病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ

文字の大きさ
14 / 47

フィアナ、冒険者ギルドで絡まれる

しおりを挟む
 冒険者ギルドは、王都の商業地区の一角にありました。
 冒険者の権利保護、及び、その能力を平等に評価する――そんな信念で作られた冒険者ギルドは、今では王国中に支部を持つ大きな機関に成長しているそうです。

(騎士に、魔女っ子に、盗賊さんまで!)
(すごいです。これがリアルなファンタジー!)

 いかにもな服装は、冒険者にとっての正装といったところでしょうか。
 数多の冒険者が、冒険者ギルドに入っていくのを見て、

「たのもー!」

 私もワクワクと、その扉をくぐります。



「わぁ!」

 どうやら王都の冒険者ギルドには、居酒屋が併設されているようです。
 依頼を終えた冒険者たちが、エールを飲みながら上機嫌で談笑しています。
 それは見ているだけで楽しい気持ちになる日常風景でした。

「こんにちは! 冒険者ライセンスを作りたいです!」

 私は、受付嬢のテーブルに向かい、そう声をかけます。

「いらっしゃい、エリシュアンの学生さん? この時期に珍しいわね」
「えへへ。最近、編入したんです」

「こっちに名前と希望するクラスを書いてもらえる」
「クラス?」


 聞き慣れない言葉に、私はこてんと首を傾げます。

「クラスっていうのは、戦闘中にこなす役割。後で変更もできるから、難しく考えないで得意なことを書いたら良いよ」
「分かりました!」

 受付嬢に渡された紙には、代表的なクラスの一覧とその特徴が記されていました。
 こなす役割からクラスを選んで登録するというシステムは、パーティーを組むときにバランスを取りやすく利便性が高いそうです。
 なんだか前世で遊んでいたゲームみたいでワクワクします。

(私の得意なことは――魔法?)
(いいえ、超健康な私に向いているのはこっちです!)

 私は迷わず『ソルジャー』を選択。
 いわゆるガシガシ前に出る剣士クラス──これでもアル爺との模擬戦で鍛えましたし、せっかくなので身体をいっぱい動かしたいと思ったからです。

「お嬢ちゃん、剣士だったのね?」
「はい、前衛ならお任せを!」

 元気よく答える私を見て、受付嬢は楽しそうに苦笑します。

 「剣士には関係ないと思うけど決まりだから、魔力測定も済ませちゃいますね」

 受付嬢が、そんなことを言いながら水晶を渡してきました。

「これは?」
「あなた本当にエリシュアンの生徒?」
「すみません、王都に来たのが最近で常識には疎くて……」

 私が困ったように眉をひそめると、受付嬢が手慣れた様子で説明してくれました。

 いわく、触っただけでマナ量(またの名をマナ許容量。コントロールできる魔力の量のことらしいです)と、適正属性を測れる優れものだとか。
 私が、水晶にそっと手を触れると、水晶がまばゆい光を放ち、

 パーン!
 そう音を立てて、粉々に砕け散ってしまいました。

「ッ!?」
「あれぇ、すみません。水晶の調子が悪かったみたいで、ちょっと新しいやつ持ってきますね」

 首をひねりながら、水晶を交換する受付嬢。
 しかし、いくら新しい水晶に触れても、パリンパリンと割れるばかりでまともに測定結果を返してくれません。

「わ、私が不器用すぎるとか!?」
「いえ……、これはもしかすると――」

 受付嬢は何やら考え込んでいましたが、

「適正属性は、火・水・風・土の4属性。マナ量は――測定不能っと」

 ギルドカードにそう書き込みました。


(測定不能!?)

 ショックを受ける私をよそに、

「フィアナちゃんは、魔法は使わないの?」
「使いますよ!」

「なら、なんでクラスは剣士なの?」
「身体を動かしたいからです!」

 受付嬢は、不思議そうに目を瞬きました。
 それでもプロ意識からか、すぐに表情を作り直すと、

「エリシュアンの生徒さんは、普通はEランクからのスタートなのですが……、これだけの才能溢れる魔法使いをEランクにするのは――いえ、剣士でしたっけ?」
「はい! でも魔法も使います!」

 にっこり答える私を見て、

「う~ん、迷いますが――特例措置でCランクスタートとしましょう!」

 受付嬢は、そう宣言するのでした。

「わあ! ありがとうございます!」

 そうして受付嬢から、冒険者ライセンスを受け取ろうとした矢先――、


 
「おうおう、嬢ちゃん。ズルは良くねえなあ。ズルは!」

 顔を真っ赤にした酔っ払いが、そう私に絡んできました。

 モヒカンヘッドの喧嘩っ早そうな男で、こちらを威圧するように拳をゴキゴキ鳴らしています。
 お酒が入り、すっかり出来上がった様子で、

(うっわぁ……、グレンおじさんよりも面倒くさい臭いがします!)

 私が、故郷で散々絡んできたドワーフのおじさんを思い出していると、

「なんだ、その顔は! 今、『うっわ、面倒くさい酔っぱらいに絡まれた。面倒くせえ、死ねばいいのに』とか思ったな!?」
「そこまでは思ってませんよ! あっ…………」

「カァァァァ。エリュシアンのお貴族さまは、これだから――――」

 大げさにため息をつくモヒカンさん。
 いきなり向けられた敵意に、私がポカーンとしていると、

「賄賂でCランクスタートだぁ? けっ。現場知らずのお貴族さまは、大人しく学園で机にかじりついてやがれってんだ」

 モヒカン男は、そうガンを付けてきます。

(わ、賄賂ォ!)

 ひどい言いがかりに絶句していると、受付嬢がフォローするように口を開きます。

「マナ量が測定不能――その子、たぶんEランクの器じゃないですよ」
「大方、水晶に小細工してやがったんだろう!」
「いえ、ギルドで厳重管理している備品ですので……」

 周囲の冒険者たちは、モヒカン男を迷惑そうに見ています。
 しかし酔いが回ったモヒカン男は、まるで気がついていない様子。

「えっと……、別に私はEランクでも大丈夫ですよ」

 ちなみに冒険者ランクは、G~Sまでの8段階に分けされているそうです。

 私の目的は、あくまで死線を一緒にくぐり抜けて、最後には友達になることです。
 別にランクにこだわりはないのですが……、

「いいえ、フィアナちゃん。冒険者は信頼勝負――ここで引いたら舐められちゃいますよ。ここは毅然とした態度を取らないと」
「そ、そういうものなんですか?」

 そう受付嬢に言われてしまえば、引き下がることもできず、

「ええっと――」

 私が、どうしようと口をパクパクさせていると、

「ヒャッハー! オレっちも助太刀するぜぇ!」
「ヒュー、生意気なお貴族さまに痛い目見せようってんですね。あっちも助太刀しやす!」
「よせ、ジロー、サブロウ。こいつぁ、オレの獲物だ!」

 なぜかモヒカンが3人に増殖しました。
 面倒くささも3倍です。

「…………どうすれば良いですか?」

「決闘、決闘だぁ!」
「ヒャッハー! 冒険者の厳しさを叩き込んでやんよ!!」
「Cランクの俺たちと戦って、もし勝てたらCランクとして認めてやるよ!」

 思い思いにガンを飛ばしてくるモヒカン3人衆。
 しかしその迫力は、アル爺が模擬戦で飛ばしてきた研ぎ澄まされた殺気(仮にも娘に、あんな殺気を飛ばさないで頂きたい!)に比べれば、そよ風のようなもので……、

「分かりました、決闘ですね。受けて立ちます!」

 決闘、模擬戦、腕試し、遊び――私はルナミリアで、そう言葉を変えて何度も真剣勝負を繰り返してきました。

 一度の模擬戦は、百の会話に勝るもの。
 全力で戦った相手とは、不思議と仲良くなれるものなのです。

「――う~ん、面倒なので3人1緒でいいですか?」
「あぁん? 舐めてるんじゃねえぞ!」
「ヒャッハー! …………ぶち殺す!!」

(よし! 盤外戦術、成功です!)

 軽い煽りは、決闘においては挨拶代わり。
 ちゃっかり模擬戦に向けて意識を切り替えた私です。

「ええ? フィアナちゃん……、Cランクを同時に相手するとなると、Bランク相応の実力が必要で……、さすがに無茶だと――」
「大丈夫です。多人数相手の戦闘も練習してますから!」

 心配する受付嬢には、にっこり微笑みを返しておきます。
 そうして私とモヒカン3人衆は、闘技場(冒険者ギルドと併設されていました。素敵です!)に向かうのでした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。 とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。 …‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。 「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」 これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め) 小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

処理中です...