私を忘れた貴方と、貴方を忘れた私の顛末

コツメカワウソ

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 ローウェン王国は四つ地域に別れている。
 王都のある中央、東方、西方、北方。
 そしてそれぞれの地域には中央騎士団、東方騎士団、西方騎士団、北方騎士団の四つの騎士団がある。
 中央と東方は隣国との争いや侵入者の確保が多く、辺境にあり魔の森の大半と接する北方は魔獣の討伐が主な役割だ。
 魔の森とわずかに接する西方も魔獣の討伐や東方や中央を避けてきた侵入者の対応をしている。
 そしてこの国には数十年に一度の厄災と言われる大規模なスタンピードが起こる。魔の森から大量の魔獣が押し寄せてくるのだ。
 厄災が起こる数ヶ月前には先見魔法を使える家門から通達がある。
 そして今年は前回から数えて二十三年ぶりに厄災の年になると先見が出たばかりだった。






「えー!今日はメルちゃんじゃないのかよ!」

 ひどい打撲をしているはずなのに、随分と太々しい態度の騎士は大きくため息をついて言う。

「なんでこんな平民の治癒師に治療されなきゃいけないんだよ!」

 今日の治癒担当はソフィアだった。この騎士は以前から後輩のメルを気に入っており、平民であるソフィアに対してきつく当たるので苦手だと感じていた。

「そうは言っても今日の担当は私です。メルは今日は調薬担当なんですよ」

(こいつほんとに腹が立つわぁ。メルがあんたなんか相手にするわけないじゃない)

 心の中で悪態を付くが顔には出さない。
 こっちはこの環境で四年も働いてきているのだ。
 下手に出るのは癪に障ったが揉めても面倒。
 ソフィアがそう言うと、騎士は不快そうに眉を顰める。

「あーやだやだ。メルちゃんの可愛い顔も見られないし、なんでこんな…」

「こんな、何かしら?」

 文句を言っている騎士の後ろから女性が顔を出す。

「あ…エリーさんっ!」

「あら、ひどい打撲って聞いてたけど随分元気そうじゃない。そんなに元気なら治療は必要ないでしょ。戻ったら?」

 エリーと呼ばれた女性は冷たい声で言った。

「いやぁ、その…」

「治癒室に文句があるなら団長にでも言いなさい。それとも私の夫に言っておきましょうか?ねぇ、あなた名前と所属は?」

「いえ、文句なんて無いです!ソ、ソフィア嬢!治癒をお願いします!」

「ですって。ソフィア、どうする?」

 悪い微笑みを浮かべたエリーにソフィアはため息をついた。

「ありがとうございますエリーさん。じゃあ治癒を始めますね」

 腹が立つ気持ちはあったが、さっさと治療して帰っていただこう。そう考えてソフィアは騎士の怪我を治した。



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