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魔法が使えたって
リーゼロッテの魔法 2
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「ねぇ。貴女はまだ、魔法は使えないのかしら?」
「え? えぇ」
「一度、試してみてくれない? そうね。こんな場所だし、水の魔法がいいかしら」
魔法を使おうとするところを誰かに見せるなんて、王城の魔法練習室で行っていたとき以来だ。
ロイスナーに来てからは、魔法を使おうとすらしていない。
「できるわけ、ありませんよ」
投げやりにそう言えば、リーゼロッテは手元へと意識を集中させる。
イメージは先程目にしたヘルムートの水の魔法。空に放物線を描いて、小さな虹をきらめかせた水のシャワー。それを目指して、体内にあるはずの魔力を集めて、指先から放出させた。
「も、申し訳ありません」
リーゼロッテの指先からは、水のシャワーが現れることはなく、わかりきっていたはずのその結果であっても、リーゼロッテの心を恐怖が襲う。
王城で魔法に失敗する度に、バルタザールから受けた叱責。あの呆れ声が、怒鳴り声が、耳元で聞こえる気がする。
その思い出したくもない記憶が、リーゼロッテの顔を青くさせた。
「奥様! 大丈夫ですか?」
リーゼロッテの顔色を見るなり、ヘルムートがその体を支え、もう一度椅子へと座らせる。
「ご、こめんなさい。大丈夫」
心配するヘルムートへ、何とか返事を返すが、心にまとわりつく苦い思いが拭えない。
「ねぇ。ちょっと、散歩しない?」
レティシアの声に顔を上げれば、目の前には若草色の龍の姿が現れた。
「これ……は?」
「早く、背中に乗って。ベルンハルトにバレちゃう」
レティシアの言葉に、城へと目を向ければ、ちょうどベルンハルトが玄関から出てくるのが見えた。
髪を振り乱し、慌てて走るその姿は、普段のベルンハルトからは想像もつかない。
このまま、レティシアの背中に乗ってしまえば、後々ベルンハルトに怒られてしまうだろうか。それでも、綺麗な若草色の背中は、リーゼロッテの好奇心をくすぐり、レティシアに誘われるまま飛び乗った。
「リーゼロッテ!」
後少しでたどり着くところだったベルンハルトの口から、叫び声とも怒鳴り声とも取れる声が発せられる。
その声はレティシアを止めることはなく、意味を為さずに空へと消えた。
「レティシア様。ベルンハルト様、怒ってらっしゃるでしょうか」
リーゼロッテを背中に乗せたまま、レティシアは一直線にどこかへ向かっている。どこへ向かうのかはリーゼロッテにもわかってはいないが、リーゼロッテの知る中で最も強い龍族の長。他の者に襲われる心配はないだろう。
このまま、レティシアによって命が危険にさらされようとも、それは自分のせいだと自覚もある。
全てを、レティシアに任せることにした。
「まさかぁ。心配してるのよ」
龍の姿をしたレティシアの言葉は、直接頭の中で響くように聞こえる。
龍の口から発せられているわけではないのだろう。
「心配?」
「私が貴女をどこに連れて行くのかわからないし、何を吹き込まれるかもわからないしね」
「わたくしも、わかっておりませんが」
「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと帰りも送り届けてあげるから」
「それでしたら……」
「そんなに簡単に、私を信頼してもいいの?」
レティシアの言葉に、息が止まる。
やはり、リーゼロッテに仕返しを考えていたのかもしれない。
「か、構いません。何が起きても……」
「ふふ。やっぱり変わってるわ。それでも、そういう人って好きなのよねー」
レティシアと話をしながらたどり着いたのは、森の中。それも上から見れば半月状に木々のない広場。その真ん中に降り立つ。
リーゼロッテを背中から降ろすと、レティシアもその姿を人間に変え、リーゼロッテの横へと並び立った。
「ここは?」
「前回の討伐でね、銀大狼が大量に魔力石になった場所なの」
「そ、そうなのですね」
「ここで、もう一度魔法を使ってみない?」
「魔法は……先ほどもお見せしましたが」
「あれは、水の魔法でしょ? 私が言ってるのは土よ」
「土?」
土の魔法とは何のことだろうか。
これまで聞いたこともない属性に、リーゼロッテの顔が歪む。
「その髪の色で魔法が使えないなんて、やっぱりおかしいのよ。だからね、お祖母様に聞いてきたの」
レティシアのお祖母様。レティシアですら既に百年以上生きているはず。果たして何歳なのだろうか。
「土属性の魔法は特殊でね。他のどの属性とも相性が悪いわ。だから、その魔法を使う者はたった一種類しか魔法が使えないの」
「それが、わたくし?」
「もしかしたらね。だから、ここで使ってみて欲しいのよ」
「どのような魔法なのでしょうか?」
「魔力石を、取り出す魔法」
「魔力石を?」
リーゼロッテには、レティシアの言葉の意味がわかっていなかった。
魔力石を取り出すとは、一体どういうことだろうか。
「魔力石は、魔獣の中から生まれるわ。それがすぐに土の中に埋まってしまうの。ロイスナーの城の中にあるものは、埋まる前に拾えたものよ。それを土の中から取り出すことができる魔法」
「土の中から……」
「そう。ベルンハルトの役に立ちたいって言っていたじゃない? これができれば、少しは役に立てるんじゃないかしら」
「お役に、立てますでしょうか」
ベルンハルトからの思いにも、アルベルトやヘルムートの親切にも何も返すことのできない自分が不甲斐なかった。
与えてもらうばかりで、何もできない自分が情けなくて、罪悪感ばかりが溜まる。
自分の無価値を思い知らされる日々はもう、限界だった。
「まぁ、ベルンハルトがこんなことを望んでるとは思わないけど」
魔力石を必要としていないベルンハルトの役には立たないだろう。
既に高価な魔力石を日々消費しているのだから、ロイスナーにとっても必要のない魔法かもしれない。
それでも、何もできないよりは良いはずだ。
ほんの少しだけでも、自分に自信がもてるのであれば。
リーゼロッテはその手に、力を入れた。
「え? えぇ」
「一度、試してみてくれない? そうね。こんな場所だし、水の魔法がいいかしら」
魔法を使おうとするところを誰かに見せるなんて、王城の魔法練習室で行っていたとき以来だ。
ロイスナーに来てからは、魔法を使おうとすらしていない。
「できるわけ、ありませんよ」
投げやりにそう言えば、リーゼロッテは手元へと意識を集中させる。
イメージは先程目にしたヘルムートの水の魔法。空に放物線を描いて、小さな虹をきらめかせた水のシャワー。それを目指して、体内にあるはずの魔力を集めて、指先から放出させた。
「も、申し訳ありません」
リーゼロッテの指先からは、水のシャワーが現れることはなく、わかりきっていたはずのその結果であっても、リーゼロッテの心を恐怖が襲う。
王城で魔法に失敗する度に、バルタザールから受けた叱責。あの呆れ声が、怒鳴り声が、耳元で聞こえる気がする。
その思い出したくもない記憶が、リーゼロッテの顔を青くさせた。
「奥様! 大丈夫ですか?」
リーゼロッテの顔色を見るなり、ヘルムートがその体を支え、もう一度椅子へと座らせる。
「ご、こめんなさい。大丈夫」
心配するヘルムートへ、何とか返事を返すが、心にまとわりつく苦い思いが拭えない。
「ねぇ。ちょっと、散歩しない?」
レティシアの声に顔を上げれば、目の前には若草色の龍の姿が現れた。
「これ……は?」
「早く、背中に乗って。ベルンハルトにバレちゃう」
レティシアの言葉に、城へと目を向ければ、ちょうどベルンハルトが玄関から出てくるのが見えた。
髪を振り乱し、慌てて走るその姿は、普段のベルンハルトからは想像もつかない。
このまま、レティシアの背中に乗ってしまえば、後々ベルンハルトに怒られてしまうだろうか。それでも、綺麗な若草色の背中は、リーゼロッテの好奇心をくすぐり、レティシアに誘われるまま飛び乗った。
「リーゼロッテ!」
後少しでたどり着くところだったベルンハルトの口から、叫び声とも怒鳴り声とも取れる声が発せられる。
その声はレティシアを止めることはなく、意味を為さずに空へと消えた。
「レティシア様。ベルンハルト様、怒ってらっしゃるでしょうか」
リーゼロッテを背中に乗せたまま、レティシアは一直線にどこかへ向かっている。どこへ向かうのかはリーゼロッテにもわかってはいないが、リーゼロッテの知る中で最も強い龍族の長。他の者に襲われる心配はないだろう。
このまま、レティシアによって命が危険にさらされようとも、それは自分のせいだと自覚もある。
全てを、レティシアに任せることにした。
「まさかぁ。心配してるのよ」
龍の姿をしたレティシアの言葉は、直接頭の中で響くように聞こえる。
龍の口から発せられているわけではないのだろう。
「心配?」
「私が貴女をどこに連れて行くのかわからないし、何を吹き込まれるかもわからないしね」
「わたくしも、わかっておりませんが」
「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと帰りも送り届けてあげるから」
「それでしたら……」
「そんなに簡単に、私を信頼してもいいの?」
レティシアの言葉に、息が止まる。
やはり、リーゼロッテに仕返しを考えていたのかもしれない。
「か、構いません。何が起きても……」
「ふふ。やっぱり変わってるわ。それでも、そういう人って好きなのよねー」
レティシアと話をしながらたどり着いたのは、森の中。それも上から見れば半月状に木々のない広場。その真ん中に降り立つ。
リーゼロッテを背中から降ろすと、レティシアもその姿を人間に変え、リーゼロッテの横へと並び立った。
「ここは?」
「前回の討伐でね、銀大狼が大量に魔力石になった場所なの」
「そ、そうなのですね」
「ここで、もう一度魔法を使ってみない?」
「魔法は……先ほどもお見せしましたが」
「あれは、水の魔法でしょ? 私が言ってるのは土よ」
「土?」
土の魔法とは何のことだろうか。
これまで聞いたこともない属性に、リーゼロッテの顔が歪む。
「その髪の色で魔法が使えないなんて、やっぱりおかしいのよ。だからね、お祖母様に聞いてきたの」
レティシアのお祖母様。レティシアですら既に百年以上生きているはず。果たして何歳なのだろうか。
「土属性の魔法は特殊でね。他のどの属性とも相性が悪いわ。だから、その魔法を使う者はたった一種類しか魔法が使えないの」
「それが、わたくし?」
「もしかしたらね。だから、ここで使ってみて欲しいのよ」
「どのような魔法なのでしょうか?」
「魔力石を、取り出す魔法」
「魔力石を?」
リーゼロッテには、レティシアの言葉の意味がわかっていなかった。
魔力石を取り出すとは、一体どういうことだろうか。
「魔力石は、魔獣の中から生まれるわ。それがすぐに土の中に埋まってしまうの。ロイスナーの城の中にあるものは、埋まる前に拾えたものよ。それを土の中から取り出すことができる魔法」
「土の中から……」
「そう。ベルンハルトの役に立ちたいって言っていたじゃない? これができれば、少しは役に立てるんじゃないかしら」
「お役に、立てますでしょうか」
ベルンハルトからの思いにも、アルベルトやヘルムートの親切にも何も返すことのできない自分が不甲斐なかった。
与えてもらうばかりで、何もできない自分が情けなくて、罪悪感ばかりが溜まる。
自分の無価値を思い知らされる日々はもう、限界だった。
「まぁ、ベルンハルトがこんなことを望んでるとは思わないけど」
魔力石を必要としていないベルンハルトの役には立たないだろう。
既に高価な魔力石を日々消費しているのだから、ロイスナーにとっても必要のない魔法かもしれない。
それでも、何もできないよりは良いはずだ。
ほんの少しだけでも、自分に自信がもてるのであれば。
リーゼロッテはその手に、力を入れた。
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