かに。……20番が戻ってきたら、起こしてくれる?」
マクシムたちの顔を見て、ホッとしたのも手伝って途端に、脱力する。
受け取った水筒の中身を気が済むまで飲み干すと、四肢を投げ出して、ごろりとその場に横になった。
「アシュレイ様? このようなところに」
「次の課題が出るまで、少しでも休みたいの」
小枝や木の根が張り出して、寝心地が良いとは言えないが、次にどんな課題を言い渡されるか分からない。
数分であろうと体力の回復に努めたかった。
折り返しの地点からの体感だが、20人を数えるまでに5分くらいは余裕があったように思う。
(それにしても、良かった……少しは訓練しておいて)
3年前の輿入れから、アルダシールによる誘拐、内乱への協力と、アシュレイは度々、自身の体力のなさに歯痒い思いをしてきた。
だから、内政が落ち着いてからは可能な限り、自己鍛錬に時間を割いていた。
元々ーー千春の頃には体力に自信があったから、それがアシュレイにないのが耐え難かった。
それがこのような形で報われるとは想像だにしていなかったけれど、とにかく良かった。
アルダシールの思うようにはさせない、と息巻いて競い合いに参加したのだから一戦目で負けるようでは話にならない。
悔しいけれど、見たところダントツで、アルダシールが優勝候補だ。
「3つの課題」が単純な力勝負でさえなければ、あの大男ですら、アルダシールには敵いそうにない。
アルダシールの勝利を阻止したいなら、アシュレイがやるしかない。
「ハァ……ハァ……」
開いた掌を額の上に翳して目を瞑る。
次第に呼吸が整って、スゥと意識が途切れた。
「……アシュレイ様、お目覚めください」
呼びかけられて目を開くと、不安げなマクシムの瞳と目が合った。
すぐ後ろには似たような表情をたたえたキャヴスの姿もある
ユリウスはアシュレイの正体が露見しないよう、身を隠していた。
「お命じ通り起こしましたが」
「大丈夫。休んだらスッキリした。2人が見守ってくれたお陰で、安心して眠れたわ」
アシュレイはサッと起き上がり、会場の様子を視認する。
マクシムのタイミングはピッタリだ。
20人目の到着を告げるローネッドの声が響く。
「札を持ち帰れなかった者は失格だ。では、2回戦を始める。残った者は前へ!」
「ええっ!? 俺は今戻ったばかりだぞ?」
「順位の早い者が有利になるのは当然だ。2回戦は場所を変えるから、付いてきなさい」
息も絶え絶えに、ぜいぜいと肩で息をする20位の男が不満を訴えるも、あえなく却下される。
アシュレイは手足を回して、自身の疲労の具合を確かめた。
少々の怠さは残るが、悪くない。2時間走りっぱなしだったのだから当然だ。
汗もほとんど引いている。
「じゃあ、行ってくるわ」
マクシムらに背中を向けて、軽く手を振り広場に出て行く。
「アシュレイ様、やはり……そこまでなさらずとも」
制止しようと立ち上がったキャヴスを、マクシムが留めてくれた。
たとえ状態が悪かろうと、身体に疲労が残っていようと関係ないし、競い合いは待ってくれない。
アルダシールに勝利を渡してなるものか。
仰ぎ見ればアルダシールが受付に到着するところだった。
その後方には間隔を空けて参加者が続く。
コクコクと頷いて、目から逃れるように林に駆け込んだ。
ローネッドは仕事が残っているからか、深追いはしない。
がさがさと繁をかき分けていたら、隠れていたマクシムたちが駆け寄ってきた。
声を憚って囁く。
「アシュレイ様……! 陛下を凌ぐ圧倒的スピードに感服しました」
「ものすごい汗です。こちらを召し上がって下さい」
「ありがと。でも、静かに。……20番が戻ってきたら、起こしてくれる?」
マクシムたちの顔を見て、ホッとしたのも手伝って途端に、脱力する。
受け取った水筒の中身を気が済むまで飲み干すと、四肢を投げ出して、ごろりとその場に横になった。
「アシュレイ様? このようなところに」
「次の課題が出るまで、少しでも休みたいの」
小枝や木の根が張り出して、寝心地が良いとは言えないが、次にどんな課題を言い渡されるか分からない。
数分であろうと体力の回復に努めたかった。
折り返しの地点からの体感だが、20人を数えるまでに5分くらいは余裕があったように思う。
(それにしても、良かった……少しは訓練しておいて)
3年前の輿入れから、アルダシールによる誘拐、内乱への協力と、アシュレイは度々、自身の体力のなさに歯痒い思いをしてきた。
だから、内政が落ち着いてからは可能な限り、自己鍛錬に時間を割いていた。
元々ーー千春の頃には体力に自信があったから、それがアシュレイにないのが耐え難かった。
それがこのような形で報われるとは想像だにしていなかったけれど、とにかく良かった。
アルダシールの思うようにはさせない、と息巻いて競い合いに参加したのだから一戦目で負けるようでは話にならない。
悔しいけれど、見たところダントツで、アルダシールが優勝候補だ。
「3つの課題」が単純な力勝負でさえなければ、あの大男ですら、アルダシールには敵いそうにない。
アルダシールの勝利を阻止したいなら、アシュレイがやるしかない。
「ハァ……ハァ……」
開いた掌を額の上に翳して目を瞑る。
次第に呼吸が整って、スゥと意識が途切れた。
「……アシュレイ様、お目覚めください」
呼びかけられて目を開くと、不安げなマクシムの瞳と目が合った。
すぐ後ろには似たような表情をたたえたキャヴスの姿もある
ユリウスはアシュレイの正体が露見しないよう、身を隠していた。
「お命じ通り起こしましたが」
「大丈夫。休んだらスッキリした。2人が見守ってくれたお陰で、安心して眠れたわ」
アシュレイはサッと起き上がり、会場の様子を視認する。
マクシムのタイミングはピッタリだ。
20人目の到着を告げるローネッドの声が響く。
「札を持ち帰れなかった者は失格だ。では、2回戦を始める。残った者は前へ!」
「ええっ!? 俺は今戻ったばかりだぞ?」
「順位の早い者が有利になるのは当然だ。2回戦は場所を変えるから、付いてきなさい」
息も絶え絶えに、ぜいぜいと肩で息をする20位の男が不満を訴えるも、あえなく却下される。
アシュレイは手足を回して、自身の疲労の具合を確かめた。
少々の怠さは残るが、悪くない。2時間走りっぱなしだったのだから当然だ。
汗もほとんど引いている。
「じゃあ、行ってくるわ」
マクシムらに背中を向けて、軽く手を振り広場に出て行く。
「アシュレイ様、やはり……そこまでなさらずとも」
制止しようと立ち上がったキャヴスを、マクシムが留めてくれた。
たとえ状態が悪かろうと、身体に疲労が残っていようと関係ないし、競い合いは待ってくれない。
アルダシールに勝利を渡してなるものか。
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