婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも

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 ニコニコと笑顔の公爵令息カスパー。

 愛想笑いを浮かべたまま、凍り付く私。
 とは言え、思考まで止めている訳では無かった。

 三人も愛する人がいると言うなら……私が妻になる必要等ありませんよね?

 イラっとしていた。

 現実的に考えるのよ!! エーファ!!

 私は夫になるからと言って公爵令息であるカスパーを好きな訳ではないの、この胸の苛立ち、モヤ付き、色々と呑み込めない物は……善良で偽善的で困っている人に手を差し出し、身近な者ほど不幸にする両親であっても、お互いだけは尊重し大切にし、何時だって微笑み、お互いの価値観に寄り添い(迷惑だけど)幸せそうにしていた。

 私の中には、そんな風に夫婦はこうあるべきだと言う憧れがある訳……で、それと違う未来が広がっているからと言って、全てを拒絶するべきではないわ!!

 よ~しよし、いい感じで考えがまとまってきたとか考えている中でも、脳裏にはコイツ妻なんか娶る必要なくない? と、言うものが、頭を超高速で駆け巡っている。

 いえ、ダメ、ダメよ私……。

 そう、私は公爵家に就職をしたの。
 妻と言う役職についたに過ぎないのよ。
 
 よし!!

「お初にお目にかかります。 本日より、シーラッハ公爵家の次期様の屋敷において、女主人の業務につく事となりましたエーファと申します。 これから、色々と関わりが出て来ることと思いますが仲良くしてやってください」

 ニッコリとなるべく、女と言う空気を消し、子供らしいイメージを作り出しながら挨拶を行った。 あの如何にも女性に愛されるために存在している女性達と敵対する気などありませんからね……。

「あぁ、よろしく頼む!!」
 緑のドレスの凛々しい女性、グレーテルが言う。

「仲良くしましょう」
 甘く色香漂う赤いドレスの女性、フレイヤが言う。

「面倒をかけることになるけれど、よろしくね」
 ふわふわお姫様妊婦の、ベティーが言う。

 印象の違う三人を間違う事は無いだろうけれど、脳内では分かりやすく、緑、赤、黄と呼び、三人に関わる業務は色分けをしながら認識する事に決めた。

「エーファ、何か聞きたい事はあるかい?」

 優雅におっとりとした様子でカスパーが聞いてくる。

「そうですね……。 お三方は、公爵様達もご存じなのでしょうか?」

 堂々と背筋を張ったまま尋ねた。 そりゃぁ聞きますよね?

「そんなの当然の事ですよ。 公爵家に生まれたからには、子を残すのが最も重要な役割と言っても過言ではありませんからね。 子を産むかどうかわかりもしない妻に賭けると言うのではリスクが大きい。 これは公爵家にとって当然の事なんですよ」

 私はカスパーが語る間、チラリと視線だけを動かし三色愛人の皆さんの様子も見ていた。 赤、黄の二人には一切の動揺は見られない。 むしろ、堂々としていた。 だけど一人だけ様子がおかしい明らかに動揺を露わにしている人がいる緑だ。

「了解いたしました。 公爵様からは女主人として屋敷を取り仕切るように言われております。 屋敷の案内と予算状況の確認をさせて頂けますか?」

「あぁ、分かったよ。 案内しよう」

 そう言ってカスパーは私の腰を抱こうとしたが、僅かに歩みを早める事で回避した。

 扉が閉められ三色愛人の視線から隠れた所でカスパーは言う。

「君は、随分と初心な人のようだね」

 向けられる微笑みに対して微笑みを返した。

「お子さんがいらっしゃる方を前に、その気持ちを乱したくないと考えただけですわ」

 こんな事を言っていても、実際には公爵と交わした婚姻契約の内容を確認しなければと真剣に考えていた。 そこに『子をもうける』と言う内容が記されていないなら、あくまでも女主人の業務を行うための使用人と言う立場を取ろうと……。

 屋敷の案内を一通り受ければ、屋敷を管理するための人員は少しばかり足りないように思えた。 お茶会やパーティを開くとなれば、本宅から人を借りる事も出来るでしょうが、愛人が三人もいては世話が大変だし……私が連れて来た使用人に三人の世話をさせるのは気分的に良くなかったから。

 屋敷内を巡りながら、私は使用人の方々と挨拶を交わしそして少々の雑談を行った。 途中、老執事と老執事に連れていかれたケヴィンとも合流した事で、カスパーは三人の愛人の元に戻って行った。

「その……アーメントさんは、カスパー様の愛人の事は分かっておいでなのですよね?」

 誰に聞かれても特に問題がないだろうけれど、私はついつい小声になってしまう。

「ぇ、あ、はい……。 存じております」

「公爵様には?」

「……いえ、若い頃の放蕩はつきものですので、逐一報告する事は控えております」

「ですが、カスパー様の御子が生まれるとなれば別ではございませんか?」

「ですが、彼女は奴隷出身の身分を持たない者でして、旦那様の妻にはふさわしくはなく、生まれて来る御子もまた公爵家の者として決して求められる事はないでしょう」

 それは罪のない子供が余りにも気の毒なような……。

「他の方々の子として、公爵に認めて頂くと言うのは出来ないのでしょうか? カスパー様もおっしゃっておりましたが、公爵家の血を残すと言う事は重要な役割なのですから」

「グレーテル様の父君は騎士として一代貴族の地位を得てはいますが、公爵家の妻となるには色々と苦労もございましょう。 それにフレイヤ様は奴隷ではございませんが、元娼婦でして……」

「そうですか……ご苦労が耐えませんね……。 とは言え、私の子とするには時期的に無理がありますし……ご当主にお話しできるよう考えて見ましょう」

「よろしくお願いします」

 カスパーの最大の問題である三色愛人を、好意的に受け止める素振りをしたことで老執事さんは私を全面的に信頼した……と言うより、誰かに仕事を任せなければと言う思いだったのかもしれない。

 この屋敷に引っ越してからの帳簿も快く貸し出してくれた。

 今現在は、新しい屋敷を整えるために組まれている予算。 次期公爵として屋敷を整えるとなると相応の資金がかかりますからね。 それとは別に毎月の予算。

 流石公爵家……我が家とは桁が違いますね。 等と感心したのですが、新しい屋敷が立って三か月、その間の予算を見て見れば……明らかに毎月の支給金をオーバーしていた。

「そりゃぁ、まぁ、三人も愛人がいれば当然と言えば当然ですわね」

 私は天井を仰ぎ見た。

 使用人達の給料。
 日常的に必要となる食費と雑費。

 そして!! 小遣い!!

「お金のための嫁入とは言え……色々とコレはキツイなぁ……」

 早くも私は、ぐったりとしながら高価で質の良いベッドからズリズリと身体を滑らせ、幸せな花嫁を望んだ少女時代を思い出し……現実との大きな違いに憂い、切ない気分に身を沈めるのだった。
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