双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも

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 息苦しい……。
 頭の中がグルグルする。

「なぜ、そんな酷い事を言うの!!」

 叫びながら縋りつこうとするエリスの腕をつかんで抱き寄せるユーリは、丸出しの敵意を向けて来た。

「お前ならそう言うと思っていた。 お前は僕を愛してなどいないし、愛そうとした事もない。 興味を持った事すらな。 お前が興味を持っているのは自分への評価や実績ばかり。 僕は、何時だって孤独だった……そんな僕を救ってくれたのはエリスだ……優しく、思いやりにあふれた彼女は、愛情が、感情が欠如している君とは違って、とても魅力的なんだ。 自分のプライドをくじかれて不満なのは分かる。 だが、妹を傷つけて楽しいのか? 本当、醜い奴だな……父上、見て頂けたでしょうか!! このようなものが、未来の商会の要となるなどありえません。 僕とエリスとの婚姻をお認め下さい!!」

 身勝手……な、言い分。

 ユーリが言う通り、私がユーリを愛した事はない。 だけど……

「私を裏切っておいて、まだ、私を責めるのね!! 貴方の身勝手さには呆れてものも言えないわ」

「あぁ……やっぱり、お前は、自分の事しか考えない。 もう少し僕とユーリの事を考えてくれたなら、僕達は愛し合う事は無かった。 僕達はお前のその冷たさに傷ついていたんだ……お前は、そんな可能性すら考えようとしないんだね」

 訳が分からない、なぜ、私が責められなければいけないのよ!! 声を荒げれば……そこに付け込まれる事は分かっている。 だから、必死に言葉を飲み込んだ。

「仕事、勉強、接待、礼儀作法……仕事に勉強。 いつだって忙しいからと言って、お前はお前を恋しがる双子の妹を無視した。 悩みを聞こうとせず、教えを乞うている妹の願いを無視してエリスの仕事まで奪いとり仕事を処理し、褒められる自分に陶酔した。 自分こそ完璧な存在なのだと傲慢な態度をエリスに見せつけ、エリスの自尊心を砕いてきた。 僕に対する態度だって何時も同じだ……。 君は同じ家に住んでいながら、僕と視線を合わせ語ろうとした事はあっただろうか? 僕達はお前の冷たい態度に絶望したんだ……傷つけ続けていたんだ!!」

 私は……

 勢いのままに責められ呆然とする私の耳元に囁くクレイ。

 不謹慎的な行為。

 だけど……。

「身勝手な言い分です。 貴方が気にされる必要はありませんよ」

「クレイ……」

 囁くように顔を見れば、ユーリの言葉を吹き飛ばすように笑って見せるのだ。 おかげで気持ちが落ち着いた。

「二人の婚姻を祝福するって言っているでしょう……勝手にすればいいでしょう」

 そう、馬鹿げた事ばかり、身勝手な事ばかり言っていると声を荒げそうになるのを飲み込んだ。 この怒りは一時のものよ……叫んで感情的になって、後悔するのは私だけだから、我慢、我慢するのよ……。

「お前は僕達を傷つけていたと言う事に、罪の意識がないのか!! 思っていた以上に酷い奴だな……。 良心が欠如しているとしか思えない」

「何が言いたいのよ……」

「僕達に苦痛を強いた責任を取れと言っているんだ」

「責任? 流石にソレは馬鹿げているわ。 私はユーリ、貴方の妻となるため厳しい教育を受けていました。期待に応えてきました!! 私は……私は……何時だって必死だった、それを責められるなんて……納得いきません!!」

 私は会長の言われるままに生きて来た。 なら、当然、私の味方になってくれるだろうと思ったのに、会長の答えは違っていた。

 大きな疲れきった溜息を吐きこう言った。

「大きな声を出すな……。 お前がもっと頑張れば良かったのだろう。 ユーリとの時間をとるために努力が足りなかったと言う事だ」

 面倒な事に巻き込むな。
 子供の戯言に付き合っていられない。

 そんな表情が見て取れる。

 私は……従順に従っていたにも拘らず、彼の言葉に絶望した。 私の努力を評価してくれていたならあり得ない言葉だった。

「あぁ、そうですね……。 会長は実家との繋がりを求めて私とユーリとの婚約を決定した。 なら……エリスと私が入れ替わっても何の問題もないと言うことなのですね……」

 はぁ……と深い溜息と共にようやく私を案じる言葉を紡ぎ出した。

「まさか、私が娘として可愛がっていたのは、セレナだけだ。 だからこそ、この結果を残念に思っているし……君の未来を案じている。 そして……こんな2人に振り回されて欲しく等ないと思っている」

 優しい声だった。

 優しくそして……それでも……面倒くさそうだった。

「父上、彼女は人として欠如しているんですよ。 言っても無駄です。 だからこそ、僕は彼女を愛せなかったのですから。 だから僕は間違っていない!!」

 会長は沈黙し、冷ややかに……クレイとよく似た瞳でユーリを見れば、ユーリは黙り込んだ。

 沈黙が続く。
 誰もが息苦しさを覚えた。

 視線を合わせる事無く、誰もが次の言葉を探っている。

「よろしいでしょうか?」

 沈黙を破ったクレイは軽く手を上げ発言権を求めた。

「なんだ」

「今回の件で、貴族社会に2人の未来は広く周知されました。 オルエン商会の強引な商売を考えれば、付け入りどころと醜聞が広げられる事でしょう。 方針を定め、早い段階でオルエン商会としての発言を行うべきでしょう」

「それがどうした。 貴族社会において政治的婚約は珍しいものではない。 それが、政治的配慮を残したまま愛情ある婚姻に変わるんだ。 美談として語られても、醜聞に至る事はないだろう。 案じるとするなら婚約を破棄された側。 セレナの方だ。 政治的配慮があっても、同じ顔立ちをしていても、選ばれなかった欠陥品として、未来が閉ざされたと言って良いだろう。 私は、そんなセレナが哀れで仕方がないんだよ。 どうにか、彼女の未来を守ってやりたいと……悩んでいるんだ」

 幻滅している……会長の視線は語っており、私はより凍り付いたように言葉を失っていた。

「会長が案じる事はありませんよ。 彼女は優秀な人材です。 ここ数年、経理関係、交渉の下準備、接待、様々な事を彼女が担っていましたからね。 冷静になれば気づくはずです彼女ほど有能な人材はないと、そして彼女に直接交渉を行うはずです。 例えば……ガストン商会、ウォーカー商会、他にも彼女にアピールをしてくるだろう商会はいくらでも想像できます」

 次々に並べられる商会名。 だけど私は知っているそれらの商会の大半が彼が真のオーナーであると言う事を。

「そんな事許される訳ない!!」

「そうでしょうか? 彼女へのこの無神経な扱いを考えれば、当然起きるべき未来ですよ」

「セレナを育てたのは私だ!! 勝手が許される等と思ってもらっては困る!!」

「まぁまぁ、騒がないで下さい。 彼女を案じるとおっしゃるから問題ありませんよと話をしたまでです」

 クレイは薄く笑っていた。



「会長……お姉さまをそこまで思われているなんて、あの噂……もしかして、本当ですの?」



 エリスの声が突然に割って入った。

 どこまで真面目に……。
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