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討伐って何ですか?
冬の討伐 3
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「レティシア様、そろそろ……」
いつまでも終わらないレティシアの話に、言葉を切り込んだのはクラウスだった。
今日の討伐を皮切りに、赤獅子、黒大猿……毎日立て続けに魔獣がその姿を現す。
それを全て倒し切るのにかかるのが一週間。
冬の討伐はまだ始まったばかりだ。
その身を外に置いておけば、無駄に体力を消費してしまう。
それを危惧したのか、はたまたレティシアが男の話をするのが許せないのか、クラウスの顔は複雑な顔をしていた。
(私じゃなくても、良い相手がいるではないか)
ベルンハルトでさえ、若い龍の淡い想いに感づいていたというのに、レティシアには一向にその素振りもなく、「そうね。それじゃあ屋敷に送るわ」そう言って、また空へと飛び立った。
レティシアがベルンハルトとアルベルトを送り届けた先は、冬の討伐の為に建てられた別邸。
城より森の奥へと進んだ先、国境の近くに建てられたそれは、かなり古くに建てられたもので、冬のこの時期にしか必要とされない為、誰も建て替えようなどと思わず、使い続けられている。
その屋敷で討伐が終わるまでの一週間を過ごすのだ。
「外には一頭見張りを置いておくから」
そう言い残すとレティシアは龍の巣へと戻っていく。
鮮やかな緑色の体がまた、雪のカーテンを切り裂くように、空を切る。
そんなレティシアの後ろを付き従うように、討伐に参加した龍たちが連なった。
龍族の長であるレティシアは、どの龍よりも強く美しい。あのように自信を持つことができれば、仮面などいらぬのにと、ベルンハルトはその姿を見ながら、羨ましく思う。
翌日からは、森の奥から出てくる魔獣を順番に倒すだけの日々。
徐々に強くなる魔獣を倒していくのも、レティシア達龍の力があれば動作もないことだ。
ベルンハルトはレティシアやクラウスの言うままに、風を起こし、雷を落とす。
龍を率いることができるのではない。龍族の長が、ベルンハルトの頼みを聞いてくれるだけのこと。
それも、レティシアが長でなくなれば、どうなるかわからない遠い約束。
レティシアがその地位から降りることになれば、ロイエンタール家も辺境伯の位を手放すことになるだろう。それがいつになるかは、ベルンハルトにはわからない。
レティシアが初代と約束を交したのも、人間にとってははるか昔のこと。
人間の歴史において、たった数ページ前のことだというのに、自分の時代に影響がなければ、まるで永遠の約束のように扱う国王。
ベルンハルトの祖先が何度となく注言するものの、誰一人としてまともに取り合わなかった。
そしていつしか、注言すらするのをやめた。
レティシアが長でなくなり、討伐し切れなくなった魔獣がロイスナーを超え国を滅ぼそうとも、その時流に身を任せると、代々語り継がれる伝承。
自らの手の届かぬところで、運命は決められていく。
ベルンハルトは幼い頃から、そう聞かされて育った。
最後の日に目の前に現れたのは大きな鳥だ。
小さい龍と肩を並べる程の巨体で空を飛びながら、襲いかかってきた。
「レティシア、あれは何だ? 初めて見るが」
「去年までは茶色の羽の鳥がいたでしょう? それの代わりに出てきたのがあいつらよ」
その姿は綺麗に染め上げられた黒色で、夜の闇の中ではその姿を捕らえることはできないだろう。
巨体に似合わず飛ぶ速度は速く、龍たちの吐く炎をかわして、その鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。
「ベルンハルト、やつらの周りに強い風を」
レティシアの言うとおりに風を起こした。
だが、ベルンハルトの力だけではその巨大鳥のバランスを崩すには至らない。
ベルンハルトは腰の布袋に手を入れ、中にある魔力石を掴みとる。それを片手に握り込んで、もう一度風を巻き起こした。
それは先程の風とは比べものにならないぐらいの風力で、仲間の龍ですら巻き込まれて上手く飛べずにいた。
そんな風の直撃を受けた巨大鳥は次々に地面へと落下していく。
そして落下した鳥達を龍が取り囲んで、一気に炎を吐いた。
その光景を見ながら、ベルンハルトは魔力石の威力を実感し、その手の中で握りこんだ魔力石が粉々に砕け散るのがわかる。手を広げれば、その破片は雪の粒のように光り輝き、風に乗って舞い落ちた。
「ベルンハルト、お疲れ様」
クラウスの背から地面へと降り立つと、レティシアが笑顔で駆け寄ってくる。
「今年は、これで最後だろうか」
「えぇ。それにしても、あんなに強い魔獣が出てくるなんて」
強い魔獣はシュレンタット全体に張り巡らされた結界を超えることはできないはずだ。
この時期に現れる魔獣はどれも魔力の弱いもの。それが数や勢いに任せて結界を超えてくる。
レティシアの口から『強い』と言わせるような魔獣が出てくるとは、伝承の時流が近づいているのかもしれないと、ベルンハルトは半ば諦めたような顔で空を見上げた。
「そういう、時なのかもしれぬ。レティシア、今年も助かった。ありがとう」
「えぇ。それじゃあ、私奥様に挨拶してから山へ戻るわ」
「は? 今、何と?」
「うん。ベルンハルトの奥様に挨拶していくわねって」
レティシアはそう言い残すと、その身を翻し、一気に空へと飛びあがった。
その緑色の尾の残像が、空に一筋の線を描く。
魔獣を討伐し終えたとはいえ、このような森の中に取り残される形となったベルンハルトとアルベルトは二人で顔を見合わせ、その視線をクラウスへと移す。
「僕が城へとお送りしますよ。ゆっくり連れてくるようにと、レティシア様から言いつかっておりますので」
「ゆっくり? できれば急いでもらいたいのだが」
クラウスの台詞に、既にこの流れが決められていたことだとわかる。
ヘルムートがいるとはいえ、リーゼロッテだけが残っている城に、レティシアが向かって、何をするのだろうか。
冬の準備よりも頭を悩ませる出来事が、ベルンハルトに襲い掛かろうとしていた。
いつまでも終わらないレティシアの話に、言葉を切り込んだのはクラウスだった。
今日の討伐を皮切りに、赤獅子、黒大猿……毎日立て続けに魔獣がその姿を現す。
それを全て倒し切るのにかかるのが一週間。
冬の討伐はまだ始まったばかりだ。
その身を外に置いておけば、無駄に体力を消費してしまう。
それを危惧したのか、はたまたレティシアが男の話をするのが許せないのか、クラウスの顔は複雑な顔をしていた。
(私じゃなくても、良い相手がいるではないか)
ベルンハルトでさえ、若い龍の淡い想いに感づいていたというのに、レティシアには一向にその素振りもなく、「そうね。それじゃあ屋敷に送るわ」そう言って、また空へと飛び立った。
レティシアがベルンハルトとアルベルトを送り届けた先は、冬の討伐の為に建てられた別邸。
城より森の奥へと進んだ先、国境の近くに建てられたそれは、かなり古くに建てられたもので、冬のこの時期にしか必要とされない為、誰も建て替えようなどと思わず、使い続けられている。
その屋敷で討伐が終わるまでの一週間を過ごすのだ。
「外には一頭見張りを置いておくから」
そう言い残すとレティシアは龍の巣へと戻っていく。
鮮やかな緑色の体がまた、雪のカーテンを切り裂くように、空を切る。
そんなレティシアの後ろを付き従うように、討伐に参加した龍たちが連なった。
龍族の長であるレティシアは、どの龍よりも強く美しい。あのように自信を持つことができれば、仮面などいらぬのにと、ベルンハルトはその姿を見ながら、羨ましく思う。
翌日からは、森の奥から出てくる魔獣を順番に倒すだけの日々。
徐々に強くなる魔獣を倒していくのも、レティシア達龍の力があれば動作もないことだ。
ベルンハルトはレティシアやクラウスの言うままに、風を起こし、雷を落とす。
龍を率いることができるのではない。龍族の長が、ベルンハルトの頼みを聞いてくれるだけのこと。
それも、レティシアが長でなくなれば、どうなるかわからない遠い約束。
レティシアがその地位から降りることになれば、ロイエンタール家も辺境伯の位を手放すことになるだろう。それがいつになるかは、ベルンハルトにはわからない。
レティシアが初代と約束を交したのも、人間にとってははるか昔のこと。
人間の歴史において、たった数ページ前のことだというのに、自分の時代に影響がなければ、まるで永遠の約束のように扱う国王。
ベルンハルトの祖先が何度となく注言するものの、誰一人としてまともに取り合わなかった。
そしていつしか、注言すらするのをやめた。
レティシアが長でなくなり、討伐し切れなくなった魔獣がロイスナーを超え国を滅ぼそうとも、その時流に身を任せると、代々語り継がれる伝承。
自らの手の届かぬところで、運命は決められていく。
ベルンハルトは幼い頃から、そう聞かされて育った。
最後の日に目の前に現れたのは大きな鳥だ。
小さい龍と肩を並べる程の巨体で空を飛びながら、襲いかかってきた。
「レティシア、あれは何だ? 初めて見るが」
「去年までは茶色の羽の鳥がいたでしょう? それの代わりに出てきたのがあいつらよ」
その姿は綺麗に染め上げられた黒色で、夜の闇の中ではその姿を捕らえることはできないだろう。
巨体に似合わず飛ぶ速度は速く、龍たちの吐く炎をかわして、その鋭い爪で攻撃を仕掛けてくる。
「ベルンハルト、やつらの周りに強い風を」
レティシアの言うとおりに風を起こした。
だが、ベルンハルトの力だけではその巨大鳥のバランスを崩すには至らない。
ベルンハルトは腰の布袋に手を入れ、中にある魔力石を掴みとる。それを片手に握り込んで、もう一度風を巻き起こした。
それは先程の風とは比べものにならないぐらいの風力で、仲間の龍ですら巻き込まれて上手く飛べずにいた。
そんな風の直撃を受けた巨大鳥は次々に地面へと落下していく。
そして落下した鳥達を龍が取り囲んで、一気に炎を吐いた。
その光景を見ながら、ベルンハルトは魔力石の威力を実感し、その手の中で握りこんだ魔力石が粉々に砕け散るのがわかる。手を広げれば、その破片は雪の粒のように光り輝き、風に乗って舞い落ちた。
「ベルンハルト、お疲れ様」
クラウスの背から地面へと降り立つと、レティシアが笑顔で駆け寄ってくる。
「今年は、これで最後だろうか」
「えぇ。それにしても、あんなに強い魔獣が出てくるなんて」
強い魔獣はシュレンタット全体に張り巡らされた結界を超えることはできないはずだ。
この時期に現れる魔獣はどれも魔力の弱いもの。それが数や勢いに任せて結界を超えてくる。
レティシアの口から『強い』と言わせるような魔獣が出てくるとは、伝承の時流が近づいているのかもしれないと、ベルンハルトは半ば諦めたような顔で空を見上げた。
「そういう、時なのかもしれぬ。レティシア、今年も助かった。ありがとう」
「えぇ。それじゃあ、私奥様に挨拶してから山へ戻るわ」
「は? 今、何と?」
「うん。ベルンハルトの奥様に挨拶していくわねって」
レティシアはそう言い残すと、その身を翻し、一気に空へと飛びあがった。
その緑色の尾の残像が、空に一筋の線を描く。
魔獣を討伐し終えたとはいえ、このような森の中に取り残される形となったベルンハルトとアルベルトは二人で顔を見合わせ、その視線をクラウスへと移す。
「僕が城へとお送りしますよ。ゆっくり連れてくるようにと、レティシア様から言いつかっておりますので」
「ゆっくり? できれば急いでもらいたいのだが」
クラウスの台詞に、既にこの流れが決められていたことだとわかる。
ヘルムートがいるとはいえ、リーゼロッテだけが残っている城に、レティシアが向かって、何をするのだろうか。
冬の準備よりも頭を悩ませる出来事が、ベルンハルトに襲い掛かろうとしていた。
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