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魔法が使えたって
ベルンハルトの決意 2
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「あらぁ。辛気臭いわね」
リーゼロッテが魔法を使って魔力石を手に入れたあの日以降、二人の間は再び距離が開いた。
とは言っても、ベルンハルトがリーゼロッテの私室を訪ねていないこと。一緒にお茶を飲む機会がなくなったこと。違いといえばそれぐらいだろうか。
結婚して間もなく一年が経つというのに、変化したのはそれだけだったと、棒に振った時間を悔やむ。
このように、別れてしまう未来が待ち受けるのであれば、怖がられたとしても、嫌がられたとしてももっと一緒の時間を過ごすべきだった。
「辛気臭くなど……いつもと同じだ」
「私、余計なことしちゃったかしら。さっき立ち寄ったら、リーゼロッテも暗ーい顔してたわよ」
「何故っ?!」
「何故って、ベルンハルトがそんな態度だからでしょう。もう二週間になるわよ。いつまでそんな風にいじけてるの」
「いじけてなど、いない」
「そう。それじゃあ私の勘違いだわ」
いじけてるわけではない。リーゼロッテと離れる日のことを思えば、これまでと同じように接することなどできない、それだけのこと。
「其方は、今日は何しに来たんだ」
「不躾ねぇ。長のことはちゃんと話に来るわねって、前言っておいたでしょう」
「長……あぁ。そうか。長……」
「リーゼロッテのこと以外は興味ないのかしら? ふふ。それでこそ、ロイエンタールの人だわ。そういうつれないところもいいのだけど」
「揶揄うのはやめてくれ」
「またしばらくはよろしくね。長、続投することになったから」
レティシアは何のこともないようにそう告げるが、長の座は倒して取るものだと言っていた。それを続投するということは、レティシアが倒されなかったということだろうか。
「其方は、やはり強いんだな」
「今回は、ちょっと危なかったけどね」
「祭典というのは、どうやって行われるんだ?」
「興味あるの? リーゼロッテのことじゃないわよ」
「私の関心はそれだけではない」
数年ごとに行われる龍の祭典。それの詳細を知りたいと思うのは、いたって普通のことだろう。
「どうやってって……一斉にやり合うのよ。参加したのは今回は十頭。もう少しいたかしら。それが入り乱れてね、単純でしょ?」
「た、単純ではあるが、そのような決め方では危険だろう」
「もちろん、それなりにね。でもそこで勝ち残れないようじゃ長は務まらないわ」
レティシアが討伐の際に引き連れてくる龍は数十頭になる時もある。それの頂上に立つ龍。その強さは人間で太刀打ちできるものではない。
「龍族の長というのは、そんなにも強さが必要なのか」
「そうねぇ。いつ黒龍が襲ってくるかわからないもの」
レティシアの口から、聞いたこともない名前が発せられる。襲ってくるという不穏な単語に危機感を感じるのも、当然のこと。
「黒龍とは何だ?」
「黒龍、この世で最も大きな災厄。あんなものが襲いかかってくるのは、天災の様なものね」
「龍……なのか?」
「一応。でも、大丈夫よ。シュレンタットの国はその周りを結界が覆っているでしょう? 黒龍はそれを通ることはできないもの」
結界は強いものを通さないように張り巡らされている。ただし、強いものを通さないこと長けている為、弱いものは素通りさせてしまう。各領地を覆う結界は、国全体を覆っているものよりも弱い魔獣から領地を守るためのものだ。
ベルンハルトが討伐にいくのは、国の結界を抜けてくる魔獣たち。あの数で襲われれば、ロイスナーの結界では敵わないかもしれない。その危険からロイスナーを、その先に広がる他の領地を守るのが辺境伯としての務め。
「レティシア達は、そいつに襲われる恐れがあるということか?」
「私たちの住む山は、国の結界の外だもの。こうしてロイスナーに入って来られるのは、ロイスナーの結界が私たちを通してくれるからよ」
「そいつが出てきたら、龍達は、レティシアはどうするんだ?」
「どう……そうねぇ、しばらく身を隠すかしら。巣から龍達を逃して、その時に盾になる覚悟はできているもの。少しでも時間稼ぎができればいいわ」
盾……時間稼ぎ……レティシアの任されている長という立場の意味。その役割をベルンハルトは初めて理解した。
「長が、いなくなっては困るのではないか?」
「大丈夫よ。私がいなくなれば、次の長がすぐに立つわ。祭典で決めた順序があるもの。今はクラウスが次の長なの。有望だって言ったでしょ。あの歳で本当に凄い」
あっけらかんとした態度でクラウスのことを話すレティシアに、その未来に対する恐怖や絶望は感じられない。
これまでの過去を悔やんで、まだ決まってもいない未来に絶望して、作りたくもない壁を作っている自分との心根の差に、情けなさを通り越して恥ずかしくなる。
「レティシア、其方のその強さに、私は憧れているんだ。どうすれば、そのようになれる? 私は、自分に自信がない。其方の様な強さが欲しい」
「私の様な? うーん。どうかしらね。ベルンハルトはまずは、自分の思う様に生きてみれば良いんじゃない?」
「思う様に?」
「ええ。どうせ、自分ではどうしようもないことを考えているんでしょう? それよりも自分のしたいことをしたら?」
「したいこと」
「そうよ。リーゼロッテの部屋に行った? 行きたかったんじゃないの? ベッドに寝てみたかったんじゃないの?」
レティシアの言葉に煽られるようにして、ベルンハルトの頭の中には以前間近で見たリーゼロッテの顔が思い浮かぶ。その顔立ちを知ってはいても、間近で見ればまつ毛の長さに、肌の白さに、唇の紅さに情欲を掻き立てられた。
「そのようなことっ」
「したくないの?」
「そんなわけっ」
「へぇ。ベルンハルトにもそんな気があるのね。安心したわ。今すぐにリーゼロッテに襲いかかれって言ってるんじゃないのよ。それでも、あんな顔して部屋に閉じこもってるぐらいなら、話でもしていらっしゃい」
「襲い……其方はその、明け透けな物言いを改めた方が良いと思う」
「そう? これでも気を遣ってるつもりなんだけどね。色々考えて、遠回しな言い方で、伝えたいことも伝わらないような言い方をするのは、人間だけよ」
人間だけ。その言い方に目の前にいるレティシアが人間ではないということを、改めて突きつけられる。
伝えたいことも伝わらない、レティシアの言うその人間というのは、やはりベルンハルトのことだろうか。
言いたいこと、やりたいこと、それとは真逆の自分の言動。リーゼロッテに伝えたいこともたくさんあるはずなのに、口にする出せないもどかしさ。
まだ見ぬ未来に絶望するのではなく、悔やんだ過去を取り返しに、動かなければ。
リーゼロッテが魔法を使って魔力石を手に入れたあの日以降、二人の間は再び距離が開いた。
とは言っても、ベルンハルトがリーゼロッテの私室を訪ねていないこと。一緒にお茶を飲む機会がなくなったこと。違いといえばそれぐらいだろうか。
結婚して間もなく一年が経つというのに、変化したのはそれだけだったと、棒に振った時間を悔やむ。
このように、別れてしまう未来が待ち受けるのであれば、怖がられたとしても、嫌がられたとしてももっと一緒の時間を過ごすべきだった。
「辛気臭くなど……いつもと同じだ」
「私、余計なことしちゃったかしら。さっき立ち寄ったら、リーゼロッテも暗ーい顔してたわよ」
「何故っ?!」
「何故って、ベルンハルトがそんな態度だからでしょう。もう二週間になるわよ。いつまでそんな風にいじけてるの」
「いじけてなど、いない」
「そう。それじゃあ私の勘違いだわ」
いじけてるわけではない。リーゼロッテと離れる日のことを思えば、これまでと同じように接することなどできない、それだけのこと。
「其方は、今日は何しに来たんだ」
「不躾ねぇ。長のことはちゃんと話に来るわねって、前言っておいたでしょう」
「長……あぁ。そうか。長……」
「リーゼロッテのこと以外は興味ないのかしら? ふふ。それでこそ、ロイエンタールの人だわ。そういうつれないところもいいのだけど」
「揶揄うのはやめてくれ」
「またしばらくはよろしくね。長、続投することになったから」
レティシアは何のこともないようにそう告げるが、長の座は倒して取るものだと言っていた。それを続投するということは、レティシアが倒されなかったということだろうか。
「其方は、やはり強いんだな」
「今回は、ちょっと危なかったけどね」
「祭典というのは、どうやって行われるんだ?」
「興味あるの? リーゼロッテのことじゃないわよ」
「私の関心はそれだけではない」
数年ごとに行われる龍の祭典。それの詳細を知りたいと思うのは、いたって普通のことだろう。
「どうやってって……一斉にやり合うのよ。参加したのは今回は十頭。もう少しいたかしら。それが入り乱れてね、単純でしょ?」
「た、単純ではあるが、そのような決め方では危険だろう」
「もちろん、それなりにね。でもそこで勝ち残れないようじゃ長は務まらないわ」
レティシアが討伐の際に引き連れてくる龍は数十頭になる時もある。それの頂上に立つ龍。その強さは人間で太刀打ちできるものではない。
「龍族の長というのは、そんなにも強さが必要なのか」
「そうねぇ。いつ黒龍が襲ってくるかわからないもの」
レティシアの口から、聞いたこともない名前が発せられる。襲ってくるという不穏な単語に危機感を感じるのも、当然のこと。
「黒龍とは何だ?」
「黒龍、この世で最も大きな災厄。あんなものが襲いかかってくるのは、天災の様なものね」
「龍……なのか?」
「一応。でも、大丈夫よ。シュレンタットの国はその周りを結界が覆っているでしょう? 黒龍はそれを通ることはできないもの」
結界は強いものを通さないように張り巡らされている。ただし、強いものを通さないこと長けている為、弱いものは素通りさせてしまう。各領地を覆う結界は、国全体を覆っているものよりも弱い魔獣から領地を守るためのものだ。
ベルンハルトが討伐にいくのは、国の結界を抜けてくる魔獣たち。あの数で襲われれば、ロイスナーの結界では敵わないかもしれない。その危険からロイスナーを、その先に広がる他の領地を守るのが辺境伯としての務め。
「レティシア達は、そいつに襲われる恐れがあるということか?」
「私たちの住む山は、国の結界の外だもの。こうしてロイスナーに入って来られるのは、ロイスナーの結界が私たちを通してくれるからよ」
「そいつが出てきたら、龍達は、レティシアはどうするんだ?」
「どう……そうねぇ、しばらく身を隠すかしら。巣から龍達を逃して、その時に盾になる覚悟はできているもの。少しでも時間稼ぎができればいいわ」
盾……時間稼ぎ……レティシアの任されている長という立場の意味。その役割をベルンハルトは初めて理解した。
「長が、いなくなっては困るのではないか?」
「大丈夫よ。私がいなくなれば、次の長がすぐに立つわ。祭典で決めた順序があるもの。今はクラウスが次の長なの。有望だって言ったでしょ。あの歳で本当に凄い」
あっけらかんとした態度でクラウスのことを話すレティシアに、その未来に対する恐怖や絶望は感じられない。
これまでの過去を悔やんで、まだ決まってもいない未来に絶望して、作りたくもない壁を作っている自分との心根の差に、情けなさを通り越して恥ずかしくなる。
「レティシア、其方のその強さに、私は憧れているんだ。どうすれば、そのようになれる? 私は、自分に自信がない。其方の様な強さが欲しい」
「私の様な? うーん。どうかしらね。ベルンハルトはまずは、自分の思う様に生きてみれば良いんじゃない?」
「思う様に?」
「ええ。どうせ、自分ではどうしようもないことを考えているんでしょう? それよりも自分のしたいことをしたら?」
「したいこと」
「そうよ。リーゼロッテの部屋に行った? 行きたかったんじゃないの? ベッドに寝てみたかったんじゃないの?」
レティシアの言葉に煽られるようにして、ベルンハルトの頭の中には以前間近で見たリーゼロッテの顔が思い浮かぶ。その顔立ちを知ってはいても、間近で見ればまつ毛の長さに、肌の白さに、唇の紅さに情欲を掻き立てられた。
「そのようなことっ」
「したくないの?」
「そんなわけっ」
「へぇ。ベルンハルトにもそんな気があるのね。安心したわ。今すぐにリーゼロッテに襲いかかれって言ってるんじゃないのよ。それでも、あんな顔して部屋に閉じこもってるぐらいなら、話でもしていらっしゃい」
「襲い……其方はその、明け透けな物言いを改めた方が良いと思う」
「そう? これでも気を遣ってるつもりなんだけどね。色々考えて、遠回しな言い方で、伝えたいことも伝わらないような言い方をするのは、人間だけよ」
人間だけ。その言い方に目の前にいるレティシアが人間ではないということを、改めて突きつけられる。
伝えたいことも伝わらない、レティシアの言うその人間というのは、やはりベルンハルトのことだろうか。
言いたいこと、やりたいこと、それとは真逆の自分の言動。リーゼロッテに伝えたいこともたくさんあるはずなのに、口にする出せないもどかしさ。
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