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17話 遊戯

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 謎のオネエさんから貰った券をポケットに入れ、クッキーの入った袋を片手に、自警団の皆様からのお礼の言葉を頂戴して、歓声鳴り止まぬ商店街を静かに去る私であった。
 教訓、もう商店街に近づくのはやめよう。

 一通り街を探索して宿へ向かう。そろそろ夕飯時だ、お腹も空いてきた。宿屋の食事はどんな物が出るのかと期待しながら店の前に立つと――

「ハ~イ、お兄さん。フフッ」

 と、背後から聴き覚えのある独特な喋り方をする声に振り向くと、あの交換所にいたオネエさんが立っていた。

「お迎えに参りましたのよ~」

 その不気味な笑顔に私は戸惑う。いや、怖いからやめて。そりゃね、レオにも間違われたよ、そっち系のお兄さんってね。でもさ、まったくの誤解だし、そんなオーラこれっぽっちも出してないよね?
 だからさ、お誘いはちょっとごめんなさい。

「えっと、なんのお誘いかな?」

「あら、とぼけちゃって。優待券よ」

 そっちか。確か裏ダンジョンと書いてあった優待券だ。今から魔獣と戦えとでも言うのだろうか。しかし何故ここが分かったのだろう。

「ああ、券のことで来られたんですか。この裏に書いてある裏ダンジョンとは何んですか? それと、なぜ私の居場所が分かったんですか?」

「フフッ。質問責めね、嫌いじゃないわ。こう見えて私は《ハンター》なの。ダンジョンに挑戦して勝利すれば1つだけ好きな物が与えられる。来れば分かるわ。どう? やってみない?」

「好きな物?」

「あなた、私の勘だと、女性の下着とかに興味があるんじゃない? 違ったかしら?」

 どうしよう。正にその通りなんですけど。あの地団駄を踏んだことで見抜かれた?
 でも、もし話しが本当なら、挑戦する価値はある。パンツや新種の魔獣の情報も手に入るかも知れない。行きましょう。パンツ最前線へ!

「分かりました。お供します」

 私はオネエさんと連れ立って、ルナ都市の中心部へやって来た。オネエさんは繁華街の酒場通りを歩いて、ある店の前で足を止めた。
 看板には「カマ・ナイスデイ」と、絶対悪夢にうなされる一日になるであろうディスプレイが、煌々と照らし出されている。
 オネエさんがドアを開けると――

「いらっしゃいませ~! 貴方とワタシのステキな夜にご案内しま~す! ウフフフッ!」

「うげっ……」

 なるほど。謂わゆるオカマバーである。スタイルバッチリなのに青髭が残る濃い化粧が何とも残念。
 そこでオネエさんが笑顔で手招きをする。

「さあ入って。私はここのママでフェアリーベルって言うのよ。ベルママって呼んでね、ウフッ!」

 あのですね、決して貴方を否定するつもりはないのだけれど、妖精が余りにも可哀想なのでぜひ改名をよろしくどうぞ。
 それはともかく、こんな異様なところにダンジョンなどあるのだろうか。確かに魔物はいるけども。

「ほらアナタ達、このお兄さんは私の大切なお客様なんだから、構わないでちょうだい。散って!」

「あら、裏の挑戦者? 頑張ってね~!」

 そう言って呆気なく去って行った。

「さあ、お兄さんこっちよ。早くいらっしゃい」

 ベルママがまた手招きをする。だとすると、ダンジョン会場は別の場所にあるのだろう。
 私はベルママの後に続く――

 カウンター脇のドアをくぐると、地下へ続く階段を下り始めた。湿った空気が体に纏わり付く。
 階段を降り切る前に、ベルママが私に何かを手渡す。見ると、貴族達が舞踏会で正体を隠す為に使うドミノマスクだ。おそらく秘密裡ひみつりに行われる催しと言ったところだろう。
 さっそく私も眼鏡を外しマスクを着ける。

 階段を降りると通路に出た。少し先に開けた場所が見える。そこはまるで、闘牛場を思わせる砂地と、そして観客席にはドミノマスクを着けた人達が大勢いる。身に纏う物からして多分、貴族ではないだろうか。
 

「見ての通り、ドミノマスクを着けている観客は貴族よ。ここは賭けダンジョン。彼らはお兄さんを賭けの対象としてお金を払う、謂わばギャンブラー」

 貴族の道楽か。でもそれにすがる私のような人間もいる。そしてそれを商売にする胴元どうもと
 どの世界にも裏組織は存在するってことだ。

「闘う相手はもちろん魔獣。ルールは簡単。お兄さんの他に後2人登場するわ。最後まで残った者が好きな物を手に出来る勝者。武器はこちらで用意した物を使用。私達も鬼ではないのでギブアップ有りよ。死人は出したくないものねえ。では、挑戦するなら私に券を、辞退するならこの場で破り捨ててちょうだい。何か質問は?」

「魔獣って、まさかダンジョンから?」

「ああ、魔獣と言っても指定害獣よ。どうする?」

「指定害獣がここに?」

「フフッ。詳しく知りたければ先ず勝つことね」
 

 パンツは欲しい。この遊戯ゲームの理由も知りたい。でも、競い相手がいる……。

 漫画のファイター達が、死闘を繰り広げる闘牛場のような場所を目の当たりにして、私は特別優待券を、渡すか破り捨てるかの選択を迫られている。
 たかがパンツ、されど綿パンツとこだわり抜いた夢がついえてしまった今、このチャンス到来を諦めたら女がすたるってもんだ。王族ばかりに貴重な綿パンを穿かせてなるものか!

 ということで――

「やるしかないでしょ。はい券です!」

「フフッ。そうこなくっちゃね。ここでは挑戦者をアルファベットで呼ぶのよ。では他の2名を紹介するわ。そちらが"Y"さんよ」

 背後からスッと男がふたり姿を現した。

「俺は他国の人間だ。おそらく君達とは二度と会うことはないだろうから、顔を隠す必要はないだろ。ただのオヤジさ。まあ、よろしく」

 中高年の、少しやさぐれた冒険者崩れといった出立ちで、特に悪い感じは受けない。

「お隣が"X"さん。この中ではいちばん若い子かも知れないわね」

「えっと、戦い方を学びに来ました。顔は出せません。なるべく最後まで残りたいのでよろしく」

 確かに、声の感じからして正義感ダダ漏れの若者といった感じだ。しかしなんだろう、どこかで会ったような気が……。

「そして私がスカウトしたステキな青年"Z"さん。私の勘なんだけど、おそらく、いちばんの強者じゃないかしら。まあ、お互い頑張ってちょうだいな」

 何を根拠に私を強者だと思うのだろう。そう言えば、自ら《ハンター》と言っていた。ならばギルドからの情報、もしくは予め知っていたから誘った。
 商店街の出来事を見たからかも知れないが、それだけで判断するのはどうかと思う。
 別に冒険者であることを隠すつもりはないが、何せ、未だFランクなんで恥ずかしいじゃん。

「私も顔出しはNGで。よろしく」

「武器はその机の上にある中から選んでちょうだいね。協力し合うも良し、盾にするも良し、好きに戦って貰って結構よ。さあ、始めましょう!」


 いよいよ裏ダンジョンが始まる。
 私の作戦はモブに徹すること。背景と化し、相手と害獣を戦わせて様子を伺う。ダンジョンの魔獣もこの国の害獣も知らない私の攻略法だ。出る杭は打たれる。大人しく隠れて身を隠すのも作戦のひとつなのだ。だからではないが、離れて攻撃できる槍を選択する。モブ危うきに近寄らずだ。


 モブはね、モブだからさあ……モブるのよ。

 

 
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