【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
48 / 105
陽射しも風も、何もかもが暖かな春

ベルンハルトの贈りもの 1

しおりを挟む
「ベルンハルト様、やはり奥様もご一緒に来るべきだったのではないでしょうか?」

 ベルンハルトの為に用意された客室へ、主人が戻ってくるなり、アルベルトはそう声をあげた。
 ベルンハルトが決定したことに今更口を挟むなど、アルベルトらしくもないが、言わずにはいられないほど戻ってきたベルンハルトの表情は悪かった。

「あのような場に顔を出すのは今夜だけだ。それももう終わったこと。今更そんなことを言ってくれるな」

 アルベルトに言葉返しながら、ベルンハルトはその体をベッドに横たえた。
 着替えもせずに身体を放り出すなど、行儀の良いことではないことぐらいわかっている。
 それでもそうせずにはいられないぐらい、今夜の場はベルンハルトを疲れさせた。

「ベルンハルト様、せめて上着をお脱ぎください。衣服を緩めなければ、疲れもとれません」

 アルベルトにもそれは伝わったのだろう。ロイスナーでその様な振る舞いをすれば、すぐにでも注意が飛んできそうな態度も、今夜は見逃してくれそうだ。

「あぁ。悪いな」

 人前に出るために用意された服は、普段よりも窮屈で、堅苦しい上着を脱ぎさり、装飾品を外し、シャツの第一ボタンを外し、そこまでし終えベルンハルトは手を止めた。

「今夜はどなたも招き入れませんから」

 ベルンハルトの止まった手を見て、アルベルトは即座にそう声をかけた。

「すまぬ……」

 アルベルトの言葉を聞いて、ベルンハルトは自分の顔覆った仮面に手をかけた。
 普段であれば、アルベルトが控室へと下がるまで待ち、その後で誰にも見せぬように仮面を外す。
 朝は朝で、アルベルトの声やノックに反応し、真っ先に仮面を付ける。アルベルトですら、滅多に素顔を見ることはないのだが。
 今夜はそんな気遣いもできないほど、疲れきっているのだろう。
 数週間、いや数ヶ月振りになるだろうか。ベルンハルトが無防備な寝顔をアルベルトに晒していた。
 

 リーゼロッテを伴わずに来た春の挨拶は、覚悟の上とはいえ、例年以上に不快な場所となった。
 仮面をつけた自分のことを何と言われようとも、今更何も感じない。人間の心というのは、こうも固くなってしまうものかと、驚くほどに強固なものだ。
 ただ、今年は結婚相手を連れてこなかったことにまで、奇異の視線を浴びせられた。
 作り話とはいえ、リーゼロッテを連れてこなかった理由はきちんと存在しているのだが、ベルンハルトに直接それを尋ねる者もいなければ、その理由を語る場所もない。
 二人の関係を疑われている様な噂話は、聞いていて楽しいものではない。
 固く閉ざされたはずの心が痛めつけられていくようだった。

 (このような思いをするのは、いつ以来だろうか)

 周りの視線に、声に、傷つけられていた若き日の自分を思い出す。
 その時は途中で耐えられなくなり、用意された客室へと逃げ帰ったが、さすがにそんな真似はできない。今年も同じように部屋の隅の壁を背もたれに、その時が過ぎるのを待つだけだ。
 目を閉じれば、くるくると表情の変わるリーゼロッテの愛しい顔が目に浮かぶ。
 早く、ロイスナーへ帰ろう。


「ベルンハルト様。おはようございます」

 嫌な思いから逃れるようにベッドに倒れ込み、そのまま翌朝を迎えてしまった。
 仮面を外したままのベルンハルトに気を遣って、アルベルトがこちらを向かずにいてくれるのがわかる。
 慌てて身なりを整えれば、アルベルトがいつもと同じように澄ました顔をこちらに向けた。

「おはよう。昨夜は世話をかけた」

「私はベルンハルト様のお世話をするためについてきているんですよ。当然の仕事です」

 アルベルトのその口調に、余程心配をかけたのだということが察せられる。

(昨夜は酷いあり様だったようだ)

 広間から用意された客室へとやっとの思いでたどり着き、アルベルトの顔を見た途端に張り詰めていた糸が切れたようだった。
 いくつか会話をした覚えはあるものの、いまいち記憶がはっきりしない。
 ぼんやりとした記憶の糸を手繰り寄せようとするが、思い出されるのはいつもより酷くなった絡みつく視線。
 そんなもの思い出したくもないと、首を横に振って記憶を手放そうとする。

「ベルンハルト様? どうかなされました?」

「いや、まだ疲れが取れないようだ」

「もうこちらでの用件はお済みですか? 何か買い物をするご予定だったみたいですが」

 アルベルトの言葉に、思わず息を呑む。
 王都で買いたいものがあるだなんて、誰にも言ってなかったはずだ。どこでバレてしまったのだろうか。

「何故……」

「本気で私が気づいていないとお思いですか? それとも、私を試しておられるのですか?」

「い、いや。誰にも言っていないはずだ」

「何が欲しいのかはわかっておりませんよ。わざわざロイスナーではなく、こちらで買わなければならないということは、他の城の者には知られたくないということでしょうか。奥様にも、秘密にしておきたい買い物ですか?」

 アルベルトの顔に、ニヤニヤと嫌な笑顔が浮かぶ。それは、ベルンハルトを揶揄うときの、どこかの庭師そっくりで。

「其方は、本当に父に似てきたな」

 隙を見せてはいけない相手が増えたのではないかと、痛くなるこめかみを押さえながら、傷だらけの心が少しずつ癒えていくのを感じていた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

処理中です...