19 / 29
18話 シルクロード
しおりを挟む冒険者と兵士を挑戦者として、いよいよ裏ダンジョンが始まった。
ベルママが広場の中央に立つ――
「皆様お集まり頂き誠にありがとう御座います。それではご紹介致しましょう、挑戦者3名の入場です」
アナウンスと共に広場の中央に3人が並んだ。私の隣りには中年男が、その隣りに若い兵士が立つ。
「では端から、謎の青年"Z"、その隣りが元冒険者の"Y"、最後は現役兵士である"X"です。それでは予想して下さい。それぞれお持ちの番号と金額、挑戦者のアルファベットを紙に記入して係りの者に渡して下さい」
やはり中年男は冒険者だった。それとこの若者、何となく声と風貌で気になっていたが、おそらく商店街にいた警備兵ではないだろうか。袖が斬られたように破れている、でも傷痕がないとは不思議だ。
戦えるならそれはそれで私の知ったこっちゃないんだけど……大丈夫なのか?
「は~い、締め切りとさせて頂きます。ではさっそく始めましょう。ひとりに付き害獣が1体、3対3のデスマッチ。さあゲートにご注目、バトル、開始!」
ゲートが開かれた。横にいるふたりは同じ剣を携え身構える、私は壁際に立ち腕組みをして待機。
現れたのは――
「「「……ゲッ!!!」」」
地球の皆さん、異世界から緊急速報です。なんということでしょう、人類が滅亡しても生き残ると言われている、あの黒い物体がこの異世界では巨大化しております。そうです、ゴキブリと名を呼ぶことさえ躊躇われる通称Gであります。
あの害虫を退治できるのは、殺虫剤という化学兵器か、物理的に有効な粘着ゴキブリコイコイではないでしょうか。ねえ、絶対無理なんだけど……。
私は1秒たりとも同じ空気を吸いたくないので、
「ほ、ほら、こ、ここは、君たちの、出番よ……」
と、声を震わせながら言うと――
「ぼ、ぼぼぼ、ぼくにはム、ムリです……」
と、私以上にビビりまくるヘナちょこ兵士。
「俺も……ちょっと……あれは、なあ……」
と、冷や汗を流すへっぽこジジイ。お前もか。
何のためにキンタマぶら下げてんだよ男ども!
「ああもうマジか……ふざけんなよ! クソッ!」
と、悪態を吐きなが嫌々駆け出し、持っていた槍で横から串刺しにして、思いっきりゲートに投げ返してやった。
「ハァ、ハァ……! 舐めんなゴキブリ野郎!」
鳥肌と悪寒と感触が消えぬまま、モブ作戦は秒で終了してしまった。
横で呆気に取られ立ち尽くす男達――
「……お、お前、凄いなあ」
「ど、同感です……」
こいつら……使えねぇ。
そこへ、ベルママのアナウンスが流れる――
「……ええっと、ちょっと予想外の展開ですが、これはこれでお楽しみ頂けたのではないでしょうか!」
ベルママのアナウンスに、観客席から怒濤の歓声が湧き上がった。
「オオッ! これは凄いぞー!」
「クソッ! あいつに賭けておれば!」
「実に面白い! 早く次に行けー!」
貴族達の歓声に、ベルママは不気味にほくそ笑んでは、自分の体を抱きしめ満足気だ。気色悪っ!
高揚冷めやらぬベルママが次へ進む。
「では歓声にお応えして、ゲートオープン!」
次にゲートから現れたのは巨大なネズミだ。すると横で中年男がカタカタと剣を震わし、煮湯を飲まされたかのように顔を歪める。
「クソッ……またアイツと戦うのかよ!」
元冒険者なら討伐経験くらいはあるだろう。
「あの巨大ネズミと戦ったことがあるのか?」
「ああ、アイツはロックマウスと言って、岩の尾で攻撃してくるんだ。当たったら一溜りもない」
見たまんまのネーミングに些か拍子抜けするも、その尻尾さえ切り離してしまえばいいだけのこと。たがしかし、ネズミと言えば強靭な前歯も凶器のはずだ。
彼らと馴れ合う気はないので、さっさと済ませてしまおう。
「じゃあ、お先に失礼」
私は襲い来るマウスの前歯を拳で殴り、粉々に折る。そして怯んだ隙に素早く背後へ回り、尻尾を引きちぎり、その岩の尾を武器に背骨を狙い叩きつけると、マウスは昏倒し息耐えた。その様子を観ていた観客から響めきが起こる。
「お、おい、あの男、尋常じゃない強さだぞ」
「ああ、只者ではないなぁ。いったい何処から来たんだ?」
否応なく耳に入るその声に、ふたりは唇を噛み、ただ防御に徹していた。
小柄な兵士はその体格が功を奏し、正面に立つことで尻尾からの攻撃を免れている。だが剣はマウスの前歯に捕らえられ、身動きが取れない。ジリジリと詰め寄るマウスが頭を大きく左右に振ると、兵士の手は剣から離れ、体は宙を舞い壁に激突した。
おそらく、兵士はもう限界に近いだろう。
「も、もう無理だ……ギ、ギブアップしま……す」
その声に、ベルママは係り員に合図を送り、壁の内側から兵士を運び出した。なるほど、救出は容易ということか。だが、まだマウスは息を荒く私達を狙っている。私は兵士の持っていた剣を拾い、マウスの頭上目掛けて突き刺す。マウスは剣の柄と地面の間で息絶えた。
残るはあと1匹。中年男は尚も鬼の形相で持ち堪えていた。すると男はマウスから離れ、私が引きちぎった尾を必死に持ち上げ、壁に背を着けて飛び掛かるマウスの口へ突き刺した。尾は背中から飛び出しマウスは絶命した。
男は力尽きてその場にしゃがみ込む。すると観客席からは歓声が上がった。
男は疲れ果てた顔で天を仰ぐと、
「お、俺もギブアップだ。だが、やったぜ……」
そう言って男は気を失った。
「皆様、ご覧の通り、"X"と"Y"は脱落致しました。今回の勝者は"Z"に決定です! では、本日のデスゲームはこれにて終了と致します。またのご来場を心よりお待ち申し上げております。賭け金のお支払いをお忘れなく。それでは」
貴族達は要が済むと、特に談話をすることもなく、足速に会場から去って行った。
貴族の戯れと豪遊、そして挑戦者有きの裏遊戯。金は天下の周り物とはよく言ったもんだ。
ベルママがいそいそと私のところへやって来た。
「さあ、事務所でお話ししましょ。お兄さんのお望みの物も聞かなくてはね。付いてらっしゃい」
言われるがまま、ベルママの後へ付いて行った。
地下の別ルートの通路を歩いて、事務所と書かれた部屋へ入った。小ぢんまりとした部屋に、机を挟んでソファがふたつ並んでいる。
私とベルママは対面で座った。
「じゃあさっそく聞いちゃうわよ。お兄さんの欲しい物はなに? もちろん下着よね。それも女性用のランジェリー。それは何故かしらね?」
ど直球で投げられた質問に私は戸惑う。何故かと聞かれたら、女性だから女性用のパンツが是が非とも欲しいと思うのは当然の権利であって、わがままでも無茶振りでもないのである。
しかしも、正体を偽っている以上、本音を明かす訳にはいかないので、ここは誤魔化し戦法で。
「あのう、ベルママだから打ち明けるんですけど、お恥ずかしい話、私にはそういった趣味がございまして、何といいますか、特に女性用の綿パンツがめっちゃ好きなのであります……はい」
そう言うと、ベルママは頬に手を置き、高揚した面持ちで眉をへの字にし、色めく瞳で私を見詰める。怖い……。
「ウフ、ウフフフッ! ああ~やっぱりそうなのね~。そうよね、そうだわよね。私ね、お兄さんを見てピンッときたのよ。同類じゃないかって。私も心は女性だからね、パンツくらいレディースを穿きたいじゃな~い。綿パンは私も大好きよ!」
そうではない。例え心は同じであっても、私が言いたいのは変態的趣味でパンツが欲しいという意味であって、絶対的に体の構造は別物なので、男装している私としては一緒にして欲しくないところ。しかしも、綿パン愛好者は歓迎です。
「ですよねー。私も公衆の面前でありながら、つい我を忘てしまって。で、パンツ、頂けます?」
「もちろんよ。はい、レディアンダーパンツ3点セット。男性用は返さなくてもいいわよ」
「ありがとうございます! 男性用はもちろん使わせて頂きます。ああ、幸せ~!」
「分かるわ~。私こう見えて、綿パン愛好会の会長を務めてるのよ。そうだ、お兄さんも愛好会に入らない? 綿パンの最新情報も入手可能よ」
「最新情報かあ……」
これはもしかしたら、シルクロード、もしくは新種が辿れるかも知れない。
見ておれ腐れ王子よ……ああ、お腹空いたなあ。
67
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された転生聖女は、無手ですべてを粉砕する
ゆきむらちひろ
ファンタジー
「祈るより、殴る方が早いので」
ひとりの脳筋聖女が、本人にまったくその気がないまま、緻密に練られたシリアスな陰謀を片っ端から台無しにしていく痛快無比なアクションコメディ。
■あらすじ
聖女セレスティアは、その類稀なる聖なる力(物理)ゆえに王都から追放された。
実は彼女には前世の記憶があって、平和な日本で暮らしていたしがないOLだった。
そして今世にて、神に祈りを捧げる乙女として王国に奉仕する聖女に転生。
だがなぜかその身に宿ったのは治癒の奇跡ではなく、岩をも砕く超人的な筋力だった。
儀式はすっぽかす。祈りの言葉は覚えられない。挙句の果てには、神殿に押し入った魔物を祈祷ではなくラリアットで撃退する始末。
そんな彼女に愛想を尽かした王国は、新たに現れた完璧な治癒能力を持つ聖女リリアナを迎え入れ、セレスティアを「偽りの聖女」として追放する。
「まあ、田舎でスローライフも悪くないか」
追放された本人はいたって能天気。行く先も分からぬまま彼女は新天地を求めて旅に出る。
しかし、彼女の行く手には、王国転覆を狙う宰相が仕組んだシリアスな陰謀の影が渦巻いていた。
「お嬢さん、命が惜しければこの密書を……」
「話が長い! 要点は!? ……もういい、面倒だから全員まとめてかかってこい!」
刺客の脅しも、古代遺跡の難解な謎も、国家を揺るがす秘密の会合も、セレスティアはすべてを「考えるのが面倒くさい」の一言で片付け、その剛腕で粉砕していく。
果たしてセレスティアはスローライフを手にすることができるのか……。
※「小説家になろう」、「カクヨム」、「アルファポリス」に同内容のものを投稿しています。
※この作品以外にもいろいろと小説を投稿しています。よろしければそちらもご覧ください。
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
きっと幸せな異世界生活
スノウ
ファンタジー
神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。
そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。
時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。
女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?
毎日12時頃に投稿します。
─────────────────
いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。
女の子と言われてしまう程可愛い少年。
アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。
仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。
そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた
願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~
異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト)
前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した
生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ
魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する
ということで努力していくことにしました
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!
よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。
10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。
ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。
同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。
皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。
こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。
そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。
しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。
その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。
そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした!
更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。
これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。
ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。
攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?
mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。
乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか?
前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる