『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました

宵原リク

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第9話迫る影、揺れる心

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 数日が経った。
 政宗の屋敷はいつも通り静かで、番狐たちも落ち着いていた。
 ただ――私の胸の奥だけは、ふわふわと不安が残っていた。

 外に出ることを控えているせいで、庭の風の匂いを感じる時間が増えた。
 それは穏やかで、幸せなはずなのに……どこか落ち着かない。

「……政宗、今日は帰りが遅いな」

 書斎で何か調べていると言っていたけれど、
 気づけば日が暮れ始めていた。

 そんな時だった。

 コン、コン。

 控えめなノックが部屋に響く。

「椿様。政宗様がお呼びです」

「今から……?」

「はい。至急とのことです」

 胸がざわりと揺れた。
 嫌な予感がする。
 番狐の顔は普段よりわずかに緊張していた。

 私は部屋を出て、政宗の書斎へ向かった。

◆◆◆

 扉を開けた瞬間――空気が、一気に張り詰めた。

 政宗は机の前に立っていた。
 その目は鋭く、瞳の奥には金色の光がちらついている。

「椿様。来てくださってありがとうございます」

「政宗……何があったの?」

 声が震えた。
 政宗はすぐに私へ歩み寄り、そっと肩に触れる。

「驚かせてしまい申し訳ありません。ですが、どうしても伝えねばならないことがあります」

「……うん」

 政宗はわずかに息を整えた。

「八代家が本日……椿様奪還の正式命令を出しました」

「…………え?」

 頭が真っ白になった。
 政宗の言葉は続く。

「名目は家の名誉を守るため。そして――椿を保護することが国の務めであるとまで言い始めています」

「そんな……」

 手が震える。
 もう家に戻る意思なんてない。
 だけど、彼らにそんな理屈は関係ないのだ。

「政宗……どうしよう……」

 泣きそうな声で縋るように言った瞬間、
 政宗は私の手を両手で包み込んだ。

「心配はいりません。必ず守ります」

「でも……あの家の人たちは……」

「ええ。彼らは強引な手段を使ってくるでしょう。
 だからこそ、椿様に伝えねばなりません」

 政宗の声が少しだけ低くなった。

「――今夜、八代家の者たちがこの屋敷の周辺に現れました」

「っ……!」

 一気に背中が強張る。

「ま、まだこの屋敷には入ってきてないのよね……?」

「安心してください。番狐たちが結界を張り、外からは絶対に入れません。
 ですが……」

「……ですが?」

「彼らは諦めていません。
 “政宗に連れて行かれた”という噂が広まり、椿様を所有物のように扱う言葉まで聞こえる」

 胸が痛くなった。
 あの家の人たちは、私の意思なんて最初から見ていなかった。

 政宗はそっと私の頬に触れ、まっすぐ見つめる。

「椿様。ここからは、私の願いでもあります」

「……政宗の?」

「はい。どうか……屋敷から離れないでください。
 外へ出た瞬間、狙われる可能性があります」

「……わかった。怖いけど……政宗がそう言うなら」

 小さく震える声で答えると、
 政宗は強く抱きしめてきた。

「大丈夫です。どれほどの敵が来ようと、私がすべて退けます。
 椿様を手放すつもりはありません」

 その言葉に胸が熱くなり、涙がにじむ。

◆◆◆

 その時――屋敷の外で、突然、鈴の音が鳴った。

 ――カラン……コォン……!

「っ、何……!?」

 驚いて身をこわばらせる。

 政宗の表情が一瞬だけ鋭くなる。

「……椿様、下がってください」

 そう言うと政宗は扉に向き直り、わずかに妖気を放つ。

「番狐たちが結界を張り直しています。ですが――
 どうやら八代家の陰祓いが一人、屋敷の結界に触れたようです」

「い、陰祓いって……八代家の……術師……?」

「ええ。家の護りを担当する、かなり腕の立つ者です」

 鼓動が早くなる。
 政宗はそんな私を抱き寄せ、低く囁くように言った。

「安心してください。結界が破られることはありません。
 ですが……これで明らかになりました」

「な、何が……?」

「八代家は正式に敵となったということです」

 その言葉に、ぞくりと背筋が震えた。
 けれど。

 政宗の腕の中は、温かかった。

「椿様。何があっても離れません。
 ……どうか、信じて」

「……うん。信じる。政宗のこと、全部」

 震える声でそう言うと、政宗は優しく微笑んだ。

「ありがとうございます。
 椿様――必ず、この手で守ります」

 外では風が鳴り、鈴が揺れる音が続いていた。

 まるで、嵐がすぐそこまで迫っているかのように。
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