婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも

文字の大きさ
2 / 17

02

しおりを挟む
 日頃、使用人達は私に協力的……
 両親の善良性は、身近な者の不幸によってなりたつから。

 だから、我が家……伯爵家が潰れないように心掛けた。

 住むところ、食べる物、着る物、給料、ストレスの少ない職場を維持したい彼等と手を組む事が出来た。 だが!! それも終わり……使用人達は己の保身のために、両親の言う良い話に全力で乗っかった。

 ただ一人を除いては……。

「お嬢様。 公爵家に何か脅せるネタがないか調べてみます。 ですから、お嬢様はなるべく決定を先延ばしにして下さい。 絶対にお助けしますから!!」

 そうケヴィンだけは今もまだ私の味方だった。

 だけど……ケヴィン? 貴方少し感情的になり過ぎてはいないかしら? 彼は、ちょっとヤバイ……。 脅せるネタが無ければネタを作りそうな人だから……。

「待ちなさい。 例え脅すようなネタがあったとしても、それでお金を返せるだけの宛ては生まれないわ」

「借金を作って逃げた相手の捜索も行います!!」

 そう言うが……相手は質の悪い金貸しと、王族と血縁のある貴族だケヴィンが一人頑張ってどうこうなるとは思えない。 最悪、金貸しの取り立てにケヴィンは殺され、私は売られるとか……。 考えると背筋が寒くなった。

 だから、妥協した。
 落としどころにした。



 私の理解者で、共に生きていた彼だけは不幸にしたくはない。 私の幸せ以上の願いだった。



「まずは会って見ましょう」

「……エーファお嬢様……」

「お茶と、婚姻の申し込みの手紙を持って来ていただけるかしら? 私も一度目を通しておきたいので」

「……」

 納得いかないと言う表情を露わにするケヴィンの様子は、日頃の冷静で出来る執事姿とは違い、そして大人ぶっていた頃の子供時代とも違い、初めて見る子供のような表情をしていた。

「大丈夫……世の中何とかなるものよ……」

 私は頼りがいのある年上の青年の背をポンッと叩いて笑って見せた。



 手紙に書かれていた内容は、善良で慈悲に溢れた両親の子であり、経済を学び、薬学を学び、地政学……その他多くの学問を治めたお嬢さんなら、是非我が家の一員として迎えたいと言うものだった。

 因みに勉強の大半は父の善良な迷惑の後始末のために学んでいた訳で、私が興味を抱いているからではない。

 公爵家からの手紙を読む限り、彼等が求めるのは妻としての私ではなく、秘書的な何かだと感じ取る事ができる。 私の中では私は公爵家に就職するのだと自分に言い聞かせて受け入れる事とに決め面会を求めた。

 実際に、現公爵と出会ってみれば、領地経営における話が多く、知識をひけらかさない程度に公爵と会話しつつも、自分は利用価値のある人間だと必死に伝えた。

「貴方のような娘さんを我が家に迎えられる事は光栄です」

「あの、図々しいお願いではありますが、公爵家でより良く尽くすために、私の専属執事と侍女を共に連れて行ってもよろしいでしょうか?」

「何人程かね?」

「2名と言いたいところですが……公爵家となれば、新たに学ぶべき事も多いと思います。 ですので、お互い励まし合えるように執事1名、侍女3名を連れて行く事をご了承いただければ助かります」

「問題ありません。 エーファさんには次期当主である息子のために立てた屋敷で過ごしてもらう事になりますが、其方の方はまだまだ屋敷の統制が取れておりません。 女主人としての活躍を期待させてもらいますよ」

「期待に応えられるよう努力させて頂きたいと思います」

 その後も、ケヴィンや私付きの侍女達の雇用条件の話を行い、婚姻自体が急の事で、結婚式等も、両家族の顔合わせも後日全てが落ち着いてからと言う事で話がまとまりながらも、借金の返済に必要とされる小切手だけはその日の内に渡された。





 そして……私は、突然に奉公が決まった村娘のように、公爵令息カスパー様が治める屋敷へと向かった。

 実際に、カスパー様とまだ予定人数に達していない使用人が住んでいるだけと聞いていた割に、此方を伺っている窓が多いような気がした。

「これでは、掃除だけでも大変そうですね」
「社交的な方な場合は、お客様も招かれるでしょうし」

 跡継ぎ息子とは聞いていたが……公爵夫婦にとって余程特別な息子さんなのか、屋敷はとても広く私達を驚かせた。

「覗き見等とは行儀の悪い……」

 ケヴィンが私の変わりに不快を露わにしてくれ……私は救われた気分になるから、私は冷静に良い人ぶる事が出来る。

「まぁ、私達でもきっとコッソリ覗いてしまうわ。 余り気にしないようにしましょう」

 扉をノックする間も無く、大きな玄関扉は開かれた。

 明るい感じのお坊ちゃん的な青年だった。

「やぁ、良く来てくれたね。 待っていたんだよ!! これからよろしく頼むね」

 エスコートのために手が差し出される。 そして、老執事と思われる人物がケヴィン達に声をかけていて、私とケヴィンと侍女達はそれぞれの場所へと連れていかれる事となった。

 エスコートを受けながらカスパーは語る。

「屋敷の案内の前に、お願いごとがあるんだ」

 ほぼ雇用条件とも言っても良いだろう話し合いを、カスパー様の父上である現公爵としただけで、公爵に求められるまま屋敷に訪れた私だ。 本人も言いたい事があるだろうと微笑みを向けた。

「はい、なんなりとお申し付け下さい」

「君は父上が言っていた通り、僕に相応しい人のようだね。 まずは屋敷の管理を頼むよ。 今は、爺が面倒を見てくれているけれど、爺は父の執事だからね、何時までも此方の世話ばかりをしていられない」

「はい、問題はありません」

「公爵家の跡取り代行を求める事がある。 主に領地管理が君の仕事となる。 お茶会等や社交界等、君がどうしても、本当にどうしても出たいと言うなら、出てもいいけれど、基本的には出る必要はない。 いや、出て欲しくはないと言うのが本音だ。 そして……僕との婚姻を外部にひけらかすような事は止めて欲しい」

「問題ありません」

「本当に君は僕にぴったりな素敵な方だよ!! 君に紹介したい人達がいる」

「紹介ですか?」

「あぁ、この屋敷にとってとても重要な女性達だ」

 なんて言うから公爵家ならではのスーパー侍女を見せつけられるのか? 等と考えた。

 扉を開いた先。

 ソファに座っている女性達。

 それは、私が想像していたような侍女等では無かった。 彼女達3人はいずれも美しいドレスを身にまとっている。

 1人は、柔らかな布地で作られたパンツドレスを身に着けた、背筋がシュッとした凛々しい感じの女性。
 1人は、真っ赤なドレスを身に着けた妖艶系美女。
 1人は、ゆったりとしたふわふわのレースに身を包んだマタニティワンピースを身に着けていた。

「えっと……こちらは?」

 彼もまた、私の両親と同じタイプの善良な人間なのだろうか? そんな風にも考えた。 いえ、考えるようにしていた。 で、無ければ……金銭で買われたも同然の婚姻ではあったのだけど、余りにも惨め過ぎたから。

 だけど……夫となるだろう男カスパーは、ニコリと邪気の欠片も無い笑顔で私に言い放ったのだった。

「この三人は僕の最愛の人達ですよ。 僕に仕えるように彼女達にも仕えて下さいね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

皇帝の命令で、側室となった私の運命

佐藤 美奈
恋愛
フリード皇太子との密会の後、去り行くアイラ令嬢をアーノルド皇帝陛下が一目見て見初められた。そして、その日のうちに側室として召し上げられた。フリード皇太子とアイラ公爵令嬢は幼馴染で婚約をしている。 自分の婚約者を取られたフリードは、アーノルドに抗議をした。 「父上には数多くの側室がいるのに、息子の婚約者にまで手を出すつもりですか!」 「美しいアイラが気に入った。息子でも渡したくない。我が皇帝である限り、何もかもは我のものだ!」 その言葉に、フリードは言葉を失った。立ち尽くし、その無慈悲さに心を打ちひしがれた。 魔法、ファンタジー、異世界要素もあるかもしれません。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。

佐藤 美奈
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。 三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。 だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。 レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。 イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。 「子供の親権も放棄しろ!」と言われてイリスは戸惑うことばかりで、どうすればいいのか分からなくて混乱した。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

処理中です...