過去の青き聖女、未来の白き令嬢

手嶋ゆき

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第3話 必要とされなくなった日

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 ある日のこと。
 私は、どうしても自分の気持ちを抑えられず、殿下に質問をしてしまった。

「殿下は、白き令嬢さまのことを、どう思っていらっしゃるのですか?」
「うん? 彼女とはいずれ家族になるわけだし、親しく思っているよ」

 ことなげに彼はそう告げた。
 ああ……分かっていたつもりだけど……勝負は決まっていたのだ。
 私は敗北し、あとは表舞台から姿を消すだけ。


 そうした日々を過ごしていく内に、王城の中を慌ただしく騎士や貴族達が走り回る姿を見ることが多くなった。

 白の令嬢もたびたび来城され、第一王子殿下やアレックス殿下と一緒に話をされるのを目にすることが多くなっていった。
 いよいよ……大詰めなのかもしれない。
 私は覚悟を決めた。


 そして。

 ついに、その日がやってきた。
 魔物の討伐隊が、国境付近にある魔物が湧き出す森の攻略に成功。
 魔物が湧き出す洞窟もほぼ攻略が終わり、残るはボスのみということだった。

 王国周辺の清浄化が実現したのだ。

 毎日の祈りはもう必要ない。
 聖女は、私は、用なしとなったのだ。

 ここまで十分な生活をさせてくれた上、大好きな殿下と一緒に過ごすことが出来て……。
 これ以上望むことなどあるのだろうか?

 聖女の力はもう必要ない。
 癒やしの魔法や、悪霊退散、不死者撤退ターン・アンデッドの魔法は聖女の力によりとても強力になっている。
 しかし、神官だって鍛練を積めば威力が弱いものの、同じ魔法が使えるのだ。
 私がここに居続ける理由は無い。

 このままでは単なる穀潰しだ。
 追い出されるなり殺されるなりされても仕方が無い。
 私は、自室にある私物の整理を始めた。


 殿下が危機に晒されたのは、私物の整理がほぼ終わった頃だった。

 執務室。
 テーブルに殿下と向かい合って座っていたとき。
 午後のお茶を頂いていたとき。

 部屋の片隅に黒いモヤのようなものが現れたと思った瞬間、その内側から魔物が現れたのだ。

悪霊リッチか!?」

 上位不死者アンデッド
 生前は高位の司祭だったのだろう。
 今にも朽ちそうな、ボロボロの法衣を纏っている。
 その顔は黒光りしており、邪悪な笑みを浮かべている。
 どんな怨念があったのか分からないが、心身共に魔に侵され不死者となってしまっていた。

 周囲に何体か、下位の不死者グールも現れた。
 その不死者たちは、無言で私たちに向かってくる。

「こいつが報告にあった洞窟の主か……ソフィア! 下がれ!」

 しかし私は、一歩も引かない。
 ここで役に立たない聖女など存在意義がない!

「【不死者撤退ターン・アンデッド】!」

 呪文を唱えると、眩い光が部屋を包んだ。
 その光の中で、バーンという音と共に、下級の不死者グールたちはその全てが粉々に砕け散った。
 彼らの破片は、床に落ちる前に消滅していく。

 残るは主のみ。
 その主でさえ、大きな衝撃を受け、怯んでいる様子。

「すごい……これでは、まるで攻撃魔法ではないか」

 強烈な呪文の成果に殿下が驚いてくださる。
 そんなやり取りを無視するかのように、悪霊が私を見据えた。

「——貴様らが……我を苦しめた王子と、聖女か……」

 不死者撤退ターン・アンデッドがよほど効いたのか、悪霊は動きを止めている。
 アレックス殿下を避難させるなら、今のうちだ。

「殿下、私が時間を稼ぎます。騎士たちを呼んでください」
「何を言っている……!」

 私たちが言い合っている中、突然、悪霊は高笑いを始めた。

「ははははは! 部下を失った我の悲しみを知るがいい……!」

 悪霊が私たちを指差すと、その先端から紫色の煙が吹き出した。
 私は、どん、とアレックス殿下を押しのける。

「ソフィア! 何を!」

 紫色の煙が私の周囲を覆っていく。
 これは毒だ。
 こうなっては私はなすすべもなく、その状況を見守るしかなかった。

 同時に、悪霊の姿が霧散していく。
 置き土産の効果を見て、その顔は、満足げに頷き——悪霊は光に包まれ消滅していく。

 それを見守るうちに、私は抉るような胸の痛みを感じた。
 息を止めたが間に合わず、紫色の煙を吸い込んでしまっていたのだ。
 黒いものが私の体内を侵していくのを感じる。
 同時に、私の周囲に漂っていた煙が消えていく。
 
「ソフィア!」

 崩れ落ちた私の元に、殿下が駆け寄って下さった。

 喉の奥が熱く、ゴホゴホと咳き込む私の口から黒い血が溢れる。
 その血で汚れるのも構わず、殿下が私を抱き起こして下さった。

「毒です……殿下、どうか毒を含む血に、私に、触れないでください。捨て置いて下さい……」
「……何を……バカな……ことを……」

 殿下の声がとても遠くに聞こえた。
 その凜々しいお姿が、やけに小さく見えた。

 聴覚も視界も……真っ黒に覆われていく。
 ああ、せめてもう少しだけ、彼の温もりを感じていたかったな。
 私は意識が途切れる瞬間、そう思った。
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