双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります

すもも

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 焼け落ちた旧男爵邸の名義は今も男爵のもので、青年画家は王都での生活に苦しくなった男爵の留守を不法占拠していたと言う事だった。

 そして火災原因は、青年画家の火の不始末が原因と……新聞に書かれていた。

 冬の時期、王都での火災は決して少ないものではなく、そこまで人の注目を浴びるようなもので無い。 新聞のネタとされたのは、男爵邸が全焼した事、そして、火の元であり不法占拠していたのが美貌の青年だったから。

「彼はとても美しい方でした」
「身なりもよく、持ち物も豪華で……まさか不法占拠だったとは……」
「だからと言って、あのように酷い火傷の痕が残るのは気の毒なものですわ」
「あの美貌をもう2度と拝む事が出来ないなんて……もったいない」

 やがて人々の話は青年画家の出資者の話となっていった。

「あのように贅沢をしていたのだから、きっと立派なパトロンがついていたのね。 でも……彼の死体は引き取り手のないまま放置されたままなのでしょう?」

 やがて、それらの話は……エリスに拒絶された事に行きついていた。



 そして新聞内容は、エリスへのインタビューへと続いており、私は無表情のまま視線を巡らせ……そして新聞を投げつけた。

「セレナ様!!

 私専属の侍女となったメリーが、不安そうに私を見つめていた。

「……あら、つい……自室で良かったわ。 このような醜態を見られては、またどんな噂が増えるか……」

 苦笑い。

「大丈夫です!! この会員制商人専用宿屋に出入りする人々は、セレナ様がどのような方か分かっておりますから!! 新聞なんて誰も信用しません!!」

 そう握り拳を握り力説してくれた。

「ありがとう。 メリーがそう言ってくれるなんて、とても心強いわ」

 私はほほえましいと笑う事が出来て安堵した。

「私だけでなく誰もが言いますよ!! セレナ様は、お茶会や食事会を通じて商人同士の仲介を行ったり、勉強会を開いたり、日々この国のために尽力されているのですから。 役人さん達も勉強会に参加したいと希望されているとか聞きましたよ」

「……流石に、それは……」

「あぁ~~、そうですね……」

 メリーの声が沈んでいく。

 私が新聞に対して……いえ、エリスに対して怒ったのは、あの青年画家が私の愛人でオルエン商会の金を横領し金を貢いでいた事にされたから。

 そしてまた、涙ながらにエリスは私が悪いと、お姉さまを支える事が出来なかった私に問題があるのです。 と、だけれど……商会を、ユーリを裏切っていた事だけは許せない!! そう語っていたと続けられていたのだ。

 そして……定期的にエリスはネタを提供し、自分を正当化していた。

『こっちも対抗するかい?』

 そうクレイに聞かれたけれど、ユーリとエリスは一切商売に関わってこなかったし、それに商売は、商人同士の横の繋がりも大切になる。

『いえ……ケジメさえつければ、オルエン商会は終わりを迎えるのですから、そう騒ぎ立てる必要はありませんわ』

 等と呑気に構えていた訳で……。

 今、深く後悔していた。

「お茶を頂けるかしら?」

 エリスとユーリの結婚式と当主の代替わりが一緒に行われるから……、その場で縁を切るのが面倒が少ない等と思っていた私が間違っていました。 と、私は深く反省をする。



 私がどんなに大人しくしていても、悪名ばかり広げだす。
 いい加減ケリをつけなければ……。



 そして私は、髪を染め、髪を巻くのを止める事にした。

 そっくりだと言われる私達の容姿の一部は作られたもので、ソレを元に戻せば、エリスも容易に自分の責任を私になすりつけることは出来ないでしょうから。

 生まれたばかりの頃、そっくりだった私とエリスの髪色は、灰色っぽい髪色をしていた。 年を重ねるごとにエリスの髪色は濃く黒っぽく色づき、緩いウエーブをえがいた。 そして私の髪色は薄く白っぽく色落ちし、ストレートの髪になっていった。

『お姉さまと私は一緒でないとダメなの。 だって私達は双子で……二人で一人だし、それにお揃いの方が可愛いでしょう? だから、お姉さまは髪を私に揃えてね』

 他愛無い事のようにエリスは言うけれど、毎日髪を染めなければ色はすぐに薄くなるのだから、凄く手間だった……。

 もう!! 止めた!!

 と言うか……良く、いままで、続けていたものだわ私も!! まったく、馬鹿みたい。





「あれ? セレナ……髪色変わった? と言うか、色落ちした?」

 何故か毎日私の部屋に戻って来るクレイが、ほんの少し色が薄くなった髪に触れてくる。

「あれは……」

 私は髪色の秘密を説明した。

「それは、苦労していたのですね。 でも、新しいセレナを知るのは楽しみですよ。 折角だから、ソレをきっかけに全てを投げ出して、新しい自分になるのも良いでしょう。 新しい人生を共に歩ければ……私はとても嬉しいのですが」

 毎度すきあらばアピールしてくるクレイに私はつい照れ笑いを浮かべてしまうのだ。 怒りが続かない……これも、エリスを放置してしまっていた理由の一つかもしれませんわね。

 ニコニコ微笑みあう私達。

 そしてその横で、クレイは仕事をさりげなくごみ入れの中に放りこもうとしていて、私はその手に手を重ねて止めた。

「私が仕事をしないと困るのはクレイでしょう?」

 とは言うけれど、半分くらいはクレイが対処してくれているし、目につく問題がないと言う事は、それだけで余裕が生まれると言うことだ。

「そうでもありませんよ。 と言うか、あれだけセレナを悪者扱いしておいて、仕事をさせよう等と言う人は、くたばってくれて良いと思っていますから」

 ニコニコと言うから、私は困ったように笑ってしまう。

「ですが……私の問題をクレイに処理させるのも申し訳ありませんし、明日は私も商会の方に顔を出します」

「全て私に任せてくれても構わないのですよ? あんなのの顔を見るのもご不快でしょう」

「ケジメ、は、大切ですから。 それと今日の新聞をご覧になりました?」

「ぇ、あ、はい」

 あははははとバツの悪そうな感じで頬をかいて誤魔化していた。

「今日のは、冗談にもならないものでしたわ」

「えぇ、それで、どうされるのですか?」

「縁を切ってしまおうと思います」

「それはいいですね。 元の髪色に戻る前に全てを終え、新しい人生を歩む。 最高ではないですか。 宜しければ新しい人生の門出に新しい戸籍等いかがですか?」

「……それは少々大げではないでしょうか?」

「ですが、今までのエリスの行動を見ている限り、徹底すべきだと思うのですよ」

「戸籍なんて、そんな簡単なものではないでしょう?」

「祖父が王国の戸籍を預かっている立場なので、祖父が納得さえすれば……問題はありません。 それに……祖父母が以前から、セレナに会いたがっていたのですよ」

 てへへとばかりにはにかんだ笑みを向けて来る。

「クレイのお爺様と言うと、フォレスター侯爵でしたわよね? 少し、難易度が高いですわ……」

「身内と思って気安い気持ちで会ってくれればいいのですよ」

「でも、オルエン商会はフォレスター侯爵から資金提供を受けているでしょう? 私は、その、敵のようなものではありませんか?」

「問題ありませんよ。 会長は……父はオルエン商会をユーリに譲る事に決め、父自身はフォレスター侯爵の使用人として一から修行をすると決めたようですよ」

「それは……随分と思い切った決意をされたものね」

 唖然としたが……お世話になった人を傷つけずに済む事に安堵するのだった。
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