『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました

宵原リク

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第12話夜の崩壊、九尾の牙が目を覚ます

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  政宗の腕に抱き寄せられたまま、私は息を飲んだ。

 結界の外では、姉が扇子をゆっくりと持ち上げる。
 月光が白い肌を照らし、その瞳はぞっとするほど冷たい。

「椿。あなたは八代家のものよ。
 こんな妖に囚われて、何をしているの?」

「囚われてなんか……!」

 言い返そうとした瞬間、
 政宗が私の肩を抱く腕に力を込めた。

「椿様、刺激してはなりません。あれは……普通の術者ではありません」

「……姉様なのに?」

「ええ。むしろ姉だからこそでしょう。
 ――あなたを奪い返すことだけに執着している」

 政宗の声は低い。
 怒りではなく、冷たい警戒心の色。

 その時――

 バキィッ!

 結界が一瞬、ひび割れた。

「っ……!」

 私は思わず政宗の袖を掴む。

「なに……今の……」

「結界に仕込んでいた術を……強引に破ろうとしているのです」

 政宗の眉が険しくなる。

 姉は扇子を広げ、ふわりと微笑んだ。

「九尾様。あなたの結界、思ったより脆いのね?
 ちょっと拍子抜けしたわ」

「好き勝手言うな」

 政宗の声が低く響き、空気が震えた。

 次の瞬間――姉の身体から黒い霧のようなものが立ち上がる。

「陰祓い三名、結界に接触。
 ――封術、始動」

「封術……?」

 姉が指先で印を結ぶと、外の三人の陰祓いが一斉に地面へ札を打ち込み始めた。

「政宗……!」

「下がってください!!」

 政宗が私を強く抱きしめた瞬間、
 結界の外側から黒い稲妻のような衝撃が走った。

 ズドォンッッ!!

 地面が揺れ、屋敷の瓦がカタカタと震える。

「結界が……削られてる……」

「ええ。ですが破らせません。
 椿様は……私が守る」

 政宗の声は静かで、けれど燃えるように強かった。

 姉はその様子を見て、嗤った。

「ふふ。椿。見てわかったでしょう?
 あなたが家に帰らないと……八代家はあなたを奪い返すまで何でもするのよ」

「……そんなの……おかしいよ」

「おかしくないわ。あなたは家の救いなんだから」

 その言葉に、背筋が冷える。

 政宗が私をかばうように前へ出た。

「椿様は、誰かの道具ではありません」

「へぇ……本気で言っているのね。
 椿を守る? 九尾のあなたが?
 だったら――証明してみせて?」

 姉が印を結んだ瞬間、黒い霧が一斉に結界へ襲いかかる。

 ひび割れが広がり、破裂音が響く。

「政宗……!」

「離れないで。私から絶対に」

 政宗の金の瞳が、ゆっくりと変化していった。

 ――炎のような赤。

 ――闇のような深い金色。

 ふたつが混じり合い、妖の本性が滲み出す。

「政宗……目が……」

「大丈夫です。椿様の安全のために少し力を使うだけ」

 声も低く、震えるように艶を帯びていた。

 九尾の本能が、椿を守るために目覚めようとしている――
 そんな気配がひしひしと伝わってくる。

「結界、破れますよ――九尾様」

 姉が挑発するように笑った。

「……させません」

 政宗が片手を上げた瞬間。

 風が巻き起こり、政宗の体から無数の尾が影のように揺れ出した。
 九尾の姿は完全には現れていない。
 けれど、周囲の空気が一瞬で変わった。

 屋敷にいた妖たちが、一斉にひれ伏すほどの圧。

「政宗……そんなに力使って……!」

「椿様を奪われるぐらいなら……この程度、惜しくありません」

 その瞬間――

 姉の術が結界に直撃した。

 パリンッ!

 結界の一部が砕け、黒い霧が小さく流れ込む。

「っ!! 政宗!」

「大丈夫です……まだ内側は守れます」

 しかし政宗の額には汗が滲む。

 九尾である彼でも、外側からの陰祓い三名+姉の術は厳しい。

 結界は……長くはもたない。

「椿。帰りましょう。
 その九尾はもうすぐ力を使い切る。
 あなたが戻れば、誰も苦しまないのよ?」

「……」

 違う。
 私が戻れば――政宗が苦しむ。

 八代家の“道具”にされる未来が、すぐそこまで迫っている。

 私は震える手で、政宗の袖を掴んだ。

「政宗……わたし……戻らない。絶対に」

 その言葉に、政宗の瞳が大きく揺れた。

「椿様……」

「だって……政宗が守ってくれてるのに……わたしだけ帰るなんて……できないよ……」

 声が震え、涙がこぼれる。

 政宗は一瞬唇を噛んだ後、私を強く抱きしめた。

「ありがとうございます……椿様。
 その言葉だけで、私は……戦える」

 次の瞬間。

 政宗の背後で、九本の影が大きく揺れ上がった。

「この屋敷に……椿様に……指一本触れさせない」

 その声は、妖の頂点――九尾そのものの声。

 外の姉でさえ、一瞬ひるんだほどだった。

 ◆◆◆

「じゃあ……いいわ」

 姉がふっと笑う。

「今日は引く。でも……必ず迎えに来るから」

 その言葉と共に、黒い霧が静かに引いていく。

 結界のひびは残ったまま。

 姉の笑い声だけが、風に溶けて消えた。

 政宗は結界が安定したことを確認すると、
 その場に片膝をついた。

「政宗!? 大丈夫!?」

「……ええ……大丈夫……ですが……少し、力を使い過ぎました……」

 九尾の瞳がゆっくりと元の金色に戻る。

 私は政宗の肩を支えながら、必死に叫んだ。

「政宗を……苦しめるなんて……姉様、絶対に許さない……!」

 月の光が強く照らす中、
 私は初めて胸の奥で――はっきりと怒りを覚えていた。
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