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私の心は、春の足音に翻弄されます
レティシアとの関係 1
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「リーゼロッテ様、ベルンハルト様がお戻りになりました」
レティシアはリーゼロッテの部屋に半日ほど居座り、その後現れたときと同じように突然窓の外へと飛び立って行った。
ヘルムートがリーゼロッテを呼びに来たのは、その直後のことである。
「すぐに参ります」
リーゼロッテは他の何を呑み込んだとしても、レティシアのことだけはベルンハルトに聞こうと、それだけを決心して執務室へと向かう。
「ベルンハルト様、ご無事のお戻り、お待ちしておりました」
「あぁ。大事なかっただろうか?」
直ぐにでも問いただしたい気持ちを抑えて、決まり文句の挨拶を交わす。
この一週間に城内で起こったことは、既にヘルムートから報告されているだろう。
リーゼロッテが聞きたいことは、レティシアとベルンハルトの関係。
そして今後どのように対応していくべきか、その二点が重要で、他のことは今は大した問題ではない。
「特にはありませんが……」
リーゼロッテが言葉に詰まれば、何を言いたいかはベルンハルトにもすぐに伝わった様だ。
「そちらのソファに掛けてくれないか? 一度、ゆっくり話をしておかなければならないと、そう思っていた」
執務室内に置かれた応接セット。かなり古いものの様だが、大切に使い込まれ、その重厚感は執務室に相応しく、ロイエンタール家の歴史を思わせる。
その座り心地は格別だが、向かい合って座るベルンハルトの気持ちを読むことができないリーゼロッテの気持ちは、不安定なまま。
ベルンハルトと結婚して夫婦になったとはいえ、きちんと顔を見合わせて話し合う時間を取った覚えがない。
討伐を終え時間が出来たからなのか、それともレティシアが城に来たことが原因か、リーゼロッテはベルンハルトの口から発せられる言葉に、神経を集中させた。
「これまで話もせずに、すまなかった」
まずベルンハルトから紡ぎ出されたのは謝罪の言葉。
そんなことで謝罪を受けることになるなんて、思ってもみなかったリーゼロッテは、張り詰めていた思いが、音を立てて萎んでいくような気がした。
「い、いえ。お忙しい様でしたし……」
気にしていないと言えば嘘になるが、これまでほとんど言葉を交わしたことも、顔を合わせたこともない相手を警戒する気持ちは痛いほど理解できる。
もう少し場を作ってくれても、と思わないこともないが、そのことでベルンハルトを責めるつもりは毛頭ない。
「貴女には伝えなくてはならないことがたくさんあったのに、私の個人的な理由で先延ばしにしていた」
そう言ってベルンハルトが俯けば、仮面の下の目元も影になってしまい、その表情は更にわからなくなる。
「どのような、ことでしょうか?」
「あ、あぁ……」
これほどまでに話すことを躊躇う内容とは、一体何だろうか。
リーゼロッテが想像したその時が、こんなに早くきてしまったのだろうか。
(ヘルムートさんに、お友達になっていただかなくてはいけないわ)
少しでも自分が前向きになれることを思い浮かべ、ベルンハルトの次の言葉を待った。
「レティシアが貴女の元を訪れたと聞いた。彼女は何か言っていただろうか」
(やっぱり、あの方のことよね)
ベルンハルトの口から、レティシアの名前が出てくるのは想像した通りだった。
ヘルムートはレティシアに敬称を付けて呼んでいたが、レティシアとはどのような関係なのだろうか。
レティシアがリーゼロッテのことをロイエンタール夫人ではなく、リーゼロッテ王女様と呼び続けていたことも気にかかる。
「しばらく、こちらでお世話になると。後はさほど実にならない話ばかりだったと思います」
レティシア自身に尋ねようとしても、彼女はのらりくらりとまともに話をすることを避けた。
それでいて、ヘルムートが説明しようとすれば、それは力でねじ伏せる。
そんな傍若無人な態度にリーゼロッテも嫌気がさしていた。
「しばらく……相変わらず何を考えているやら。すまないが、少しの間我慢をしてくれないだろうか。そのうちに飽きて出ていくだろう」
「あの、レティシア様は一体……」
やはり、ベルンハルトの第二夫人になるのだろうか、決定打を聞きたくはないが、さすがに聞かないわけにもいかない。
「彼女は、龍族の長だ。今回の討伐にも力を貸してくれた」
「りゅうぞく……おさ……」
「あぁ。昔から世話になっている」
「お世話に……そ、それでは大切な方なのですね」
「そうだな。彼女がいなければ、ロイスナーはいつしか滅んでいるだろう」
ずっと以前からの友人を紹介しているような穏やかな口調に、リーゼロッテには二人の距離が嫌でも理解できる。
それは、たった数ヶ月前に夫婦になったばかりの自分には到底真似のできる様なものではなく、自分が王族という立場だけで、第一夫人になったのだと思い知った。
少しでも愛されている自信が欲しい、そんなわずかな望みを叶えようとリーゼロッテが奔走している時間にも、ベルンハルトにはちゃんと相手がいたというだけのこと。
(私の居場所なんて、なかったじゃない)
「そう、ですか。それでは、わたくしも失礼のないように致しますね」
「よろしくお願いします」
ベルンハルトの口元に浮かぶ笑顔に、リーゼロッテの心が傷つけられていく。
レティシアはリーゼロッテの部屋に半日ほど居座り、その後現れたときと同じように突然窓の外へと飛び立って行った。
ヘルムートがリーゼロッテを呼びに来たのは、その直後のことである。
「すぐに参ります」
リーゼロッテは他の何を呑み込んだとしても、レティシアのことだけはベルンハルトに聞こうと、それだけを決心して執務室へと向かう。
「ベルンハルト様、ご無事のお戻り、お待ちしておりました」
「あぁ。大事なかっただろうか?」
直ぐにでも問いただしたい気持ちを抑えて、決まり文句の挨拶を交わす。
この一週間に城内で起こったことは、既にヘルムートから報告されているだろう。
リーゼロッテが聞きたいことは、レティシアとベルンハルトの関係。
そして今後どのように対応していくべきか、その二点が重要で、他のことは今は大した問題ではない。
「特にはありませんが……」
リーゼロッテが言葉に詰まれば、何を言いたいかはベルンハルトにもすぐに伝わった様だ。
「そちらのソファに掛けてくれないか? 一度、ゆっくり話をしておかなければならないと、そう思っていた」
執務室内に置かれた応接セット。かなり古いものの様だが、大切に使い込まれ、その重厚感は執務室に相応しく、ロイエンタール家の歴史を思わせる。
その座り心地は格別だが、向かい合って座るベルンハルトの気持ちを読むことができないリーゼロッテの気持ちは、不安定なまま。
ベルンハルトと結婚して夫婦になったとはいえ、きちんと顔を見合わせて話し合う時間を取った覚えがない。
討伐を終え時間が出来たからなのか、それともレティシアが城に来たことが原因か、リーゼロッテはベルンハルトの口から発せられる言葉に、神経を集中させた。
「これまで話もせずに、すまなかった」
まずベルンハルトから紡ぎ出されたのは謝罪の言葉。
そんなことで謝罪を受けることになるなんて、思ってもみなかったリーゼロッテは、張り詰めていた思いが、音を立てて萎んでいくような気がした。
「い、いえ。お忙しい様でしたし……」
気にしていないと言えば嘘になるが、これまでほとんど言葉を交わしたことも、顔を合わせたこともない相手を警戒する気持ちは痛いほど理解できる。
もう少し場を作ってくれても、と思わないこともないが、そのことでベルンハルトを責めるつもりは毛頭ない。
「貴女には伝えなくてはならないことがたくさんあったのに、私の個人的な理由で先延ばしにしていた」
そう言ってベルンハルトが俯けば、仮面の下の目元も影になってしまい、その表情は更にわからなくなる。
「どのような、ことでしょうか?」
「あ、あぁ……」
これほどまでに話すことを躊躇う内容とは、一体何だろうか。
リーゼロッテが想像したその時が、こんなに早くきてしまったのだろうか。
(ヘルムートさんに、お友達になっていただかなくてはいけないわ)
少しでも自分が前向きになれることを思い浮かべ、ベルンハルトの次の言葉を待った。
「レティシアが貴女の元を訪れたと聞いた。彼女は何か言っていただろうか」
(やっぱり、あの方のことよね)
ベルンハルトの口から、レティシアの名前が出てくるのは想像した通りだった。
ヘルムートはレティシアに敬称を付けて呼んでいたが、レティシアとはどのような関係なのだろうか。
レティシアがリーゼロッテのことをロイエンタール夫人ではなく、リーゼロッテ王女様と呼び続けていたことも気にかかる。
「しばらく、こちらでお世話になると。後はさほど実にならない話ばかりだったと思います」
レティシア自身に尋ねようとしても、彼女はのらりくらりとまともに話をすることを避けた。
それでいて、ヘルムートが説明しようとすれば、それは力でねじ伏せる。
そんな傍若無人な態度にリーゼロッテも嫌気がさしていた。
「しばらく……相変わらず何を考えているやら。すまないが、少しの間我慢をしてくれないだろうか。そのうちに飽きて出ていくだろう」
「あの、レティシア様は一体……」
やはり、ベルンハルトの第二夫人になるのだろうか、決定打を聞きたくはないが、さすがに聞かないわけにもいかない。
「彼女は、龍族の長だ。今回の討伐にも力を貸してくれた」
「りゅうぞく……おさ……」
「あぁ。昔から世話になっている」
「お世話に……そ、それでは大切な方なのですね」
「そうだな。彼女がいなければ、ロイスナーはいつしか滅んでいるだろう」
ずっと以前からの友人を紹介しているような穏やかな口調に、リーゼロッテには二人の距離が嫌でも理解できる。
それは、たった数ヶ月前に夫婦になったばかりの自分には到底真似のできる様なものではなく、自分が王族という立場だけで、第一夫人になったのだと思い知った。
少しでも愛されている自信が欲しい、そんなわずかな望みを叶えようとリーゼロッテが奔走している時間にも、ベルンハルトにはちゃんと相手がいたというだけのこと。
(私の居場所なんて、なかったじゃない)
「そう、ですか。それでは、わたくしも失礼のないように致しますね」
「よろしくお願いします」
ベルンハルトの口元に浮かぶ笑顔に、リーゼロッテの心が傷つけられていく。
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