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第7部 大乱闘スマッシュシスターズ
第9話 第1回チキチキ☆最強ご主人様決定戦~ガチンコ騎馬戦対決!~
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オレンジ色が乱舞する駅前の公園内で、厳つい男たちを引きつれ、嬉しそうに微笑を浮かべる蜂谷転校生。
そんな彼女に、俺は目を剥きながら、慌てて手招きをしてみせた。
「は、蜂谷!? だ、ダメだって!? そんな悪玉菌の塊みたい連中の近くに居たら! ヤクルトあげるから、コッチにおいで?」
「あぁんっ!? 誰が悪玉菌じゃワレェ!?」
途端に、彼女の背後に控えていたバームクーヘンっぽいモヒカンをした男が、歯茎を剥き出しにして吠えてきた。
「テメェだって顔面モザイクみたいな顔しやがってからに!」
「はぁんっ!? 誰が歩く性病だってぇ!? 頭にバームクーヘン乗っけているクセに、変なこと言うんじゃねぇよ!」
「これはモヒカンじゃ、バカたれが! そういうテメェだって、頭にフランスパンが鎮座してるぞ? オシャレのつもりか? あぁん!?」
「ハッ! バームクーヘンには、このイカした髪形の良さは理解出来ねえようだなぁ!」
小馬鹿にした態度のまま鼻で笑ってやると、背後から芽衣たちの援護射撃が飛び交った。
「いや、どっちもどっちだと思いますよ?」
「……どちらもそんなにイカしてない。むしろダサい」
「同じパン頭なんだから、仲良くすればいいのにねぇ」
「ちょっ!? だ、ダメだよ、みんな!? そんなこと言っちゃ!? ぼ、ボクはカッコいいと思うよ、その頭!」
ズドドドドドドドッ! と、俺の身体ごと、言葉という名の弾丸で蜂の巣にしていく、我が仲間たち。
どうやら真の敵は、すぐ近くに居たらしい。
それから、よこたんよ? おまえは本当にいい奴だなぁ。
あとでお菓子を買ってあげよう。
「……おまえ、オレが言うのも何だが、仲間はもう少し選んだ方がいいんじゃないか?」
「……ありがとう。その、ごめんな? バームクーヘンなんて言って?」
「オレの方こそ、フランスパンなんて小馬鹿にして、すまない……」
蜂谷のすぐ背後に居たモヒカンが、優しい言葉を俺に投げかけてくれる。
おいおい?
もしかしたらコイツ、本当はいい奴なんじゃねぇの?
これがギャルゲーだったら、士狼ルートが確定している所だぞ?
俺の中でモヒカンの株が急上昇していく中、蜂谷が軽く手を挙げ「無駄話はそこまでデースッ!」とつぶやいた。
途端にあれだけ五月蠅かったモヒカンが、一瞬で黙り込む。
えっ? 何コレ?
どういう状況?
「約束通り来てくれて嬉しいデース! やっぱりオオカミくんは、ワタシが見込んだ通りの男デスネ!」
「約束ってことは……もしかして!? こ、この手紙は、蜂谷さんがわたくしめに宛てて、出したモノですかい!?」
「ハイ! その通りデス! ……ど、どうしマシタ? そんな急に泣き出シテ? お腹デモ痛いんデスカ?」
「ううん、喜びで胸が痛いんだ……」
俺はほら見ろ! とばかりに、背後にいた芽衣たちに、勝ち誇った視線を向けた。
役員全員「そんなバカな!?」とアホ面を浮かべていて、とても滑稽だった。
古羊姉妹に至っては、何度も目を擦ったり、頬を引っ張ったりしている始末だ。
「じ、実は、オオカミくんに大事な話があるんデス……」
キタッ!
告白だ!
俺は襟首を正しながら、出来るだけ凛々しい声を作りながら「大事な話? ハハッ、なんだい?」と爽やかに笑ってみせた。
常日頃から、いつでも告白されてもいいように、脳内で何度もシミュレーションしている俺に、死角はない。
全部「イエス」で返してやるさ!
蜂谷さんはモジモジッ!? と、可愛らしく膝を擦り合わせながら、
「オオカミくん……ぜひウチのチームに入ってくれまセンカ?」
「はいっ! よろしくお願い――なんだって?」
某夏の戦いに出てくる主人公よろしく「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁぁす!」と、下げそうになった頭を一時中断。
どういう意味? と、蜂谷に視線で尋ねると、彼女は「はて?」と首を傾げながら、その薔薇の花びらのような唇を綺麗に動かして言った。
「デスカラ、ワタシたちのチームに、ぜひともオオカミくんが入って欲しいんデスッ!」
「……チームって体育祭の? え~と……俺と蜂谷さんは同じクラスなんだから、同じチームなんだよ?」
「違いマス! 体育祭ではありマセン! ワタシ個人が作ったチームデス!」
意味が分からずプリティに小首を傾げていると、彼女の後ろに控えていた例のモヒカンが、言葉を継ぐように1歩前へと踏み出した。
「総長が言葉足らずでスマン。俺達は【東京卍帝国】第4部隊『ハニービー』。そして、この女性は東京卍帝国の6人の大幹部【シックス・ピストルズ】が1人、『悪童』の蜂谷蝶々さんだ」
「東京卍帝国って、メイちゃん!?」
「えぇ。洋子に賞金を懸けた奴らですね。しかも【シックス・ピストルズ】と言えば……」
「あぁ、オカマ姉さんと同じだ」
俺と双子姫の脳裏に、この夏、俺をある意味で窮地に立たせたハードゲイの姿が、鮮明に浮かび上がった。
廉太郎先輩と羽賀先輩は、俺たちの言っている意味が分からず、頭の上に「?」を乱舞させていたが、正直、説明している余裕はなかった。
なんせオカマ姉さんと同じ幹部ということは……コイツらの狙いは、よこたんだ。
この場で鉢合わせしてしまった以上、平和的解決も望めない。
なら、もうやる事は1つしかない。
俺がジャリッ! と足を鳴らすと、モヒカンが焦ったように言葉を紡ぎだした。
「お、落ち着け! オレたちの狙いは『古羊洋子』じゃない。おまえだ、喧嘩狼」
「……俺?」
あぁ、そうだ。
と、心優しきモヒカンは小さく頷いた。
「確かに本隊からは『古羊洋子の捕縛』を命じられている。が、ぶっちゃけ『ハニーボー』は、そんなモンに興味はねぇ。オレたちは西日本最強の男、喧嘩狼に興味がある」
「その通りデース! あの【出雲愚連隊】はおろか、九頭竜高校の鷹野翼、果ては【猫脚】までも倒したその力、超欲しいデース!」
「――と、ウチの隊長も喧嘩狼にご執心だ」
そこで、どうだ? とモヒカンが続けた。
「ウチに入らないか喧嘩狼? 今なら特別待遇で迎え入れるぞ?」
「楽しいデスヨ、ウチハ! 抗争もバリバリで、血が滾ること請け合いデス!」
「えぇ~っ? 俺、そういう血生臭いの嫌いなんだけどなぁ。どちらかと言えば、少年バトル漫画よりも、ハーレムラブコメの方が好きだし」
「……なんの話をしてるの、ししょー?」
ぼそりっ、と控えめにツッコムよこたんの言葉など、誰も耳には届いていないようで、蜂谷は「えぇっ!?」と驚きビックリとばかりに、真ん丸お目目をパチパチさせていた。
「男だったら、自分の腕で天下を取りたくないデスカ!? 誰よりも自分が強いと、頂きのテッペンで『素手喧嘩最強』を証明したくはないんデスカ!?」
「そんな誰も居ないテッペンで力を誇示したところで、意味なんて無くない? 興味ねぇよ」
「そんなっ!? 男の子は生まれて瞬間から『素手喧嘩で最強になりたい!』病気にかかっているんジャッ!?」
「いつの時代の話? ヤダよ、そんな昭和のヤンキーみたいな生活。疲れそう」
「ムゥ~……どうしてもダメデスカ?」
俺は確固たる信念を持って頷いてみせた。
それはもう、動かざることマグロ女の如し。
テコでも動かない所存だ。
蜂谷はしばし難しい顔を浮かべていたが、すぐさま何か思いついたようで「で、でしたラ!」と口をひらいた。
「もしウチのチームに入ってくれるのでアレバ、ワタシが何でも言うことを聞きマスヨ?」
「ッ! な、『なんでも』とは、文字通り『なんでも』ですか!?」
「ハイッ! なんでもデス!」
おいおい、そんな笑顔で了承しちゃってもいいのか蜂谷?
言っていくが、比喩でも何でもなく、俺は本気で『なんでも』お願いするぞ?
具体的に何をお願いするの? と問われれば、少々言葉に詰まるが、とりあえず夢想していた『赤ちゃんプレイ』は全てコンプリートする所存である。
よしっ! そうと決まれば、こうしちゃいられねぇ!
さっそく手始めに、軽いジャブとして日本の伝統芸能である『女体盛り』をお願いしようと、彼女の方に1歩踏み出そうとした矢先、
「――ちょっと待ってください」
グィッ! と、物凄い力で、何者かに襟首を引っ張られた。
「――申し訳ないですが、その提案は却下です」
そう言って、俺を自分の背後に隠しながら、ニッコリ♪ と微笑む芽衣。
気のせいか、芽衣の周りだけ空間が歪んでいるように見える。
あ、あれ?
芽衣ちゃん?
もしかして結構オコなの?
激オコプンプン丸なの?
「アナタは確か、同じクラスの……」
「古羊芽衣です。こうして面と向かってお話するのは初めてですね、蜂谷さん」
「そうデシタ、そうデシタ! コヒツジさんデス! 思いだしマシタ!」
穏やかに挨拶を交わす2人。
だが周りは沈没寸前のタイタニックのように静まり返っていた。
この場にいるギャラリー全員、肌で感じ取ってしまったのだ。
あぁ、出会ってはいけない2人が出会ってしまった……と。
「士狼を評価していただけて光栄なのですが、彼は生徒会側の人間です。そんな抗争やら何やらの危ないチームに、わたしの仲間を入れるワケにはいきません」
「ソレを決めるのはオオカミくんであって、アナタじゃないデスヨネ?」
「いいえ。士狼のことは、わたしが決めます。これは確定事項です」
「……横暴デスネ~。そんなんじゃ、彼に嫌われマスヨ?」
「ソレを決めるのも、わたしです」
毅然とした態度で、俺の人権を無視した会話が続く。
ギャラリーの誰かの息を呑む音が、やけに大きく聞こえた。
それほどまでの緊迫した雰囲気が、公園内を支配する。
誰も今のこの2人に逆らえる気がしなかった。
「……わかりマシタ。ならここは1つ、勝負といきまセンカ?」
「勝負?」
「ハイッ。この勝負で勝った方がオオカミくんを好きに出来る権利を得るというのは、いかがデスカ?」
「……面白い。いいですよ。その話、乗ってあげます」
気がつくと、俺の目の前で、勝手に俺を賭けた勝負が始まっていた件について。
あれあれ?
本人の意志は、どこいったのかなぁ?
ちょっと? 俺の意思が迷子になってますよぉ?
もちろん今の2人の間に口を挟む勇気など、到底持ち合わせていないチキンである所の俺は、何も言うことが出来ず、黙って生唾を飲み込んだよ☆
ただ、それはどうやら俺だけだったらしく、我が愛しき生徒会役員たちは、急に自己主張をし始めた。
「そ、その勝負、ボクも参加しちゃダメかな?」
と控えめに手を挙げる、爆乳わん娘。
「……どうでもいいから、もう帰りたい」
心底興味のない、無慈悲なる副会長。
「よしっ! その勝負、ボクが仕切らせてもらおう!」
そして満を持してしゃしゃり出る会計。
なんでラブリー☆マイエンジェルと廉太郎先輩は、こんなにノリノリなんだろう?
「理由は分からないけど、みんな友情を育みたいんだよね? でも拳で友情を育むのは、アマゾネスのやり方だからダメ! よってここは喧嘩じゃなくて、尋常にスポーツで決着をつけようじゃないか!」
俺と蜂谷さんの後ろに控えていた男たち数名が、声もないまま「……?」と首を傾げる。
相変わらず突飛なことを言う先輩である。
気がつくと、アレだけ重苦しかった空気は、いつの間にか霧散していた。
廉太郎先輩はドゥルルルルルルルルルル~♪ と、到底人の口から発せられるとは思えない巧みのドラムロールで、場を盛り上げる。
すげぇっ!?
どうやって、そんな音だしてるの!?
今度教えてもらおう。
「ジャカジャンッ! 勝負内容は『騎馬戦』だぁっ!」
「「騎馬戦?」」
芽衣と蜂谷が2人そろって眉をしかめる。
そんな2人に「オールライト!」と、下手クソな英語を繰り広げながら、廉太郎先輩は親指を突き立てた。
「体育祭も近いことだし、ここは森実高校体育祭メインイベントである『騎馬戦』で、決着をつけようじゃないか!」
「なるほど、そういうことですか……。わたしはもちろん構いませんよ」
「ワタシも構わないデスネ!」
俄然やる気を燃やす乙女2人。
バチバチッ! と、視線が激しく絡み合う中、2人は不敵な笑みを溢し合った。
「最初に言っておきますが……わたし、かなり強いですよ?」
「上等デス! そっちの方が血が滾りマース!」
蜂谷はその色素の薄い髪を秋風にさらわせながら、バッ! と身を翻す。
「当日を楽しみにしているデース! 乳首洗って、待っているがいいデース!」
それを言うなら『首』なのでは?
なんで乳首に限定しちゃった?
もしかしたら彼女は『おバカ』さんなのかもしれない……。
そんな確信めいた予感を胸に秘めながら、数人の男達を連れて去って行く蜂谷さんの後ろ姿を眺め続ける。
その後ろ姿はまさに『女帝』という言葉がふさわしく、圧倒的な存在感によって、俺の脳裏に刻み込まれた。
かくして、わたくし大神士狼本人の意志と人権を完全に無視した『第1回 チキチキ☆最強ご主人様決定戦 ~ガチンコ騎馬戦対決!~』の火蓋が、切って落とされたのであった。
そんな彼女に、俺は目を剥きながら、慌てて手招きをしてみせた。
「は、蜂谷!? だ、ダメだって!? そんな悪玉菌の塊みたい連中の近くに居たら! ヤクルトあげるから、コッチにおいで?」
「あぁんっ!? 誰が悪玉菌じゃワレェ!?」
途端に、彼女の背後に控えていたバームクーヘンっぽいモヒカンをした男が、歯茎を剥き出しにして吠えてきた。
「テメェだって顔面モザイクみたいな顔しやがってからに!」
「はぁんっ!? 誰が歩く性病だってぇ!? 頭にバームクーヘン乗っけているクセに、変なこと言うんじゃねぇよ!」
「これはモヒカンじゃ、バカたれが! そういうテメェだって、頭にフランスパンが鎮座してるぞ? オシャレのつもりか? あぁん!?」
「ハッ! バームクーヘンには、このイカした髪形の良さは理解出来ねえようだなぁ!」
小馬鹿にした態度のまま鼻で笑ってやると、背後から芽衣たちの援護射撃が飛び交った。
「いや、どっちもどっちだと思いますよ?」
「……どちらもそんなにイカしてない。むしろダサい」
「同じパン頭なんだから、仲良くすればいいのにねぇ」
「ちょっ!? だ、ダメだよ、みんな!? そんなこと言っちゃ!? ぼ、ボクはカッコいいと思うよ、その頭!」
ズドドドドドドドッ! と、俺の身体ごと、言葉という名の弾丸で蜂の巣にしていく、我が仲間たち。
どうやら真の敵は、すぐ近くに居たらしい。
それから、よこたんよ? おまえは本当にいい奴だなぁ。
あとでお菓子を買ってあげよう。
「……おまえ、オレが言うのも何だが、仲間はもう少し選んだ方がいいんじゃないか?」
「……ありがとう。その、ごめんな? バームクーヘンなんて言って?」
「オレの方こそ、フランスパンなんて小馬鹿にして、すまない……」
蜂谷のすぐ背後に居たモヒカンが、優しい言葉を俺に投げかけてくれる。
おいおい?
もしかしたらコイツ、本当はいい奴なんじゃねぇの?
これがギャルゲーだったら、士狼ルートが確定している所だぞ?
俺の中でモヒカンの株が急上昇していく中、蜂谷が軽く手を挙げ「無駄話はそこまでデースッ!」とつぶやいた。
途端にあれだけ五月蠅かったモヒカンが、一瞬で黙り込む。
えっ? 何コレ?
どういう状況?
「約束通り来てくれて嬉しいデース! やっぱりオオカミくんは、ワタシが見込んだ通りの男デスネ!」
「約束ってことは……もしかして!? こ、この手紙は、蜂谷さんがわたくしめに宛てて、出したモノですかい!?」
「ハイ! その通りデス! ……ど、どうしマシタ? そんな急に泣き出シテ? お腹デモ痛いんデスカ?」
「ううん、喜びで胸が痛いんだ……」
俺はほら見ろ! とばかりに、背後にいた芽衣たちに、勝ち誇った視線を向けた。
役員全員「そんなバカな!?」とアホ面を浮かべていて、とても滑稽だった。
古羊姉妹に至っては、何度も目を擦ったり、頬を引っ張ったりしている始末だ。
「じ、実は、オオカミくんに大事な話があるんデス……」
キタッ!
告白だ!
俺は襟首を正しながら、出来るだけ凛々しい声を作りながら「大事な話? ハハッ、なんだい?」と爽やかに笑ってみせた。
常日頃から、いつでも告白されてもいいように、脳内で何度もシミュレーションしている俺に、死角はない。
全部「イエス」で返してやるさ!
蜂谷さんはモジモジッ!? と、可愛らしく膝を擦り合わせながら、
「オオカミくん……ぜひウチのチームに入ってくれまセンカ?」
「はいっ! よろしくお願い――なんだって?」
某夏の戦いに出てくる主人公よろしく「よろしくお願いしまぁぁぁぁぁぁぁす!」と、下げそうになった頭を一時中断。
どういう意味? と、蜂谷に視線で尋ねると、彼女は「はて?」と首を傾げながら、その薔薇の花びらのような唇を綺麗に動かして言った。
「デスカラ、ワタシたちのチームに、ぜひともオオカミくんが入って欲しいんデスッ!」
「……チームって体育祭の? え~と……俺と蜂谷さんは同じクラスなんだから、同じチームなんだよ?」
「違いマス! 体育祭ではありマセン! ワタシ個人が作ったチームデス!」
意味が分からずプリティに小首を傾げていると、彼女の後ろに控えていた例のモヒカンが、言葉を継ぐように1歩前へと踏み出した。
「総長が言葉足らずでスマン。俺達は【東京卍帝国】第4部隊『ハニービー』。そして、この女性は東京卍帝国の6人の大幹部【シックス・ピストルズ】が1人、『悪童』の蜂谷蝶々さんだ」
「東京卍帝国って、メイちゃん!?」
「えぇ。洋子に賞金を懸けた奴らですね。しかも【シックス・ピストルズ】と言えば……」
「あぁ、オカマ姉さんと同じだ」
俺と双子姫の脳裏に、この夏、俺をある意味で窮地に立たせたハードゲイの姿が、鮮明に浮かび上がった。
廉太郎先輩と羽賀先輩は、俺たちの言っている意味が分からず、頭の上に「?」を乱舞させていたが、正直、説明している余裕はなかった。
なんせオカマ姉さんと同じ幹部ということは……コイツらの狙いは、よこたんだ。
この場で鉢合わせしてしまった以上、平和的解決も望めない。
なら、もうやる事は1つしかない。
俺がジャリッ! と足を鳴らすと、モヒカンが焦ったように言葉を紡ぎだした。
「お、落ち着け! オレたちの狙いは『古羊洋子』じゃない。おまえだ、喧嘩狼」
「……俺?」
あぁ、そうだ。
と、心優しきモヒカンは小さく頷いた。
「確かに本隊からは『古羊洋子の捕縛』を命じられている。が、ぶっちゃけ『ハニーボー』は、そんなモンに興味はねぇ。オレたちは西日本最強の男、喧嘩狼に興味がある」
「その通りデース! あの【出雲愚連隊】はおろか、九頭竜高校の鷹野翼、果ては【猫脚】までも倒したその力、超欲しいデース!」
「――と、ウチの隊長も喧嘩狼にご執心だ」
そこで、どうだ? とモヒカンが続けた。
「ウチに入らないか喧嘩狼? 今なら特別待遇で迎え入れるぞ?」
「楽しいデスヨ、ウチハ! 抗争もバリバリで、血が滾ること請け合いデス!」
「えぇ~っ? 俺、そういう血生臭いの嫌いなんだけどなぁ。どちらかと言えば、少年バトル漫画よりも、ハーレムラブコメの方が好きだし」
「……なんの話をしてるの、ししょー?」
ぼそりっ、と控えめにツッコムよこたんの言葉など、誰も耳には届いていないようで、蜂谷は「えぇっ!?」と驚きビックリとばかりに、真ん丸お目目をパチパチさせていた。
「男だったら、自分の腕で天下を取りたくないデスカ!? 誰よりも自分が強いと、頂きのテッペンで『素手喧嘩最強』を証明したくはないんデスカ!?」
「そんな誰も居ないテッペンで力を誇示したところで、意味なんて無くない? 興味ねぇよ」
「そんなっ!? 男の子は生まれて瞬間から『素手喧嘩で最強になりたい!』病気にかかっているんジャッ!?」
「いつの時代の話? ヤダよ、そんな昭和のヤンキーみたいな生活。疲れそう」
「ムゥ~……どうしてもダメデスカ?」
俺は確固たる信念を持って頷いてみせた。
それはもう、動かざることマグロ女の如し。
テコでも動かない所存だ。
蜂谷はしばし難しい顔を浮かべていたが、すぐさま何か思いついたようで「で、でしたラ!」と口をひらいた。
「もしウチのチームに入ってくれるのでアレバ、ワタシが何でも言うことを聞きマスヨ?」
「ッ! な、『なんでも』とは、文字通り『なんでも』ですか!?」
「ハイッ! なんでもデス!」
おいおい、そんな笑顔で了承しちゃってもいいのか蜂谷?
言っていくが、比喩でも何でもなく、俺は本気で『なんでも』お願いするぞ?
具体的に何をお願いするの? と問われれば、少々言葉に詰まるが、とりあえず夢想していた『赤ちゃんプレイ』は全てコンプリートする所存である。
よしっ! そうと決まれば、こうしちゃいられねぇ!
さっそく手始めに、軽いジャブとして日本の伝統芸能である『女体盛り』をお願いしようと、彼女の方に1歩踏み出そうとした矢先、
「――ちょっと待ってください」
グィッ! と、物凄い力で、何者かに襟首を引っ張られた。
「――申し訳ないですが、その提案は却下です」
そう言って、俺を自分の背後に隠しながら、ニッコリ♪ と微笑む芽衣。
気のせいか、芽衣の周りだけ空間が歪んでいるように見える。
あ、あれ?
芽衣ちゃん?
もしかして結構オコなの?
激オコプンプン丸なの?
「アナタは確か、同じクラスの……」
「古羊芽衣です。こうして面と向かってお話するのは初めてですね、蜂谷さん」
「そうデシタ、そうデシタ! コヒツジさんデス! 思いだしマシタ!」
穏やかに挨拶を交わす2人。
だが周りは沈没寸前のタイタニックのように静まり返っていた。
この場にいるギャラリー全員、肌で感じ取ってしまったのだ。
あぁ、出会ってはいけない2人が出会ってしまった……と。
「士狼を評価していただけて光栄なのですが、彼は生徒会側の人間です。そんな抗争やら何やらの危ないチームに、わたしの仲間を入れるワケにはいきません」
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毅然とした態度で、俺の人権を無視した会話が続く。
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それほどまでの緊迫した雰囲気が、公園内を支配する。
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「……わかりマシタ。ならここは1つ、勝負といきまセンカ?」
「勝負?」
「ハイッ。この勝負で勝った方がオオカミくんを好きに出来る権利を得るというのは、いかがデスカ?」
「……面白い。いいですよ。その話、乗ってあげます」
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もちろん今の2人の間に口を挟む勇気など、到底持ち合わせていないチキンである所の俺は、何も言うことが出来ず、黙って生唾を飲み込んだよ☆
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相変わらず突飛なことを言う先輩である。
気がつくと、アレだけ重苦しかった空気は、いつの間にか霧散していた。
廉太郎先輩はドゥルルルルルルルルルル~♪ と、到底人の口から発せられるとは思えない巧みのドラムロールで、場を盛り上げる。
すげぇっ!?
どうやって、そんな音だしてるの!?
今度教えてもらおう。
「ジャカジャンッ! 勝負内容は『騎馬戦』だぁっ!」
「「騎馬戦?」」
芽衣と蜂谷が2人そろって眉をしかめる。
そんな2人に「オールライト!」と、下手クソな英語を繰り広げながら、廉太郎先輩は親指を突き立てた。
「体育祭も近いことだし、ここは森実高校体育祭メインイベントである『騎馬戦』で、決着をつけようじゃないか!」
「なるほど、そういうことですか……。わたしはもちろん構いませんよ」
「ワタシも構わないデスネ!」
俄然やる気を燃やす乙女2人。
バチバチッ! と、視線が激しく絡み合う中、2人は不敵な笑みを溢し合った。
「最初に言っておきますが……わたし、かなり強いですよ?」
「上等デス! そっちの方が血が滾りマース!」
蜂谷はその色素の薄い髪を秋風にさらわせながら、バッ! と身を翻す。
「当日を楽しみにしているデース! 乳首洗って、待っているがいいデース!」
それを言うなら『首』なのでは?
なんで乳首に限定しちゃった?
もしかしたら彼女は『おバカ』さんなのかもしれない……。
そんな確信めいた予感を胸に秘めながら、数人の男達を連れて去って行く蜂谷さんの後ろ姿を眺め続ける。
その後ろ姿はまさに『女帝』という言葉がふさわしく、圧倒的な存在感によって、俺の脳裏に刻み込まれた。
かくして、わたくし大神士狼本人の意志と人権を完全に無視した『第1回 チキチキ☆最強ご主人様決定戦 ~ガチンコ騎馬戦対決!~』の火蓋が、切って落とされたのであった。
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