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1話目 ここはどこ?
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『ぼっちゃんを守って死ねるなら、こんなに執事冥利に尽きることはない』
推しの為なら死ねる。
この思いに微塵の迷いもなく……ないはずだった。実際に自分の死体も見たし、証拠隠滅とそれを燃やしたのも自分だ。それでも心のどこかに悔いを持っていたのかもしれない。
『ぼっちゃんが立派に成長した姿を見たい』
『ぼっちゃんが配信者トップにたつ姿を見たい』
『ぼっちゃんをずっと支えていきたい』
俺こそが……あなたの一番のファンであり続けたかった……。
さよならぼっちゃん、どうかご自身を責めないで。
さよなら俺のお日様、ずっとずっと……その姿を……見上げて……いた……った………………。
ーーーーーー
ーーーーーー
体が重い……手に、指にすら思い通りに力が入らない。
ゆっくりと目を開いたが視界すらままならず、ぼんやりとした暗い空を寝転び眺めていた。
お腹が空いた……ここはどこだろう?あれからどれだけの時間が過ぎたのだろう?あれから……?俺は死んだはずではなかっただろうか?
「あ……あぁ……う……」
言葉すら自由に発せられないのか。
とりあえず立って人を探して状況の確認をしたい。自らの体に回復魔法をかけて……ん?何かがおかしい。
魔力を体に循環させて強化した腕を持ち上げて目の前に移動させた。
視力強化でクリアになった視界に見えたものは……。
小さくてぷにぷにと柔らかそうな手。
産まれてすぐ俺の指を握ってくれたぼっちゃんの小さなお手手を思い出して幸せが体の内から噴き出した。
親友であるマサカズとリナ。
マサカズがこの世界にやってきた時も、リナと出会った時も、魔王を倒した時も、二人の結婚式も離婚の危機も出産も常に側で見てきた。そんな二人の愛しい子供を俺が愛しく思わないわけもなく、ぼっちゃんは産まれたその瞬間に俺の【推し】になった。
人にはそれぞれ【神】がいる。それが【推し】。
この世界で誰よりも尊い存在である推しを推す事で、日々を明るく楽しく生きよう。
リナが広めた【推し活】という崇拝する推しを応援するために自らの生活を向上させようという宗教はあっという間に世界に浸透していった。
俺もぼっちゃんの像が欲しくて新たな土魔法を習得したり、ぼっちゃんがくれた野花たちすら枯らしたくなくてマサカズが使っていた時間停止、無制限のアイテムボックスを取得した。可愛いぼっちゃんの姿を映像に残しておきたくてリナと共同して【カメラ】という新たな魔導具の開発も成功した。
やっぱ推しってすげえよ。
……と、逸れてしまった思考を現実へ戻そう。
目の前にある現実、この小さな手はどうやら俺の物らしい。
グッパグッパと自分の意志で動く小さな手から考察すると……俺は転生したのか?
マサカズとリナの話に聞いた『異世界転生』だろう。マサカズとリナは『異世界転移』という現象でこの世界に別の世界からやってきたらしいが、俺は記憶の中で確実に死んだので『異世界転生』という物だろう。
全く知らない世界で別人として生まれ変わる『異世界転生』。
この小さな赤子の手がそれを物語っている。
魔法で無理やり上げた視力で周囲を確認してみると、自分がかなり特殊な状況に置かれているのがわかった。
寒空の下、赤子が布一枚に巻かれて森に置かれている……これは捨てられたとしか思えない状況。
人にはそれぞれ事情はあろうが、産んだ子を捨てるとは信じ難いな。俺は産まれてきたぼっちゃんの姿を神だと思ったからこそ余計に信じられない……よほど困窮している世界に生まれ変わってしまったのかもしれない。
勇者と聖女が現れる前は俺たちの世界も殺伐としていたからな。
さて……ここがどんな世界なのかはわからないけれど、魔力は感じるのでマサカズがやってきたという魔法の無い世界ではなさそうだ。俺が知っている魔物の気配も感じる……同じ世界に別人として転生したのかもしれない。
こうしてはいられない、転生するのにどれだけの時間が過ぎたのかわからないけれど同じ世界ならまたぼっちゃんと会える機会が与えられたということだ。こんなところでのたれ死んでる場合じゃない。ぼっちゃんに会いに行かなければ!!
幸いな事に魔力は死ぬ前と変わらぬようだ、赤子の身体ぐらい大したハンデではない。
母乳が貰えないなら魔力を吸えばいい。未発達で視力が弱いなら魔法で視力を強化すればいい。首や腰が座っていないなら魔法で強化し続ければいい。立て、歩け。推しの為に、推し活の為に……ぼっちゃん、ルーウェンがいま会いに参ります!!
頭が大きくてバランスが悪いながらもなんとか立ち上がることができた。
足りない筋力を強化魔法で補いつつ低い視界で周囲を見回してみるもどこまでも森が続いているだけだ。巻かれていた布はせめてもの慈悲か、赤ん坊の姿を隠して運ぶためだったのかはわからないが、ぼっちゃんの人形を作ろうとして覚えたクリエイト魔法でありがたく布を服に作り変えさせてもらった。布しかないので簡素な服だが魔力を存分に流したのでバングリオネルの爪ぐらいなら防げるはずだ。
効果よりも持続を意識しつつ強化魔法を使い、ヨタヨタと森の中を歩き始めた。
「くしゅがほしゅう……」
頭ではしっかり発音したつもりだったが歯が生えてないと言葉はうまく発せられないようだ。
今のところ話す相手もいないので意思疎通の手段は追々考えるとして靴を作るために皮を手に入れなければならない。魔物の気配はある、戦うための魔力もある……そうなれば狩るしかないだろう。
慣れないバランスにふらつきながら、俺は魔物の気配を追って森の中を進み始めた。
推しの為なら死ねる。
この思いに微塵の迷いもなく……ないはずだった。実際に自分の死体も見たし、証拠隠滅とそれを燃やしたのも自分だ。それでも心のどこかに悔いを持っていたのかもしれない。
『ぼっちゃんが立派に成長した姿を見たい』
『ぼっちゃんが配信者トップにたつ姿を見たい』
『ぼっちゃんをずっと支えていきたい』
俺こそが……あなたの一番のファンであり続けたかった……。
さよならぼっちゃん、どうかご自身を責めないで。
さよなら俺のお日様、ずっとずっと……その姿を……見上げて……いた……った………………。
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体が重い……手に、指にすら思い通りに力が入らない。
ゆっくりと目を開いたが視界すらままならず、ぼんやりとした暗い空を寝転び眺めていた。
お腹が空いた……ここはどこだろう?あれからどれだけの時間が過ぎたのだろう?あれから……?俺は死んだはずではなかっただろうか?
「あ……あぁ……う……」
言葉すら自由に発せられないのか。
とりあえず立って人を探して状況の確認をしたい。自らの体に回復魔法をかけて……ん?何かがおかしい。
魔力を体に循環させて強化した腕を持ち上げて目の前に移動させた。
視力強化でクリアになった視界に見えたものは……。
小さくてぷにぷにと柔らかそうな手。
産まれてすぐ俺の指を握ってくれたぼっちゃんの小さなお手手を思い出して幸せが体の内から噴き出した。
親友であるマサカズとリナ。
マサカズがこの世界にやってきた時も、リナと出会った時も、魔王を倒した時も、二人の結婚式も離婚の危機も出産も常に側で見てきた。そんな二人の愛しい子供を俺が愛しく思わないわけもなく、ぼっちゃんは産まれたその瞬間に俺の【推し】になった。
人にはそれぞれ【神】がいる。それが【推し】。
この世界で誰よりも尊い存在である推しを推す事で、日々を明るく楽しく生きよう。
リナが広めた【推し活】という崇拝する推しを応援するために自らの生活を向上させようという宗教はあっという間に世界に浸透していった。
俺もぼっちゃんの像が欲しくて新たな土魔法を習得したり、ぼっちゃんがくれた野花たちすら枯らしたくなくてマサカズが使っていた時間停止、無制限のアイテムボックスを取得した。可愛いぼっちゃんの姿を映像に残しておきたくてリナと共同して【カメラ】という新たな魔導具の開発も成功した。
やっぱ推しってすげえよ。
……と、逸れてしまった思考を現実へ戻そう。
目の前にある現実、この小さな手はどうやら俺の物らしい。
グッパグッパと自分の意志で動く小さな手から考察すると……俺は転生したのか?
マサカズとリナの話に聞いた『異世界転生』だろう。マサカズとリナは『異世界転移』という現象でこの世界に別の世界からやってきたらしいが、俺は記憶の中で確実に死んだので『異世界転生』という物だろう。
全く知らない世界で別人として生まれ変わる『異世界転生』。
この小さな赤子の手がそれを物語っている。
魔法で無理やり上げた視力で周囲を確認してみると、自分がかなり特殊な状況に置かれているのがわかった。
寒空の下、赤子が布一枚に巻かれて森に置かれている……これは捨てられたとしか思えない状況。
人にはそれぞれ事情はあろうが、産んだ子を捨てるとは信じ難いな。俺は産まれてきたぼっちゃんの姿を神だと思ったからこそ余計に信じられない……よほど困窮している世界に生まれ変わってしまったのかもしれない。
勇者と聖女が現れる前は俺たちの世界も殺伐としていたからな。
さて……ここがどんな世界なのかはわからないけれど、魔力は感じるのでマサカズがやってきたという魔法の無い世界ではなさそうだ。俺が知っている魔物の気配も感じる……同じ世界に別人として転生したのかもしれない。
こうしてはいられない、転生するのにどれだけの時間が過ぎたのかわからないけれど同じ世界ならまたぼっちゃんと会える機会が与えられたということだ。こんなところでのたれ死んでる場合じゃない。ぼっちゃんに会いに行かなければ!!
幸いな事に魔力は死ぬ前と変わらぬようだ、赤子の身体ぐらい大したハンデではない。
母乳が貰えないなら魔力を吸えばいい。未発達で視力が弱いなら魔法で視力を強化すればいい。首や腰が座っていないなら魔法で強化し続ければいい。立て、歩け。推しの為に、推し活の為に……ぼっちゃん、ルーウェンがいま会いに参ります!!
頭が大きくてバランスが悪いながらもなんとか立ち上がることができた。
足りない筋力を強化魔法で補いつつ低い視界で周囲を見回してみるもどこまでも森が続いているだけだ。巻かれていた布はせめてもの慈悲か、赤ん坊の姿を隠して運ぶためだったのかはわからないが、ぼっちゃんの人形を作ろうとして覚えたクリエイト魔法でありがたく布を服に作り変えさせてもらった。布しかないので簡素な服だが魔力を存分に流したのでバングリオネルの爪ぐらいなら防げるはずだ。
効果よりも持続を意識しつつ強化魔法を使い、ヨタヨタと森の中を歩き始めた。
「くしゅがほしゅう……」
頭ではしっかり発音したつもりだったが歯が生えてないと言葉はうまく発せられないようだ。
今のところ話す相手もいないので意思疎通の手段は追々考えるとして靴を作るために皮を手に入れなければならない。魔物の気配はある、戦うための魔力もある……そうなれば狩るしかないだろう。
慣れないバランスにふらつきながら、俺は魔物の気配を追って森の中を進み始めた。
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