【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純

文字の大きさ
57 / 105
魔法が使えたって

ベルンハルトの決意 2

しおりを挟む
「あらぁ。辛気臭いわね」

 リーゼロッテが魔法を使って魔力石を手に入れたあの日以降、二人の間は再び距離が開いた。
 とは言っても、ベルンハルトがリーゼロッテの私室を訪ねていないこと。一緒にお茶を飲む機会がなくなったこと。違いといえばそれぐらいだろうか。
 結婚して間もなく一年が経つというのに、変化したのはそれだけだったと、棒に振った時間を悔やむ。
 このように、別れてしまう未来が待ち受けるのであれば、怖がられたとしても、嫌がられたとしてももっと一緒の時間を過ごすべきだった。

「辛気臭くなど……いつもと同じだ」

「私、余計なことしちゃったかしら。さっき立ち寄ったら、リーゼロッテも暗ーい顔してたわよ」

「何故っ?!」

「何故って、ベルンハルトがそんな態度だからでしょう。もう二週間になるわよ。いつまでそんな風にいじけてるの」

「いじけてなど、いない」

「そう。それじゃあ私の勘違いだわ」

 いじけてるわけではない。リーゼロッテと離れる日のことを思えば、これまでと同じように接することなどできない、それだけのこと。

「其方は、今日は何しに来たんだ」

「不躾ねぇ。長のことはちゃんと話に来るわねって、前言っておいたでしょう」

「長……あぁ。そうか。長……」

「リーゼロッテのこと以外は興味ないのかしら? ふふ。それでこそ、ロイエンタールの人だわ。そういうつれないところもいいのだけど」

「揶揄うのはやめてくれ」

「またしばらくはよろしくね。長、続投することになったから」

 レティシアは何のこともないようにそう告げるが、長の座は倒して取るものだと言っていた。それを続投するということは、レティシアが倒されなかったということだろうか。

「其方は、やはり強いんだな」

「今回は、ちょっと危なかったけどね」

「祭典というのは、どうやって行われるんだ?」

「興味あるの? リーゼロッテのことじゃないわよ」

「私の関心はそれだけではない」

 数年ごとに行われる龍の祭典。それの詳細を知りたいと思うのは、いたって普通のことだろう。

「どうやってって……一斉にやり合うのよ。参加したのは今回は十頭。もう少しいたかしら。それが入り乱れてね、単純でしょ?」

「た、単純ではあるが、そのような決め方では危険だろう」

「もちろん、それなりにね。でもそこで勝ち残れないようじゃ長は務まらないわ」

 レティシアが討伐の際に引き連れてくる龍は数十頭になる時もある。それの頂上に立つ龍。その強さは人間で太刀打ちできるものではない。

「龍族の長というのは、そんなにも強さが必要なのか」

「そうねぇ。いつ黒龍が襲ってくるかわからないもの」

 レティシアの口から、聞いたこともない名前が発せられる。襲ってくるという不穏な単語に危機感を感じるのも、当然のこと。

「黒龍とは何だ?」

「黒龍、この世で最も大きな災厄。あんなものが襲いかかってくるのは、天災の様なものね」

「龍……なのか?」

「一応。でも、大丈夫よ。シュレンタットの国はその周りを結界が覆っているでしょう? 黒龍はそれを通ることはできないもの」

 結界は強いものを通さないように張り巡らされている。ただし、強いものを通さないこと長けている為、弱いものは素通りさせてしまう。各領地を覆う結界は、国全体を覆っているものよりも弱い魔獣から領地を守るためのものだ。
 ベルンハルトが討伐にいくのは、国の結界を抜けてくる魔獣たち。あの数で襲われれば、ロイスナーの結界では敵わないかもしれない。その危険からロイスナーを、その先に広がる他の領地を守るのが辺境伯としての務め。

「レティシア達は、そいつに襲われる恐れがあるということか?」

「私たちの住む山は、国の結界の外だもの。こうしてロイスナーに入って来られるのは、ロイスナーの結界が私たちを通してくれるからよ」

「そいつが出てきたら、龍達は、レティシアはどうするんだ?」

「どう……そうねぇ、しばらく身を隠すかしら。巣から龍達を逃して、その時に盾になる覚悟はできているもの。少しでも時間稼ぎができればいいわ」

 盾……時間稼ぎ……レティシアの任されている長という立場の意味。その役割をベルンハルトは初めて理解した。

「長が、いなくなっては困るのではないか?」

「大丈夫よ。私がいなくなれば、次の長がすぐに立つわ。祭典で決めた順序があるもの。今はクラウスが次の長なの。有望だって言ったでしょ。あの歳で本当に凄い」

 あっけらかんとした態度でクラウスのことを話すレティシアに、その未来に対する恐怖や絶望は感じられない。
 これまでの過去を悔やんで、まだ決まってもいない未来に絶望して、作りたくもない壁を作っている自分との心根の差に、情けなさを通り越して恥ずかしくなる。

「レティシア、其方のその強さに、私は憧れているんだ。どうすれば、そのようになれる? 私は、自分に自信がない。其方の様な強さが欲しい」

「私の様な? うーん。どうかしらね。ベルンハルトはまずは、自分の思う様に生きてみれば良いんじゃない?」

「思う様に?」

「ええ。どうせ、自分ではどうしようもないことを考えているんでしょう? それよりも自分のしたいことをしたら?」

「したいこと」

「そうよ。リーゼロッテの部屋に行った? 行きたかったんじゃないの? ベッドに寝てみたかったんじゃないの?」

 レティシアの言葉に煽られるようにして、ベルンハルトの頭の中には以前間近で見たリーゼロッテの顔が思い浮かぶ。その顔立ちを知ってはいても、間近で見ればまつ毛の長さに、肌の白さに、唇の紅さに情欲を掻き立てられた。

「そのようなことっ」

「したくないの?」

「そんなわけっ」

「へぇ。ベルンハルトにもそんな気があるのね。安心したわ。今すぐにリーゼロッテに襲いかかれって言ってるんじゃないのよ。それでも、あんな顔して部屋に閉じこもってるぐらいなら、話でもしていらっしゃい」

「襲い……其方はその、明け透けな物言いを改めた方が良いと思う」

「そう? これでも気を遣ってるつもりなんだけどね。色々考えて、遠回しな言い方で、伝えたいことも伝わらないような言い方をするのは、人間だけよ」

 人間だけ。その言い方に目の前にいるレティシアが人間ではないということを、改めて突きつけられる。
 伝えたいことも伝わらない、レティシアの言うその人間というのは、やはりベルンハルトのことだろうか。
 言いたいこと、やりたいこと、それとは真逆の自分の言動。リーゼロッテに伝えたいこともたくさんあるはずなのに、口にする出せないもどかしさ。
 まだ見ぬ未来に絶望するのではなく、悔やんだ過去を取り返しに、動かなければ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜

神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。 聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。 イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。 いわゆる地味子だ。 彼女の能力も地味だった。 使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。 唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。 そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。 ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。 しかし、彼女は目立たない実力者だった。 素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。 司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。 難しい相談でも難なくこなす知識と教養。 全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。 彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。 彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。 地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。 全部で5万字。 カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。 HOTランキング女性向け1位。 日間ファンタジーランキング1位。 日間完結ランキング1位。 応援してくれた、みなさんのおかげです。 ありがとうございます。とても嬉しいです!

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。

鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。 さらに、偽聖女と決めつけられる始末。 しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!? 他サイトにも重複掲載中です。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる

あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。 魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。 しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。 小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。

処理中です...