やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら

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プロポーズ

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「そうだ」

「わたくしの知る限りでは、ルシアン様はマリアナ嬢にご執心だと伺っておりました。わたくしとの婚約は破棄して、マリアナ嬢を新たな婚約者に迎えるおつもりとの噂がまことしやかに囁かれていたのですが、誤りだと仰るのですか」

「どうしてそんな馬鹿な誤解を。確かに私はマリアナ嬢に協力を仰いだ。私がマリアナと懇意にしするとマリアナに良からぬ影響があると教えてくれたのは君だ、オデット。だから私はマリアナの安全に最善を尽くしただけだ。それでどうして、私がマリアナを婚約者に迎えるという話になるのだ」

 ルシアン様は取り合う価値もない風説だとでも言うように一笑に付した。

 その仰りように、わたくしはここ数ヶ月を振り返る。

(そういえば……)

 わたくしが実際に目にした場面は、ルシアン様は柔らかな微笑みをマリアナ嬢へ向けていたところだけだ。

 他はすべて、伝聞に過ぎない。

 勝手に繋ぎ合わせて、整合性を取ったのは、他でもないわたくしだ。

 教室で会話をしたあの日、気持ちを分かってくれないとわたくしはルシアン様に憤った。

 しかし”何故マリアナ嬢と行動を共になさるのですか”

 わたくしは嫉妬で目が曇り、ルシアン様に尋ねることをしなかった。

(わたくしはルシアン様とマリアナ嬢の間柄について、『何か』があると勝手に思い込んでいたーー?)

「わたくしの早合点……だったのでしょうか」

 わたくしは狐につままれたような心地で、ポツリと呟く。

「もしもオデットが私とマリアナの仲を疑っていたのなら、大いなる誤解だ」

「けれど、ルシアン様はマリアナ嬢を名前で呼んでらっしゃるわ。先日教室でお会いした日も、とても親しげにお話をされていたではありませんか」

「それは、マリアナ……マリアナ嬢にそう呼んで欲しいと頼まれたからだ。オデット、君でもそんなことを気にするんだな」

 わたくしは今まで表に出すまいと気をつけていた本音を指摘され、カァッと顔が熱くなる。

「失礼致しました。まだ、どうやら未熟な部分が残っているようで……」

「責めているんじゃない。私は嬉しい。君が私に関心を寄せていてくれたのだとわかっただけで、天にも昇る心地だ。……なら、この贈り物を受け取ってもらえるだろうか? このブレスレットは街中で、恋人に贈る定番の品だそうだ。デザインは華奢な君に合わせて特別に誂えてもらった。私は君にも、このブレスレットを身に付けてもらいたい」

「ルシアン様……」

「オデット、改めてお願いだ。私と結婚して欲しい」

 わたくしはルシアン様の真摯な眼差しに射抜かれ、言葉を失った。

 もうこれ以上は、何も聞く必要はない。

 わたくしは他人の口に上る口さがない噂に惑わされまいとし自分を律した。
 
 しかしその一方でルシアン様と、取り巻く噂を避けた。

 婚約者が自分以外の女性と懇意にしている様子は、わたくしの思う以上に辛い光景だった。

 その結果、誤解なのか違うのかすら、自分で確かめようともしなかった。
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