99 / 105
貴重なものをみすみす渡すわけ、ありませんよ
それぞれの思惑 6
しおりを挟む
「ロイエンタール伯爵。其方には公爵になってもらおうと思っている」
「公爵……」
リーゼロッテがアマーリエやエーリックから聞いていたことは、間違いではなかった。
ただ、直接バルタザールから告げられれば、その事態の大きさに、重圧を感じてしまう。
「公爵ともなれば、交易の相手など溢れるぐらいに湧いて出るだろう。私の紹介などいらぬ。好きな相手を選べばいい」
「それならば、その授与を待つことに致します。ありがたく、頂戴致します」
大きな重圧と引き換えに、手に入れられるものもまた魅力的で、ベルンハルトはつい二つ返事で了承を示した。
「だが、爵位の授与はエーリックが言い出したことでな。リーゼロッテと結婚したのだから、当然公爵と成るべきだと。それでは今回の対価とはならぬだろう」
今回のことでリーゼロッテへの扱いも変わっていくだろう。王族との関係が回復すれば、周りの貴族たちも変わっていくはずだ。
公爵となって交易相手を作れば、冬の食糧難にも対処できるはず。いざとなれば魔力石を取引材料にすることだってできる。
だが、ベルンハルトの望んでいたこの二つが、魔力石の対価にならないのだとすれば、もう一つを口にしても良いのだろうか。
「それでは、もう一人爵位を授けて欲しい者がおります。ロイスナーには他に貴族はおりません。公爵領となるのであれば、できれば増やしていただきたいと思っております」
「それもそうか。だが、誰だ? 何かしらの功績が必要になる」
「今回の魔力石調達に尽力してくれた人物です。我が家を長きに渡り支え続けてくれている者」
「それで、名前は?」
「アルベルトに、男爵の地位を」
ベルンハルトが心の奥底に隠したもう一つの望み。アルベルトの未来のためにも、勝ち取っておきたい対価。
あの視線を送ってきたヘルムートには、もしかしたらバレていたのかもしれないが。
「アルベルト?」
「はい。ロイエンタールの執事長で、ヘルムートの息子です」
「アルベルトさんが男爵に?!」
他領地と取引を始めれば、ベルンハルトが領地を留守にすることも出てくるだろう。その時に領内を任せられる相手として、アルベルトが爵位を持てばそれも可能だ。
「あぁ。アルベルトになら任せられるからな」
「良いと思います。いつでも、ベルンハルト様のことを考えてくれますから」
リーゼロッテの笑顔が、ベルンハルトの考えを後押しする。
「そのような相手なら、男爵にしても良いな。つまらぬことを考えぬ様、よく見張っておいてくれ」
バルタザールの了承を得ることができれば、ベルンハルトの描いた希望は全て叶う。
この決定が伝わったときのアルベルトの驚く表情を見るのが楽しみで、つい頬が緩む。
「国王陛下。これで十分です。手に余るほどのもの、心より感謝致します」
「いや。こちらこそ、魔力石のことは本当に世話になった」
バルタザールがベルンハルトに向けて手を差し出した。取引が一通り終わったことの合図のようだ。
それを受けてベルンハルトも堂々とその手を握る。いくら国王相手とはいえ、今回は下手に出る必要もないだろう。
「魔力石は外にあるはずです。どちらへ、運び入れましょうか?」
「中庭にその場へ通じる門が作られている。そこから運び入れるつもりだ」
「わかりました。では、そちらへ運ばせます」
「これほど、大きなものだったのか」
ヘルムートによって中庭に運ばれていた魔力石を見ながら、バルタザールが感心した様に声を上げた。その様子から、大きさに関しては問題ないものだとわかる。
改めてリーゼロッテの魔力の大きさや、力の注ぎ方を尊敬せずにはいられない。
「それにしても、これを使える様にすることができるだろうか」
リーゼロッテが作り出した魔力石を眺めながら、徐々にバルタザールの顔が曇る。
結界として使うためには、魔力石を染め上げなければならない。
それはリーゼロッテに贈ったお守りと同様に魔力を注ぎ込んでいくのだが、魔力石が大きい分、必要な魔力も大きくなるだろう。
「国王陛下とエーリック様で不安を感じるのであれば、もしよろしければ、私もお手伝い致しましょう」
「ロイエンタール伯爵! それはありがたい!」
必要な魔力量に不安を感じていたバルタザールの声が弾み、その顔を見ながらベルンハルトがほくそ笑んだ。
中庭から城内へ運び入れた魔力石を、バルタザールとエーリック、そしてベルンハルトが取り囲む。
あの小さな魔力石と違い、今度は割れてしまう心配はいらないだろう。
結界として使えるものになるよう、そのイメージを膨らませる。
目の前にある魔力石から視線を外し、そのまま後ろに向ければ、いつものようにリーゼロッテが微笑んでいるのが見えた。
魔力石を作り出した時のリーゼロッテの様に、今の全力でもって染め上げる。
(彼女のように。次は、私の番だ)
ベルンハルトの望みを叶える、そのチャンスは一度きりだろう。
「父様。ロイエンタール伯爵。それでは始めます」
次期国王であるエーリックが中心となるべきだと、バルタザールを言葉を受け、この場を取り仕切るのはエーリックだ。
その後ろには、いつの間に来ていたのか、ユリアーナの姿も見える。
「あぁ」
「準備は整っております」
「お願いします」
エーリックの言葉を合図に、それぞれがその手に魔力を込め始めた。
それが徐々に新しい魔力石へと伝わり、次第に魔力石の色が薄い青色へと変わり始める。
国を守るための結界が、もう一度張り直されるこの瞬間、ベルンハルトが望んでいたチャンスは今しかない。
リーゼロッテが生み出した大きな魔力石。それを今一度目に焼き付けながら、ベルンハルトはもう一人の人物を思い描く。
あれだけ自由に空を飛びながら、決してこの場にいることのできない存在。
これまでだって存分に世話になった。そしてこれからも、ベルンハルトを助けてくれるであろう龍。
人間ですらない龍にお礼をしたいなど、バルタザールの前で口にすることもできなかった。
(レティシア。貴女のために私ができることは、これぐらいだ)
真っ青な空に浮かぶ若草色。その鮮やかな景色が、消えてなくなることのないように、ベルンハルトは膨大な魔力を一気に注ぎ込む。
魔力石を染め上げることとは別のイメージを、描いた。
「公爵……」
リーゼロッテがアマーリエやエーリックから聞いていたことは、間違いではなかった。
ただ、直接バルタザールから告げられれば、その事態の大きさに、重圧を感じてしまう。
「公爵ともなれば、交易の相手など溢れるぐらいに湧いて出るだろう。私の紹介などいらぬ。好きな相手を選べばいい」
「それならば、その授与を待つことに致します。ありがたく、頂戴致します」
大きな重圧と引き換えに、手に入れられるものもまた魅力的で、ベルンハルトはつい二つ返事で了承を示した。
「だが、爵位の授与はエーリックが言い出したことでな。リーゼロッテと結婚したのだから、当然公爵と成るべきだと。それでは今回の対価とはならぬだろう」
今回のことでリーゼロッテへの扱いも変わっていくだろう。王族との関係が回復すれば、周りの貴族たちも変わっていくはずだ。
公爵となって交易相手を作れば、冬の食糧難にも対処できるはず。いざとなれば魔力石を取引材料にすることだってできる。
だが、ベルンハルトの望んでいたこの二つが、魔力石の対価にならないのだとすれば、もう一つを口にしても良いのだろうか。
「それでは、もう一人爵位を授けて欲しい者がおります。ロイスナーには他に貴族はおりません。公爵領となるのであれば、できれば増やしていただきたいと思っております」
「それもそうか。だが、誰だ? 何かしらの功績が必要になる」
「今回の魔力石調達に尽力してくれた人物です。我が家を長きに渡り支え続けてくれている者」
「それで、名前は?」
「アルベルトに、男爵の地位を」
ベルンハルトが心の奥底に隠したもう一つの望み。アルベルトの未来のためにも、勝ち取っておきたい対価。
あの視線を送ってきたヘルムートには、もしかしたらバレていたのかもしれないが。
「アルベルト?」
「はい。ロイエンタールの執事長で、ヘルムートの息子です」
「アルベルトさんが男爵に?!」
他領地と取引を始めれば、ベルンハルトが領地を留守にすることも出てくるだろう。その時に領内を任せられる相手として、アルベルトが爵位を持てばそれも可能だ。
「あぁ。アルベルトになら任せられるからな」
「良いと思います。いつでも、ベルンハルト様のことを考えてくれますから」
リーゼロッテの笑顔が、ベルンハルトの考えを後押しする。
「そのような相手なら、男爵にしても良いな。つまらぬことを考えぬ様、よく見張っておいてくれ」
バルタザールの了承を得ることができれば、ベルンハルトの描いた希望は全て叶う。
この決定が伝わったときのアルベルトの驚く表情を見るのが楽しみで、つい頬が緩む。
「国王陛下。これで十分です。手に余るほどのもの、心より感謝致します」
「いや。こちらこそ、魔力石のことは本当に世話になった」
バルタザールがベルンハルトに向けて手を差し出した。取引が一通り終わったことの合図のようだ。
それを受けてベルンハルトも堂々とその手を握る。いくら国王相手とはいえ、今回は下手に出る必要もないだろう。
「魔力石は外にあるはずです。どちらへ、運び入れましょうか?」
「中庭にその場へ通じる門が作られている。そこから運び入れるつもりだ」
「わかりました。では、そちらへ運ばせます」
「これほど、大きなものだったのか」
ヘルムートによって中庭に運ばれていた魔力石を見ながら、バルタザールが感心した様に声を上げた。その様子から、大きさに関しては問題ないものだとわかる。
改めてリーゼロッテの魔力の大きさや、力の注ぎ方を尊敬せずにはいられない。
「それにしても、これを使える様にすることができるだろうか」
リーゼロッテが作り出した魔力石を眺めながら、徐々にバルタザールの顔が曇る。
結界として使うためには、魔力石を染め上げなければならない。
それはリーゼロッテに贈ったお守りと同様に魔力を注ぎ込んでいくのだが、魔力石が大きい分、必要な魔力も大きくなるだろう。
「国王陛下とエーリック様で不安を感じるのであれば、もしよろしければ、私もお手伝い致しましょう」
「ロイエンタール伯爵! それはありがたい!」
必要な魔力量に不安を感じていたバルタザールの声が弾み、その顔を見ながらベルンハルトがほくそ笑んだ。
中庭から城内へ運び入れた魔力石を、バルタザールとエーリック、そしてベルンハルトが取り囲む。
あの小さな魔力石と違い、今度は割れてしまう心配はいらないだろう。
結界として使えるものになるよう、そのイメージを膨らませる。
目の前にある魔力石から視線を外し、そのまま後ろに向ければ、いつものようにリーゼロッテが微笑んでいるのが見えた。
魔力石を作り出した時のリーゼロッテの様に、今の全力でもって染め上げる。
(彼女のように。次は、私の番だ)
ベルンハルトの望みを叶える、そのチャンスは一度きりだろう。
「父様。ロイエンタール伯爵。それでは始めます」
次期国王であるエーリックが中心となるべきだと、バルタザールを言葉を受け、この場を取り仕切るのはエーリックだ。
その後ろには、いつの間に来ていたのか、ユリアーナの姿も見える。
「あぁ」
「準備は整っております」
「お願いします」
エーリックの言葉を合図に、それぞれがその手に魔力を込め始めた。
それが徐々に新しい魔力石へと伝わり、次第に魔力石の色が薄い青色へと変わり始める。
国を守るための結界が、もう一度張り直されるこの瞬間、ベルンハルトが望んでいたチャンスは今しかない。
リーゼロッテが生み出した大きな魔力石。それを今一度目に焼き付けながら、ベルンハルトはもう一人の人物を思い描く。
あれだけ自由に空を飛びながら、決してこの場にいることのできない存在。
これまでだって存分に世話になった。そしてこれからも、ベルンハルトを助けてくれるであろう龍。
人間ですらない龍にお礼をしたいなど、バルタザールの前で口にすることもできなかった。
(レティシア。貴女のために私ができることは、これぐらいだ)
真っ青な空に浮かぶ若草色。その鮮やかな景色が、消えてなくなることのないように、ベルンハルトは膨大な魔力を一気に注ぎ込む。
魔力石を染め上げることとは別のイメージを、描いた。
26
あなたにおすすめの小説
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。
向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。
幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。
最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです!
勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。
だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!?
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】婚約者と仕事を失いましたが、すべて隣国でバージョンアップするようです。
鋼雅 暁
ファンタジー
聖女として働いていたアリサ。ある日突然、王子から婚約破棄を告げられる。
さらに、偽聖女と決めつけられる始末。
しかし、これ幸いと王都を出たアリサは辺境の地でのんびり暮らすことに。しかしアリサは自覚のない「魔力の塊」であったらしく、それに気付かずアリサを放り出した王国は傾き、アリサの魔力に気付いた隣国は皇太子を派遣し……捨てる国あれば拾う国あり!?
他サイトにも重複掲載中です。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。
まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。
泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。
それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ!
【手直しての再掲載です】
いつも通り、ふんわり設定です。
いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*)
Copyright©︎2022-まるねこ
転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~
志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。
自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。
しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。
身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。
しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた!
第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。
側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。
厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。
後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。
【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。
まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」
そう、第二王子に言われました。
そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…!
でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!?
☆★☆★
全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
無能だと思われていた日陰少女は、魔法学校のS級パーティの参謀になって可愛がられる
あきゅう
ファンタジー
魔法がほとんど使えないものの、魔物を狩ることが好きでたまらないモネは、魔物ハンターの資格が取れる魔法学校に入学する。
魔法が得意ではなく、さらに人見知りなせいで友達はできないし、クラスでもなんだか浮いているモネ。
しかし、ある日、魔物に襲われていた先輩を助けたことがきっかけで、モネの隠れた才能が周りの学生や先生たちに知られていくことになる。
小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる