『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました

宵原リク

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第13話八代家、動く

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 夜の静けさが戻った後も、政宗さんは私のそばを離れなかった。
 けれど、その穏やかな時間は長く続かなかった。

 翌朝。
 屋敷の縁側に座り、白い湯気の立つお茶を飲んでいると、政宗さんがふいに空を見上げた。

『椿様……昨夜の“揺らぎ”を覚えておられますか』

「揺らぎ……?」

 そういえば――昨日、私が倒れた瞬間、胸の奥が熱くなった。
 何かが外に飛び出しそうな、知らない感覚。

「あれって……何だったの?」

 政宗さんは迷うように視線を落とす。
 そして、柔らかく、しかしはっきりと告げた。

『あれは、椿様に封じられていた力が目を覚ましかけたのです』

「封じられて……いた?」

 私に?
 力が?

 冗談だと思いたかったけれど、政宗さんの目は真剣そのものだった。

『本来、八代家の血脈の中でも、椿様は――最も純度の高い霊質を持って生まれたお方です。
 それは、私たちあやかしでさえ畏れるほどのもの』

「私が……?」

 出来損ないの私が、そんな……。

 信じられなくて目を伏せると、政宗さんは私の手をそっと包んだ。

『信じられないでしょう。しかし、八代家は椿様の力を怖れたのです。
 使いこなせないほど大きな力は、家に災いをもたらすと』

 まるで遠い昔話のような声色。
 でもその言葉は、刺すように胸に響いた。

『だから、力を封じられた。幼い頃に』

「……そんなこと、聞いてない……」

 知らなかった。
 何もかも。

 私が出来ないのではなく――させてもらえなかった?
 胸がぎゅっと痛む。

『椿様。昨夜、貴女を襲ったあの式は……八代家が放ったものです』

「……!」

 息が止まる。

 政宗さんは優しく手を握りしめながら、しかし低く告げた。

『彼らは、椿様の力が再び動き始めたと知ったのでしょう。
 完全に覚醒する前に、“回収する”つもりです』

 まるで物みたいに。
 ぞわりと背筋が寒くなる。

「政宗さん……私は、どうすれば……」

『恐れなくていい。椿様の力は、まだ完全ではありません。
 ですが――覚醒すれば、誰も椿様を傷つけられなくなる』

 政宗さんの瞳が、金色の光を強める。

『それまでの間、私が命に代えても守ります』

 その声音は、あまりに強く頼もしくて。
 胸が熱くなるのに、涙が出そうだった。

 でも、安心している場合ではなかった。

 そのとき――屋敷の結界が震えた。

「……え?」

 耳の奥で、ヒュゥ、と風が鳴る。
 政宗さんが立ち上がり、鋭い目で外を見据える。

『来ましたね』

 その瞬間、空気がバリッと割れた。

 大量の式神が空に集まり、屋敷の上空を覆い尽くす。
 中心に立っているのは――見覚えのある女。

『……姉、さま……?』

 八代家の誇りであり、私を出来損ないと嘲ってきた、あの人。

 姉の紅い着物が風に揺れ、冷たい声が響く。

『椿。遅くなったわね。家に帰ってきてもらうわ』

 ぞっとするほど優しい声音。
 だけどその目は、私を人として見ていなかった。

 政宗さんが私の前に立つ。

『椿様には指一本触れさせません』

『邪魔よ、九尾。
 椿は八代家の器。
 あの子が覚醒したとき、最も扱えるのは家の者だけなの』

「器……?」

 私の声が震える。

 姉は柔らかく笑った。

『あなたの人生に価値なんてない。
 でも、その力には価値があるのよ』

 胸の奥で何かがきしむ。
 悔しさ、悲しさ、怒り――全部がごちゃ混ぜになって。

 しかし、政宗さんだけは穏やかに笑った。

『椿様。大丈夫です。
 ――貴女は物ではなく、私が愛した人です』

 その言葉で、私の中の迷いがすっと消えていった。

 政宗さんの手を握り返す。

「……政宗さん。私、逃げない」

 震えていた体が、不思議と静まっていく。

 胸の奥の封じられていた何かが、ゆっくり目を覚ますように熱を帯びた。

 政宗さんが驚いたように私を見る。

『……椿様……力が……』

 姉が目を見開く。

『まさか……封印が……!』

 その瞬間。
 屋敷の庭に、白い光がぱあっと広がった。

 風が巻き、式神たちがざわめく。

 私の力が――動き出していた。
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