ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく

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抵抗は虚しく終わる

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「やめて下さいっ!!そんな無理やり押し込まないでっ!!ああ、そんなにしちゃ駄目ですって!!壊れちゃうから!!」
どれだけ抵抗しても、逞しい隊長の腕を俺の力で止める事なんてできるわけも無い。

「やだっ!!隊長、もう止めてってば!!本当に壊れちゃうよ!!」

「煩いっ!!俺のだってもういっぱいいっぱいなんだ!!無理やりが嫌なら、諦めて自分でやれ!!」

情けなく縋り付きまくって、やっと隊長は魔物の地面に下ろしてくれた。

「ルノさんに買ってもらった大事な収納鞄なんですから、無理しないでくださいよ!!」

「お前が死体なんて入れたくねぇってわがまま言うからだろうが」

大量の魔物の死体。
やはり解体はかなり時間がかかるそうだ。

しかし魔物の死体を長時間放置しておくと、それだけで瘴気が発生するらしく、解体しきれない分は収納箱にしまう事になったが、隊員達の収納箱を使っても入りきれなかったので、俺の収納鞄が目をつけられたと言うわけだ。

「うう……食べ物も入ってるのに、死体を一緒に入れるとかありえないよぅ……」

中で食べ物と死体がくっついたりしないよね?俺の収納鞄の中で生き返ったりしないよね?大丈夫だよね?

隊長が勝手に無理やり押し込もうとしたけど、俺の収納鞄は鍵付きなので隊長に入れる事はできなくて、危うく力技で破壊されるところだった。
仕方なく、他の隊員達は隊長の指示でお風呂へ行っているので、堂々と泣く泣く魔物を収納していく。

「お前のそれの容量とかどうなってんだ?」

「一応無制限、時間経過なしになってます……」

俺の収納鞄の中身のNEWマーク、大量の魔物の死体とルノさんの服とパンツ……カオスだよ。

「そうか!!なら暫く預けてても平気だな!!他の奴らの収納箱は容量少ねぇわ、多少腐敗が進みにくくなる程度だからな。最高の収納鞄を持つお前が、超鈍感で本当に助かるわ。流石にこの量の魔物を領主に報告するのは気が重ぇと思ってたんだ」

いや、なるべく早く……可及的速やかに、最優先で引き取りに来ていただきたい。

表面についた魔物の血を雑巾で拭いているとルノさんが食堂から出てきた。

「ルノさん!!聞いて下さいよ!!隊長すっごいひどいんですよ!!横暴なんです!!」
駆け寄るとルノさんはちょっと驚いた顔をした。

「ぴよぴよぴよぴよウルセェなぁ。お前だって魔物放置してまた魔物が生まれんの嫌だろ?」
「ほら、こうして脅してくるんですよ。嫌だって言ったら無理やり入れようとするし……「ありがとう」
ふわりと空気が揺れて、ギュッとルノさんに抱きしめられた。

「ありがとう、シーナ」
「へ?どういたしまして?」

夜食か、魔物を引き受けた事か、タイミングが独特過ぎてどっちに対してか分からなかったけど、お礼を言われたと言うことは、俺は何かルノさんの役に立てた様だ。

「お前は本当にいい加減だな。何がどういたしましてなんだよ。ルノ、こいつわかってねぇぞ」
「いい加減って、それ隊長に1番言われたく無いですよ。俺はいい加減じゃなくて程良い加減の距離感と人間関係を心掛けてるんです」

「そうだね。シーナの側はとても居心地が良いよ」
俺を抱きしめるルノさんの腕の力が強まって、密着度が上がり頬と頬が触れる。

あの……ルノさん?これは流石に近すぎやしませんかね?は……ははっ……ルノさんってば甘えん坊だなぁ……魔物を狩り尽くしてきた男と同一人物だと誰が思うだろうね。

俺も同じ物を使ってるけど、石鹸の香りにドキドキするんですけど!?
ルノさん、隊長に見られちゃってますよ!?良いんですか!?魔性ですか!?

「程良い加減の距離感ねぇ……シーナのおかげで魔物も片付いたし、俺も風呂行ってくるわ、じゃ~な」
隊長はにやけた口元のまま、首をゴキゴキ鳴らしながらお風呂へ向かって行った。

「俺たちももう寝ましょう。結構限界です」
ルノさんの腕から逃げ出すとわざとらしく大きなあくびをして一緒に部屋へ戻った。

一緒に戻ったよ……同室だからね。
同室だけど……どうして同じベッドで寝る事になると思うだろうか?

部屋に戻って、俺がソファーで寝ようとしたらルノさんから「一緒に寝て欲しい」ってお願いをされた。
俺の服を掴む指先を震わせながら遠慮がちに言われたら駄目なんて言えるわけなく、狭いベッドに男二人で寝ている。

これが綺麗なお姉さんなら眠れなくなるところだが、相手はもう慣れたもんのルノさんだ。
目を閉じようとする目蓋の動きに逆らう事なく眠りの世界へ……。

「シーナ……気分は悪く無い?」
「……すこぶる眠いです」
眠りへ落ちかけていた所をいきなり掬い上げられたが、またずぶずぶと沈んでいく。

「聞いてくれていなくても構わない、明日には忘れてくれても良い……シーナに知って欲しいけど、知らないでいて欲しいなんて……わがままだよね」
まるで子守唄の様なルノさんの声、近いな。

「昔から……咀嚼音がいつも耳から離れないんだ。その音がだんだん大きくなって頭の中を埋め尽くすと、魔物を殺さなければいけない、と言う気持ちに急かされて他の事は何も考えられなくなるんだ」

咀嚼音……24時間耳元でクチャクチャやられたら俺も気が狂うわ。
しかし、答えるのも億劫で曖昧に身動ぎで返した。
頭がルノさんらしきものにぶつかる。やっぱり狭いな。

「俺は魔力に手綱を握られている様なもの、一歩でも足を踏み外せば魔物になってしまうだろうといつも気を張っていた。俺が側にいる事で周りの人間の魔力にまで影響が出るから、人と距離を取る様にしていた」

そういえば食堂でもいつもみんなから少し離れて座ってたなぁとぼんやりした感想。

でも俺との距離めっちゃ近い……もしかして俺は人ではなく……神なのかもしれないって、んなわけあるかとセルフツッコミしている間にもルノさんはずっと一人、寝物語の様に語り続けている。

聞いていなくても構わないと言われたので聞くともなしに聞いている。

「あの日、レッドヘッドベアに襲われていたシーナを抱き起こした時、咀嚼音が聞こえなくなった。俺は……今度こそ守る事ができたんだと、心が軽くなったのがわかった。シーナは俺の恩人……なのに……シーナの『鑑定』で俺の過去を知られていると思ったら怖くなった。何をどこまで知られているのか、シーナは俺から離れていくんじゃ無いかと思うと……あの咀嚼音が再び鳴り始めた」

体が揺れてぼんやり目を開けた。

「シーナは既に知っていても側に居てくれたのに、そんな事もわからなくなってた……でももう間違えない。だから……君を守らせて……俺を救ってくれ、シーナ」

ルノさんに抱きつかれてる……ルノさん、泣いてる?

「大丈夫……怖くない、怖くない。寝よ?ぐっすり寝れば怖い夢も見なくなるってさ……」

小さい頃の記憶すごいな。
あえて思い出す事でもない、そんな大昔に母親に宥められながら添い寝してもらった時の記憶が急に蘇った。

怖い夢を見たせいでぐっすり眠れなかったんだけどね……そう思いながらも、ただ母親の存在を感じるだけで全てが大丈夫という心強さがあった。
母親がしてくれた様に、おでこを合わせて後頭部を撫でてやった。

さぁ、もう寝よう……完全に五感は閉ざされて、今度こそ眠りの渦をグルグル回りながら飲み込まれて行った。
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