みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん

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第7部 大乱闘スマッシュシスターズ

第10話 ご機嫌ナナメな女神さま♪

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 大神士狼争奪杯の日取りが決定した、翌日の早朝。

 俺はいつものように、古羊姉妹と一緒に学校まで続く坂道を歩きながら、いつもと違う芽衣の雰囲気に、戸惑いを隠せないでいた。



「あ、あの芽衣さん? 何か今日はやけにピリピリしてないですか?」



 もしかしてあの日ですか? と出かかった言葉を、寸前で飲み込む。

 いやぁ、だってさ?

 今日の芽衣の様子を見るに、冗談が通じないどころか、完全に言い負かされ、膝を抱えて号泣する未来しか見えないんだもん。



「ピリピリなんかしていません。それはきっと、士狼の勘違いです」


 にっこり♪ と、いつもの強化外骨格のような笑顔を顔に貼り付けながら、背後にバラの花を舞散らさせる。

 確かに、見た目はいつも通りだが……もうね、雰囲気が全然違うの。

 笑顔の裏に般若はんにゃが見え隠れしているのよね?

 なにあの笑顔?

 すげぇ怖いんですけど?

 その妙に迫力のある笑顔に「そ、そうですか……」と返事をすることしかできない。

 く、苦しい!?

 爽やかな朝だというのに、息が苦しいよぉっ!

 俺は同じく芽衣の後ろをトボトボと歩いている爆乳わんのもとまで近づき、小声で助けを求めた。



(おい、よこたん。これは一体どういうことだってばよ?)

(ど、どういう事とは?)

(なんでアイツ、朝からあんなに機嫌が悪いんだよ? もしかして『あの日』か?)

(……ししょーにデリカシーを求めるのは、もう諦めたからいいけどさ。ボク以外にそんなこと、絶対に聞いちゃダメだよ?)



 なんだか気づかないうちに、ラブリー☆マイエンジェルに諦められているんですけど、俺?

 お嬢ちゃん? 知ってる? 目の前で匙を投げられるのが、1番傷つくんだよ?



(一応言っておくけど、別に『あの日』じゃないからね?)

(『あの日』じゃないのか……。なら何であんなにピリピリしてるんだよ? おっかなくて、オションションが漏れそうだわ)

(えっ!? も、もしかして分からないの、ししょー!? あんなに分かりやすいのに!?)



 よこたんが『信じられない!?』とばかりに目を見開く。

 えっ、なに?

 その『鈍感男、死ね!』みたいな目は?

 ちょっ、やめてよ?

 そんなダメな子を見るようなで、俺を見ないで!?

 言っとくがなぁ、あまり俺を刺激しない方がいいぜ?

 こっちには伝家の宝刀である「泣き土下座」がスタンバイしているんだぜ?

 この天下の往来の場で、見事に泣き叫びながら、『もう止めてよ、ししょーっ!?』と、おまえが半泣きになるまで、地面に額を擦りつけてやろうか?

 俺が1人決意を新たにしている間に、前を歩いていた芽衣が、



「何をしているんですか2人とも? はやく行きますよ」



 と催促さいそくしてくるので、あえなく断念。

 しょうがないので、素直に芽衣の後ろを着いて行きながら、校舎の中へと足を踏み入れる。

 昇降口でよこたんと別れ、俺と芽衣は愛しの2年A組へと続く廊下を無言で、歩き続けた。



「…………」
「…………」
「……あの?」
「黙って歩け」
「……はい」



 ……く、空気が重い!?

 窒息しそうだ!

 は、はやく教室に辿り着いてくれ!

 心の中で『はやく♪ はやく♪』と、両足を急かしながら、なんとか教室の前までたどり着くことに成功。

 や、やっとこの重苦しい空気から解放される!

 俺が喜び勇んで、おもむろに教室のドアを開けた瞬間、



「あっ! やっと来まシタネ! 待ってマシタヨ、オオカミくん!」
「うぉっ!?」



 まるでご主人様の帰りを待っていた忠犬よろしく、ガバッ! と俺の腕に抱き着く、蜂谷さん。

 途端に教室の温度、というか男達の瞳の温度が2度ほど下がったのが分かった。

 蜂谷はマーキングする猫のように、俺の二の腕に自分の頬をスリスリすると、ニパッ! と眩しい笑顔を浮かべて口をひらいた。



「おはようゴザイマス、オオカミくん! 今日もいい天気デスネ!」

「で、でへへ♪ お、おはようございま――ぷげらっ!?」

「あらあら士狼? そんな所に突っ立っていたら、通行の邪魔ですよ?」



 ズドムッ! と、芽衣の鞄の角が下腹に突き刺さる。

 途端に「よっしゃぁっ!」と歓声をあげるカスども。

 ほんとウチのクラス、ロクなヤツがいない……。

 ほろりと涙を溢す傍らで、さも「偶然ですよ?」とばかりに澄ました顔を浮かべる芽衣。

 その瞳は俺など見ておらず、まっすぐ蜂谷を射抜いていた。



「おはようございます、蜂谷さん。今日も朝から発情ご苦労さまです」



 芽衣は蜂谷にしか聞こえない声量で、ぼそりと呟いた。

 そのまま空いていた俺の腕を、むんずっ! と無理やり掴むと、強引に引っ張り、自分の背後に隠すように蜂谷の前へ1歩踏み出した。

 瞬間、気が狂いそうになるほどの静寂が、教室を包み込んだ。

 なんせ今の状態を傍から見れば、


『女神さまが大神を無理やり蜂谷から引き離した』


 という図になるのだから。

 そりゃ無責任のギャラリーたちも、息を呑みますわな。

 なんて他人事のように現状を分析していると、蜂谷の瞳が楽しげに細められた。



「おはようゴザイマス、コヒツジさん! 今日も偽物じみた笑顔が輝いてマスネ!」

「ありがとうございます。そういう蜂谷さんこそ、毎日発情お疲れさまです」

「アッハッハッハッハ!」
「うふふふふふ」



 美少女2人の心底楽しそうな声が、教室中に木霊する。

 うんうん、やっぱり女の子は笑顔が1番だよね。

 ほんと楽しそうだ……目ぇ以外は。



「た、大変だ! アマゾンがこの緊張感に耐えられなくて、打ち上げられたハマチみたいになってる!?」

「しっかりしろアマゾン! だ、誰か! この中にお医者様の息子はいませんか!?」

「な、なんで大神ばかり良い思いをするんだ……ファ●ク」



 視界の端で、アマゾンが息絶える姿を捉える。

 まぁ、アイツはどうでもいいか。

 アマゾンがご臨終になったとの同時に、ぐにゃりっ! と、2人の間の空間が激しく歪んだ。

 その暴力的なまでのプレッシャーに、息が続かないっ!?

 は、早くこの場を離脱しなければ!

 そう思ったのはどうやら俺だけではないらしく、みなアマゾンを放って教室の外へ飛び出していった。

 これは俺も乗るしかない、このビックウェーブに!

 グッ! と足に力をこめる――が、



「あらあら? どこへ行く気ですか、しろぉ♪」
「ふぇぇ……」



 芽衣が俺の腕をガッチリホールドしているため、逃げるに逃げられない!? 

 いやぁぁぁぁぁ!?

 誰か助けてぇぇぇぇぇっ!?

 結局、我が担任が教室にやってくるまで、この異様な笑い声のオーケストラは続いたのであった。
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