パソニフィ・コンフュージョン

沼蛙 ぽッチ & デブニ

文字の大きさ
66 / 68

第59話 逃亡準備

しおりを挟む
時速50キロで移動中、一隻の貿易船が沈んだというニュースがビルの外壁の電光掲示板に流れているのを見た─

ある空き家。
ヘリコプターのプロペラの音と共に、その貿易船が沈みゆく光景が地上波で流されていた。

「我は今頃あの船に乗り込み、祖国に向かう筈であった。何故止めた?お主は、我の見張りでは無かったのか?」
「あたしは、報告した後、解雇されました。用済みだそうです。」

二度も女子高生ごときの同じ手に引っ掛かる様なポンコツですし。と言いながら、スーツケースの中に荷物を丁寧に詰めてゆく。

「最後にお願いがあるのです。いつも、あたしめが入れていたお茶を、華様に入れて頂きたいのです。」
「……良かろ。そういえば、今までお主に任せていたことばかりじゃった。不慣れだがやってみる。」

暫くして、あたしに助けを求めてきた元主人に、お茶の入れ方を教えてあげた。

「ライラが居なくては、我は何も出来ないのじゃ……」
「そんな事無いですよ。初めてにしては上出来です。」

そして、あたしは隠し持っていたアンプル管の先を割り開けた。その薬液を見えない様に、ティーカップに数滴落とした。目を伏せ、味わう様に、そして厳かに口をつけた。今、元主人はどんな表情をしているのだろう……

(─さようなら。)

自社の貿易船で、ラジアータ王の待つ国へ出港する筈だった。しかし、娘が捕まらず沈められた。予想通り、空港に高飛びする為やって来た私の愚かな両親。どの空港に来るかも、時間も行き先も把握されていた。

両親の前に数人の人が立ち塞がった。

「林夫妻で間違いないですか?所有されていた沈没船についてお聴きしたいのですが。」

警察手帳を見せた刑事さんに、無事確保して貰った。情報提供したのは、勿論、娘の私。其れが彼らを助ける唯一の方法だと思ったから。

密告する前、私は自宅マンションにアキヨシさんの車で送って貰った。案の定、不審な車が停まっていた。

私は梱包されて荷物になった。アキヨシさんの提案だ。車の収納スペースに置かれている道具類は、この為に用意されたのかと思う程都合が良かった。相変わらず、怪しい人だ。

サツキさんは、台車で運ぶ役を買って出た。エレベーターに乗り込むと、梱包をほどいて私を抱きしめた。
「娘を売るなんて、信じられない!今日は私の所へ泊まりに来なさい。」
サツキさんが、絶対来てという押しがあまりにも強かったので、大人しく甘えさせて貰うことにした。
(ミトと顔を合わせる事に、まだ抵抗があるんだけどな……)

もうここへは、住むことが出来なくなってしまった。
部屋に入り、最小限の荷物にまとめていく。
自作の防犯用の監視カメラドローンを、宅配用モードに切り替えた。ひとつひとつ愛着のあるこの子たちに、一箱くくりつけた。

「アークツルスもスピカもフォーマルハウトも、気付けて飛んでいって下さいね。落ち着いたら迎えに行きます。」
手を振ると、ゆっくりと地面を離れ飛んで行った。
目的地は小池博物館の森の中。折角だから、妖精さん誕生の窪地に降り立つ様に設定した。

その後、文化祭の劇の最中、ミトから渡された四つ折りにされたメモを見た。そこには、見覚えのある住所が書かれていた。
しかし、訪ねる人は、ポリーナさん……?

「ナンデ モット ハヤク コナカッタ」
ギリギリだぞ。と、片言で話すドレッドヘアーのその女性は、一瞬誰だか分からなかった。雫型のイヤリングが薄暗い部屋の中、紫がかった赤色に光っていた。

「成る程……貴方、情報屋さんだったのですね。」
「ソレダケジャ ナイガ」
「しかし、よく分かりましたね、私の父だと。」
「ハンブン オナジカオ シテル ワカル」

私が修学旅行から帰国してから2週間後の事。占い師の彼女は、軍事力に力をいれている国へと運び屋として出向いた。その港で私の父を見かけたという。そして、その時私に関する話を耳にしたらしい。その後、ミトと偶然再開した……

「ワタシノ ヤクワリ オワッタ。ダケド、オモシロソウ ダカラ シバラク コッチニ イル」

「英語だったら、私が通訳出来たんだけど。この子のは知らない言語だわ。」
と、ミネルヴァさんが頬に手を当てた。メモに書かれていた住所は、以前ミネルヴァさんがくれた口紅付きの名刺に書かれていたお店と一緒だった。

「ママがこの子の事すっかり気に入っちゃって、ここで働いて貰うことになったの。ポールダンスも出来るんですって。」

「ソレヨリ ミネルヴァ ニ キイテミタイコト アルハズダ」
「何で、そんなに勘が良いのですか?」

お前がそういう顔をしているからだと言った。そして彼女は情報の対価として、私がこれから体験する、未来の話が知りたいのだと言った─

私は、ミネルヴァさんに聞きたい事を耳打ちした。
「そうなの!お酒の席の話は基本信じないのだけれど。あまりにも気になっちゃって。本当はお客さんのお家にはお邪魔しちゃいけないんだけど。オコメちゃんという接点を利用して、訪問しちゃった。アキヨシの義娘を見に─」

後日、ミネルヴァさんにその話を詳しく聞かせて貰う事になった。

「狙われてるんでしょ?送っていくわよ!」
「大丈夫です。このスーツケース危機回避機能搭載なんです。」
と、スーツケースの上に座った。自動で目的地まで連れて行ってくれる。

今日は色々ありすぎて、神経が高ぶっているからか、外が全然寒くない。寧ろ気持ち良い程だった。


夜空の流星を眺めていたら、ふと、自分の足で歩きたくなった。……気づけば、生徒会に入ってからの日々を思い出していた。
(華会長、どうなったのでしょう……)

「ねえ、彼女。ミトの家とか止めてうちに来ない?」
と、バイク用のヘルメットを投げ渡された。

「ナンパの仕方が雑過ぎて、それじゃ誰も引っ掛かりませんよ?……ハズキ先輩。」

「引っ掛かったじゃん、林さんは。」
スーツケースの危機回避機能が作動しなかったのが不思議だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...