27 / 105
討伐って何ですか?
ベルンハルトの仕事 2
しおりを挟む
「と、討伐って? 何のこと?」
「やはり、何もお聞きになっていらっしゃいませんでしたか。薄々そんな予感はしていたんですよ。ただ、既に私は現役を退いた身、余計な世話はせぬものと思っておりましたが……」
リーゼロッテの私室から出るとすぐにヘルムートの案内で広間へと向かう。
その道すがら、ヘルムートが口のなかで何やら呟いてはいるが、リーゼロッテにはその言葉の意味が半分もわからない。
「ど、どういうこと? これから、何が起こるの?」
「奥様の戸惑いは当然のこと。それら全て、あの二人に説明させましょう」
「あの二人? 誰のこと?」
急ぎ足で広間へと向かいながら、話を続ければ、そろそろ息も上がってくる。
「わかりませんか? これから討伐へと向かう、本人たちですよ」
ヘルムートがそう言い終わり、たどり着いたのは広間の扉の前。
「こ、ここに、いらっしゃるの?」
「はい。まだ出発前のようです。間に合いました。さぁ、気になること全てをお聞きになると良い。奥様にはその権利があるのですから」
ヘルムートはそう言うと、リーゼロッテに見たことのない笑顔を向け、広間へと続く扉を大きく開け放った。
「お、奥様!」
扉の開く大きな音にいち早く反応したのはアルベルトだ。
「アルベルト、出発前に少し時間をもらいます」
「ち、父上……」
「えぇ?! ヘルムートさんってアルベルトさんの?!」
広間に着くと同時に始まった二人の会話に、すぐについていけなくなったのは、リーゼロッテだ。
二人が親子だなんて、想像もしていなかった。
「奥様、それは今大した問題ではありませんよ」
「え、そ、そうなの?」
大した問題ではないと言われても、既に何が大した問題で、何がそうではないのかわからない。
聞きたいこと全てと言われても、頭の中が混乱していて、何が聞きたかったのすらわからない。
「ベルンハルト様、まさか奥様に何も告げずに討伐に向かわれるおつもりでしたか?」
「ヘルムート……それは」
「それは? 何です?」
「ま、毎年のことだから、特に何かを言わなければならないなどと、お、思ってもいなかった」
ヘルムートに問い詰められ、つっかえながら答えるベルンハルトに、少々同情してしまう。
「ベルンハルト様にとっては毎年のことでも、奥様にとっては今年が初めてのことです。それぐらいのフォローはするべきです」
「す、すまない」
「謝るのは私にではありませんよ」
「気がつかず、申し訳ない」
ヘルムートに促され、リーゼロッテに頭を下げるベルンハルトは、まるで悪戯をこっぴどく叱られた幼な子のようで、リーゼロッテはその様をどのような顔をして見ていれば良いかもわからなかった。
「わ、わたくしは何とも思っておりません。と、討伐とは何を?」
「魔獣を。雪深くなった頃、食糧を求めて森から一斉に出てくる。ロイスナーを超えていけば、国全体に被害が出てしまうだろう。それを食い止めるのが私の仕事だ」
「ま、魔獣」
ベルンハルトの話を聞けば、途端にリーゼロッテの顔に不安が浮かぶ。
シュレンタットの国境沿い、一大領地であるロイスナーは隣に魔獣の住む森を持つ。その魔獣から国を守ることで、ロイエンタール家は辺境伯の地位を得ていると、わかっていたはずだ。
それでも、これまでの生活があまりにも平和で、その地位の意味に気づいていなかった。
「そのような顔をなさらなくとも。先程も話したように、毎年のこと。心配には及ばない。」
これからの討伐のことをリーゼロッテに話すベルンハルトはあの隙のない笑顔を見せ、安心感を与えてくれる。
「わかりました。ご無事をお祈りしております」
ベルンハルトの笑顔に応えようと、リーゼロッテも必死に気持ちを立て直す。
リーゼロッテがどれほど心配しようとも、どれだけ不安に感じようとも、それが仕事だと言われてしまえば、止めることなどできない。
それならば、リーゼロッテにできることは、笑顔で見送り、そして出迎えること。
自分の気持ちを折り畳んで、ベルンハルトに笑顔を見せた。
「奥様、それでよろしいのですか? 今ならば何だって聞いておけますよ?」
「ヘルムートさん。大丈夫です。またわからないことがあれば、お戻りになった後にお伺いします」
「そうですか。たしかに、その時間をゆっくり取られるのも良いかもしれませんね」
リーゼロッテには穏やかに話をするヘルムートが、ベルンハルトとアルベルトの二人の方へ向き直る。
「さて、私はそろそろ腹に据えかねているのですよ」
リーゼロッテが聞いたことのない声色に、部屋中の空気が凍りつきそうなぐらい冷え込んだ。
「去年までとは違い、今年は領主が留守の城ではありません。アルベルト、お前のするべき仕事は誰が代わりを務めるのです?」
「誰、とは?」
「執事長としての仕事です。代わりを任命しましたか?」
「し、しておりません」
「アルベルトはもう、ベルンハルト様の専属ではないのです。仕えるべき、ロイエンタール家の方が残られる。その城を離れるのですよ」
ヘルムートの言葉に、アルベルトの顔から血の気が引いていく。使用人の統括である自分が城を離れれば、リーゼロッテの世話がおざなりになる可能性に、やっと気がついたようだ。
「も、申し訳ありません」
「これ以上は戻ってからとします。ベルンハルト様」
アルベルトを恐怖で震え上がらせ、次にベルンハルトへと声をかける。
「やはり、何もお聞きになっていらっしゃいませんでしたか。薄々そんな予感はしていたんですよ。ただ、既に私は現役を退いた身、余計な世話はせぬものと思っておりましたが……」
リーゼロッテの私室から出るとすぐにヘルムートの案内で広間へと向かう。
その道すがら、ヘルムートが口のなかで何やら呟いてはいるが、リーゼロッテにはその言葉の意味が半分もわからない。
「ど、どういうこと? これから、何が起こるの?」
「奥様の戸惑いは当然のこと。それら全て、あの二人に説明させましょう」
「あの二人? 誰のこと?」
急ぎ足で広間へと向かいながら、話を続ければ、そろそろ息も上がってくる。
「わかりませんか? これから討伐へと向かう、本人たちですよ」
ヘルムートがそう言い終わり、たどり着いたのは広間の扉の前。
「こ、ここに、いらっしゃるの?」
「はい。まだ出発前のようです。間に合いました。さぁ、気になること全てをお聞きになると良い。奥様にはその権利があるのですから」
ヘルムートはそう言うと、リーゼロッテに見たことのない笑顔を向け、広間へと続く扉を大きく開け放った。
「お、奥様!」
扉の開く大きな音にいち早く反応したのはアルベルトだ。
「アルベルト、出発前に少し時間をもらいます」
「ち、父上……」
「えぇ?! ヘルムートさんってアルベルトさんの?!」
広間に着くと同時に始まった二人の会話に、すぐについていけなくなったのは、リーゼロッテだ。
二人が親子だなんて、想像もしていなかった。
「奥様、それは今大した問題ではありませんよ」
「え、そ、そうなの?」
大した問題ではないと言われても、既に何が大した問題で、何がそうではないのかわからない。
聞きたいこと全てと言われても、頭の中が混乱していて、何が聞きたかったのすらわからない。
「ベルンハルト様、まさか奥様に何も告げずに討伐に向かわれるおつもりでしたか?」
「ヘルムート……それは」
「それは? 何です?」
「ま、毎年のことだから、特に何かを言わなければならないなどと、お、思ってもいなかった」
ヘルムートに問い詰められ、つっかえながら答えるベルンハルトに、少々同情してしまう。
「ベルンハルト様にとっては毎年のことでも、奥様にとっては今年が初めてのことです。それぐらいのフォローはするべきです」
「す、すまない」
「謝るのは私にではありませんよ」
「気がつかず、申し訳ない」
ヘルムートに促され、リーゼロッテに頭を下げるベルンハルトは、まるで悪戯をこっぴどく叱られた幼な子のようで、リーゼロッテはその様をどのような顔をして見ていれば良いかもわからなかった。
「わ、わたくしは何とも思っておりません。と、討伐とは何を?」
「魔獣を。雪深くなった頃、食糧を求めて森から一斉に出てくる。ロイスナーを超えていけば、国全体に被害が出てしまうだろう。それを食い止めるのが私の仕事だ」
「ま、魔獣」
ベルンハルトの話を聞けば、途端にリーゼロッテの顔に不安が浮かぶ。
シュレンタットの国境沿い、一大領地であるロイスナーは隣に魔獣の住む森を持つ。その魔獣から国を守ることで、ロイエンタール家は辺境伯の地位を得ていると、わかっていたはずだ。
それでも、これまでの生活があまりにも平和で、その地位の意味に気づいていなかった。
「そのような顔をなさらなくとも。先程も話したように、毎年のこと。心配には及ばない。」
これからの討伐のことをリーゼロッテに話すベルンハルトはあの隙のない笑顔を見せ、安心感を与えてくれる。
「わかりました。ご無事をお祈りしております」
ベルンハルトの笑顔に応えようと、リーゼロッテも必死に気持ちを立て直す。
リーゼロッテがどれほど心配しようとも、どれだけ不安に感じようとも、それが仕事だと言われてしまえば、止めることなどできない。
それならば、リーゼロッテにできることは、笑顔で見送り、そして出迎えること。
自分の気持ちを折り畳んで、ベルンハルトに笑顔を見せた。
「奥様、それでよろしいのですか? 今ならば何だって聞いておけますよ?」
「ヘルムートさん。大丈夫です。またわからないことがあれば、お戻りになった後にお伺いします」
「そうですか。たしかに、その時間をゆっくり取られるのも良いかもしれませんね」
リーゼロッテには穏やかに話をするヘルムートが、ベルンハルトとアルベルトの二人の方へ向き直る。
「さて、私はそろそろ腹に据えかねているのですよ」
リーゼロッテが聞いたことのない声色に、部屋中の空気が凍りつきそうなぐらい冷え込んだ。
「去年までとは違い、今年は領主が留守の城ではありません。アルベルト、お前のするべき仕事は誰が代わりを務めるのです?」
「誰、とは?」
「執事長としての仕事です。代わりを任命しましたか?」
「し、しておりません」
「アルベルトはもう、ベルンハルト様の専属ではないのです。仕えるべき、ロイエンタール家の方が残られる。その城を離れるのですよ」
ヘルムートの言葉に、アルベルトの顔から血の気が引いていく。使用人の統括である自分が城を離れれば、リーゼロッテの世話がおざなりになる可能性に、やっと気がついたようだ。
「も、申し訳ありません」
「これ以上は戻ってからとします。ベルンハルト様」
アルベルトを恐怖で震え上がらせ、次にベルンハルトへと声をかける。
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で追放されて、幸せな日々を過ごす。……え? 私が世界に一人しか居ない水の聖女? あ、今更泣きつかれても、知りませんけど?
向原 行人
ファンタジー
第三王子が趣味で行っている冒険のパーティに所属するマッパー兼食事係の私、アニエスは突然パーティを追放されてしまった。
というのも、新しい食事係の少女をスカウトしたそうで、水魔法しか使えない私とは違い、複数の魔法が使えるのだとか。
私も、好きでもない王子から勝手に婚約者呼ばわりされていたし、追放されたのはありがたいかも。
だけど私が唯一使える水魔法が、実は「飲むと数時間の間、能力を倍増する」効果が得られる神水だったらしく、その効果を失った王子のパーティは、一気に転落していく。
戻ってきて欲しいって言われても、既にモフモフ妖狐や、新しい仲間たちと幸せな日々を過ごしてますから。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ギルド受付嬢は今日も見送る~平凡な私がのんびりと暮らす街にやってきた、少し不思議な魔術師との日常~
弥生紗和
ファンタジー
【完結】私はギルド受付嬢のエルナ。魔物を倒す「討伐者」に依頼を紹介し、彼らを見送る毎日だ。最近ギルドにやってきたアレイスさんという魔術師は、綺麗な顔をした素敵な男性でとても優しい。平凡で代わり映えのしない毎日が、彼のおかげでとても楽しい。でもアレイスさんには何か秘密がありそうだ。
一方のアレイスは、真っすぐで優しいエルナに次第に重い感情を抱き始める――
恋愛はゆっくりと進展しつつ、アレイスの激重愛がチラチラと。大きな事件やバトルは起こりません。こんな街で暮らしたい、と思えるような素敵な街「ミルデン」の日常と、小さな事件を描きます。
大人女性向けの異世界スローライフをお楽しみください。
西洋風異世界ですが、実際のヨーロッパとは異なります。魔法が当たり前にある世界です。食べ物とかファッションとか、かなり自由に書いてます。あくまで「こんな世界があったらいいな」ということで、ご容赦ください。
※サブタイトルで「魔術師アレイス~」となっているエピソードは、アレイス側から見たお話となります。
この作品は小説家になろう、カクヨムでも公開しています。
司書ですが、何か?
みつまめ つぼみ
ファンタジー
16歳の小さな司書ヴィルマが、王侯貴族が通う王立魔導学院付属図書館で仲間と一緒に仕事を頑張るお話です。
ほのぼの日常系と思わせつつ、ちょこちょこドラマティックなことも起こります。ロマンスはふんわり。
断罪された大聖女は死に戻り地味に生きていきたい
花音月雫
ファンタジー
お幼頃に大聖女に憧れたアイラ。でも大聖女どころか聖女にもなれずその後の人生も全て上手くいかず気がつくと婚約者の王太子と幼馴染に断罪されていた!天使と交渉し時が戻ったアイラは家族と自分が幸せになる為地味に生きていこうと決心するが......。何故か周りがアイラをほっといてくれない⁉︎そして次から次へと事件に巻き込まれて......。地味に目立たなく生きて行きたいのにどんどん遠ざかる⁉︎執着系溺愛ストーリー。
転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる