双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも

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 夢を見ていた。

 いえ……今までこそが夢だったのかもしれない。
 見たい事だけを見て、傷つく事を恐れていた。

 だから……ユーリがどれほど女遊びをしていても、平気だった。 例えソレが双子の妹でも……いえ、双子の妹だからこそユーリと仲睦ましいエリスを見て、自分なのだと気持ちを切り替えていたのかもしれない。

『妹と仲良くしてくれてありがとう。 あの子は寂しがり屋なの』

『私の婚約者と仲良くしてくれて嬉しいわ。 これからも私達は何時も一緒よ』

 二人がお互いを特別だと考えている中、私だけは呑気に二人が仲良くしている事を喜んでいた。

 私は臆病で……
 臆病過ぎて……
 間違っていた。

 私は涙と共に目を覚ます。



 目を覚ましたくない……。



 それでも、香しいお茶の匂いは食欲を刺激してくれば、優しい手つきで髪が撫でられていた。 もし、私が猫だったなら、その心地よさに喉をならし、もっと眠るのだと訴えかけた事だろう。

「おはようございます、セレナ。 朝食の準備がもうすぐで出来るそうです。 昨晩は夕食も取らずに眠りについたので、お腹がすいているでしょう」

 私は身体をおこし悲鳴を上げた。

 まだ流通前の特別な布地を使って作ったドレスが、皺皺になっていたのだ。

「あぁああああ、折角のドレスが……」

「申し訳ございません。 勝手に着替えさせる事には抵抗がございまして……女性の従業員にお願いしたほうがよろしかったですか?」

 店で見た敵意溢れる従業員の瞳を思い出せば、真新しいドレスが皺だらけになっていても、放っておいてくれて良かったと思った。

「風呂にお湯が入っています。 スッキリとされてはどうですか?」

「そうね……ありがとう」

 眠ってばかりではダメ、もっと現実的にものを考えないと。 私は落ち込んだ様子のままに風呂に入り、スッキリとした身体と頭でお風呂を出ればクレイはおらず、響くノックへの対応を必要とされた。

 昨日の……商会で向けられた嫌悪の視線を思い出せば躊躇いはあった。 だけど静まるノック音に罪悪感を覚えて扉を開いた。

「はい……」

「ぁっ……」

 詰まる声。

 口を押える少女。
 息を飲む女性。
 ただ立ち尽くす少年。

 エリスの汚点は……彼女の言動に気付かなかった私のものだわ……覚悟を決めた。

「何かしら?」

「よくご無事で……」
「私達ばかりが逃げてしまって……」
「案じておりました」

 三者三葉の思いは最後まで語られる事無く、涙に流れた。

 若い三人には覚えがあった。 奴隷のように売られてきた年若い子達。 まだ、未来があるからと文字と計算を教えた。 交渉の基礎を教えた。 最低限の礼儀作法を教えた。 そんな人達の中にいた子達だ。

「貴方達も無事だったのね……会長に消されたと聞いて心配していたわ」

「会長はそんな事はなさいません。 私達に利益を見出せば、それを利用しようとなさいました。 問題は、自分達の立場に脅威を覚えた管理職の者達です」

「そう、気づいてあげられなくてゴメンなさい」

「セレナ様……」

 3人は私の名前を繰り返すだけ。

 それもそうでしょう。

 私は決して虐げられていた訳ではありませんし、屈辱を受け、過去を否定された気分になったけれど、それでも……健康だし、温かな部屋で眠り、良い香りの湯でリラックスし、美味しそうな朝食が準備されている。

 慰めの言葉なんて場違いだ。

「お会いしたかったです」

「私も……ずっと気になっていたの。 貴方達がどう過ごしているか聞かせてもらえるかしら?」

 私が微笑んで見せれば、3人もまた微笑みを向けて来た。

「はい」

 クレイが仕事に忙しいから席を外す事になり、その日、私は3人と時間を過ごす事となった。



 今のオルエン商会は、会長と私、3人の幹部によって、昨日の報告をチェックし今後の計画を立てる会議を行っていた。

 5人で会社の経営方針を立てていた……といっても、私が作ったテンプレートを使い報告書を作り上げているのは、私が教育を行った人材で状況によっては事業停滞状態に陥っている事だろう。

 私を連れて行ったクレイが呼び出されるのは当然の事。 そう考えれば、放置されたなんて思う事は無かった。 むしろ今後の生き方を模索するのに丁度いいと思った。

「今、貴方達はどうしているのかしら?」



 商人専用の会員制の宿泊施設は豪華で安全。 私は、宿泊施設を見学し、堪能しながら、話を聞いていた。 話を聞けば聞く程、未来に対する安堵を覚える。

 悪くないわ……。
 大丈夫、私ならうまく出来る。
 役立つ事ができる。
 きっと、今度こそ必要とされるはずだわ。

 胸がチクりと痛くて、痛めば痛むほど私は饒舌に話を聞きだし、意見を述べ、話を聞いた。 そうやっているうちにも……私は幾度となく視線を感じていた。 気づかないふりをしてみたけれど、幾度も繰り返せば、理由があるような気がしてくる。

 何度目かの視線と、意味深な表情に私は席を立った。

「何か、私にようかしら?」

「いえいえ」

 愛想笑いと共に席を立った男性は、含みを持って去って行った。 幾度か繰り返すうちに、面識のある商人男性に声をかける事となった。

 余り期待はしていなかった。 商取引の駆け引きを繰り返した相手なら、こんな忙しいだろう時間に私がユックリと話をしてお茶をしているなんて想像もしないだろう。 もしかしてエリスと勘違いしているかもしれない。

「やはりセレナ様でしたか。 昨日は大変な目にお会いしたそうですな」

 息を飲む。

「なぜ……それを……」

 喉が詰まったような声だった。

 そんな私を面白がるように、目の前に新聞がポンっと置かれる。 描かれた挿絵は、私やエリス、ユーリとよく似ていて、昨日のユーリの発言がそのままに記載され、私が耐えきれず逃げ出したと書かれており、頭の中はグルグルと混乱に歪み、今にも悲鳴を上げそうになっていたけれど……、私は苦々しい表情を浮かべ停止していた。
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