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第59話 逃亡準備
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時速50キロで移動中、一隻の貿易船が沈んだというニュースがビルの外壁の電光掲示板に流れているのを見た─
ある空き家。
ヘリコプターのプロペラの音と共に、その貿易船が沈みゆく光景が地上波で流されていた。
「我は今頃あの船に乗り込み、祖国に向かう筈であった。何故止めた?お主は、我の見張りでは無かったのか?」
「あたしは、報告した後、解雇されました。用済みだそうです。」
二度も女子高生ごときの同じ手に引っ掛かる様なポンコツですし。と言いながら、スーツケースの中に荷物を丁寧に詰めてゆく。
「最後にお願いがあるのです。いつも、あたしめが入れていたお茶を、華様に入れて頂きたいのです。」
「……良かろ。そういえば、今までお主に任せていたことばかりじゃった。不慣れだがやってみる。」
暫くして、あたしに助けを求めてきた元主人に、お茶の入れ方を教えてあげた。
「ライラが居なくては、我は何も出来ないのじゃ……」
「そんな事無いですよ。初めてにしては上出来です。」
そして、あたしは隠し持っていたアンプル管の先を割り開けた。その薬液を見えない様に、ティーカップに数滴落とした。目を伏せ、味わう様に、そして厳かに口をつけた。今、元主人はどんな表情をしているのだろう……
(─さようなら。)
自社の貿易船で、ラジアータ王の待つ国へ出港する筈だった。しかし、娘が捕まらず沈められた。予想通り、空港に高飛びする為やって来た私の愚かな両親。どの空港に来るかも、時間も行き先も把握されていた。
両親の前に数人の人が立ち塞がった。
「林夫妻で間違いないですか?所有されていた沈没船についてお聴きしたいのですが。」
警察手帳を見せた刑事さんに、無事確保して貰った。情報提供したのは、勿論、娘の私。其れが彼らを助ける唯一の方法だと思ったから。
密告する前、私は自宅マンションにアキヨシさんの車で送って貰った。案の定、不審な車が停まっていた。
私は梱包されて荷物になった。アキヨシさんの提案だ。車の収納スペースに置かれている道具類は、この為に用意されたのかと思う程都合が良かった。相変わらず、怪しい人だ。
サツキさんは、台車で運ぶ役を買って出た。エレベーターに乗り込むと、梱包をほどいて私を抱きしめた。
「娘を売るなんて、信じられない!今日は私の所へ泊まりに来なさい。」
サツキさんが、絶対来てという押しがあまりにも強かったので、大人しく甘えさせて貰うことにした。
(ミトと顔を合わせる事に、まだ抵抗があるんだけどな……)
もうここへは、住むことが出来なくなってしまった。
部屋に入り、最小限の荷物にまとめていく。
自作の防犯用の監視カメラドローンを、宅配用モードに切り替えた。ひとつひとつ愛着のあるこの子たちに、一箱くくりつけた。
「アークツルスもスピカもフォーマルハウトも、気付けて飛んでいって下さいね。落ち着いたら迎えに行きます。」
手を振ると、ゆっくりと地面を離れ飛んで行った。
目的地は小池博物館の森の中。折角だから、妖精さん誕生の窪地に降り立つ様に設定した。
その後、文化祭の劇の最中、ミトから渡された四つ折りにされたメモを見た。そこには、見覚えのある住所が書かれていた。
しかし、訪ねる人は、ポリーナさん……?
「ナンデ モット ハヤク コナカッタ」
ギリギリだぞ。と、片言で話すドレッドヘアーのその女性は、一瞬誰だか分からなかった。雫型のイヤリングが薄暗い部屋の中、紫がかった赤色に光っていた。
「成る程……貴方、情報屋さんだったのですね。」
「ソレダケジャ ナイガ」
「しかし、よく分かりましたね、私の父だと。」
「ハンブン オナジカオ シテル ワカル」
私が修学旅行から帰国してから2週間後の事。占い師の彼女は、軍事力に力をいれている国へと運び屋として出向いた。その港で私の父を見かけたという。そして、その時私に関する話を耳にしたらしい。その後、ミトと偶然再開した……
「ワタシノ ヤクワリ オワッタ。ダケド、オモシロソウ ダカラ シバラク コッチニ イル」
「英語だったら、私が通訳出来たんだけど。この子のは知らない言語だわ。」
と、ミネルヴァさんが頬に手を当てた。メモに書かれていた住所は、以前ミネルヴァさんがくれた口紅付きの名刺に書かれていたお店と一緒だった。
「ママがこの子の事すっかり気に入っちゃって、ここで働いて貰うことになったの。ポールダンスも出来るんですって。」
「ソレヨリ ミネルヴァ ニ キイテミタイコト アルハズダ」
「何で、そんなに勘が良いのですか?」
お前がそういう顔をしているからだと言った。そして彼女は情報の対価として、私がこれから体験する、未来の話が知りたいのだと言った─
私は、ミネルヴァさんに聞きたい事を耳打ちした。
「そうなの!お酒の席の話は基本信じないのだけれど。あまりにも気になっちゃって。本当はお客さんのお家にはお邪魔しちゃいけないんだけど。オコメちゃんという接点を利用して、訪問しちゃった。アキヨシの義娘を見に─」
後日、ミネルヴァさんにその話を詳しく聞かせて貰う事になった。
「狙われてるんでしょ?送っていくわよ!」
「大丈夫です。このスーツケース危機回避機能搭載なんです。」
と、スーツケースの上に座った。自動で目的地まで連れて行ってくれる。
今日は色々ありすぎて、神経が高ぶっているからか、外が全然寒くない。寧ろ気持ち良い程だった。
夜空の流星を眺めていたら、ふと、自分の足で歩きたくなった。……気づけば、生徒会に入ってからの日々を思い出していた。
(華会長、どうなったのでしょう……)
「ねえ、彼女。ミトの家とか止めてうちに来ない?」
と、バイク用のヘルメットを投げ渡された。
「ナンパの仕方が雑過ぎて、それじゃ誰も引っ掛かりませんよ?……ハズキ先輩。」
「引っ掛かったじゃん、林さんは。」
スーツケースの危機回避機能が作動しなかったのが不思議だ。
ある空き家。
ヘリコプターのプロペラの音と共に、その貿易船が沈みゆく光景が地上波で流されていた。
「我は今頃あの船に乗り込み、祖国に向かう筈であった。何故止めた?お主は、我の見張りでは無かったのか?」
「あたしは、報告した後、解雇されました。用済みだそうです。」
二度も女子高生ごときの同じ手に引っ掛かる様なポンコツですし。と言いながら、スーツケースの中に荷物を丁寧に詰めてゆく。
「最後にお願いがあるのです。いつも、あたしめが入れていたお茶を、華様に入れて頂きたいのです。」
「……良かろ。そういえば、今までお主に任せていたことばかりじゃった。不慣れだがやってみる。」
暫くして、あたしに助けを求めてきた元主人に、お茶の入れ方を教えてあげた。
「ライラが居なくては、我は何も出来ないのじゃ……」
「そんな事無いですよ。初めてにしては上出来です。」
そして、あたしは隠し持っていたアンプル管の先を割り開けた。その薬液を見えない様に、ティーカップに数滴落とした。目を伏せ、味わう様に、そして厳かに口をつけた。今、元主人はどんな表情をしているのだろう……
(─さようなら。)
自社の貿易船で、ラジアータ王の待つ国へ出港する筈だった。しかし、娘が捕まらず沈められた。予想通り、空港に高飛びする為やって来た私の愚かな両親。どの空港に来るかも、時間も行き先も把握されていた。
両親の前に数人の人が立ち塞がった。
「林夫妻で間違いないですか?所有されていた沈没船についてお聴きしたいのですが。」
警察手帳を見せた刑事さんに、無事確保して貰った。情報提供したのは、勿論、娘の私。其れが彼らを助ける唯一の方法だと思ったから。
密告する前、私は自宅マンションにアキヨシさんの車で送って貰った。案の定、不審な車が停まっていた。
私は梱包されて荷物になった。アキヨシさんの提案だ。車の収納スペースに置かれている道具類は、この為に用意されたのかと思う程都合が良かった。相変わらず、怪しい人だ。
サツキさんは、台車で運ぶ役を買って出た。エレベーターに乗り込むと、梱包をほどいて私を抱きしめた。
「娘を売るなんて、信じられない!今日は私の所へ泊まりに来なさい。」
サツキさんが、絶対来てという押しがあまりにも強かったので、大人しく甘えさせて貰うことにした。
(ミトと顔を合わせる事に、まだ抵抗があるんだけどな……)
もうここへは、住むことが出来なくなってしまった。
部屋に入り、最小限の荷物にまとめていく。
自作の防犯用の監視カメラドローンを、宅配用モードに切り替えた。ひとつひとつ愛着のあるこの子たちに、一箱くくりつけた。
「アークツルスもスピカもフォーマルハウトも、気付けて飛んでいって下さいね。落ち着いたら迎えに行きます。」
手を振ると、ゆっくりと地面を離れ飛んで行った。
目的地は小池博物館の森の中。折角だから、妖精さん誕生の窪地に降り立つ様に設定した。
その後、文化祭の劇の最中、ミトから渡された四つ折りにされたメモを見た。そこには、見覚えのある住所が書かれていた。
しかし、訪ねる人は、ポリーナさん……?
「ナンデ モット ハヤク コナカッタ」
ギリギリだぞ。と、片言で話すドレッドヘアーのその女性は、一瞬誰だか分からなかった。雫型のイヤリングが薄暗い部屋の中、紫がかった赤色に光っていた。
「成る程……貴方、情報屋さんだったのですね。」
「ソレダケジャ ナイガ」
「しかし、よく分かりましたね、私の父だと。」
「ハンブン オナジカオ シテル ワカル」
私が修学旅行から帰国してから2週間後の事。占い師の彼女は、軍事力に力をいれている国へと運び屋として出向いた。その港で私の父を見かけたという。そして、その時私に関する話を耳にしたらしい。その後、ミトと偶然再開した……
「ワタシノ ヤクワリ オワッタ。ダケド、オモシロソウ ダカラ シバラク コッチニ イル」
「英語だったら、私が通訳出来たんだけど。この子のは知らない言語だわ。」
と、ミネルヴァさんが頬に手を当てた。メモに書かれていた住所は、以前ミネルヴァさんがくれた口紅付きの名刺に書かれていたお店と一緒だった。
「ママがこの子の事すっかり気に入っちゃって、ここで働いて貰うことになったの。ポールダンスも出来るんですって。」
「ソレヨリ ミネルヴァ ニ キイテミタイコト アルハズダ」
「何で、そんなに勘が良いのですか?」
お前がそういう顔をしているからだと言った。そして彼女は情報の対価として、私がこれから体験する、未来の話が知りたいのだと言った─
私は、ミネルヴァさんに聞きたい事を耳打ちした。
「そうなの!お酒の席の話は基本信じないのだけれど。あまりにも気になっちゃって。本当はお客さんのお家にはお邪魔しちゃいけないんだけど。オコメちゃんという接点を利用して、訪問しちゃった。アキヨシの義娘を見に─」
後日、ミネルヴァさんにその話を詳しく聞かせて貰う事になった。
「狙われてるんでしょ?送っていくわよ!」
「大丈夫です。このスーツケース危機回避機能搭載なんです。」
と、スーツケースの上に座った。自動で目的地まで連れて行ってくれる。
今日は色々ありすぎて、神経が高ぶっているからか、外が全然寒くない。寧ろ気持ち良い程だった。
夜空の流星を眺めていたら、ふと、自分の足で歩きたくなった。……気づけば、生徒会に入ってからの日々を思い出していた。
(華会長、どうなったのでしょう……)
「ねえ、彼女。ミトの家とか止めてうちに来ない?」
と、バイク用のヘルメットを投げ渡された。
「ナンパの仕方が雑過ぎて、それじゃ誰も引っ掛かりませんよ?……ハズキ先輩。」
「引っ掛かったじゃん、林さんは。」
スーツケースの危機回避機能が作動しなかったのが不思議だ。
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