パソニフィ・コンフュージョン

沼蛙 ぽッチ & デブニ

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第60話 姉妹の契り

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「何です?その、赤い首輪は。」
エナメル製のベルト状の赤いチョーカーは、まるで彼女の嫌がる束縛を体現する様なもので、身に付けている事に違和感を感じた。
「ああ……これは良いんだよ。」と、ミトは照れた様子で目をそらし、それにそっと手を触れた。

ノブ子は、いつもの様にアキヨシの送迎で学校へ行った。クラスは、ニュースになっている林さんの話題で持ちきりだった。だけど、誰も私に林さんについて聞いてくる人は居なかった。
(影が薄くてよかった。……林さんの逃避行、一緒に行きたかったな。)

学校で独り過ごすのは得意なんだ。だって、一人でいた所に皆が集まっていただけなんだから。だけど、休み時間、座席から動く事が出来なかった。行くところ行くところに、大切な人の気配が染み付いている気がした。
(今日は中庭にオコメさんも居ない……)

授業中、タブレットに教科書が映される。先生の声も画面の文章も頭に入らない。ノブ子は、机のフックに掛けた鞄を見た。取り付けられた、ミドリムシ型のキーホルダーを見て思う。
(林さんの夢って、一体何だったんだろう……)

鞄を見ているうちに、ふと、ミトさんに借りていた、少女漫画が鞄の中に入れっぱなしになっていることに気がついた─

「いらっしゃいませ。」あれ、ドアが開いた気がしたけれど。と、洋服屋の店長さんは思った。しかし、気のせいだったと直ぐに持ち場へと戻っていった。

外気が入ってくる気配を感じた。そんな、微かな空気の流れを辿り、ちょこちょこと小さな小学2年生のこの店のオーナーが、密かに来店した客の方へと赴いた。

「誰かと思ったら、イハルのミューズじゃない。何かお探し?」
「メグちゃん。妹へのプレゼントを探してるの。これ再現したい。」

少女漫画のワンシーンを開いて見せた。女学校の生徒同士が姉妹以上の仲になって、上級生の姉役から下級生の妹役へと赤いスカーフが贈られて、制服の胸元に結んであげている。そんなドラマが描かれていた。

「姉妹の契りを交わすのに必要なプレゼントなのね……」
「借りパクの漫画もそろそろ返したい。それと一緒に贈る赤い物。転校したからスカーフはあげられない。」
「其れなら、この艶やかな紅いチョーカーなんてどうかしら。素材もこだわって、本当に首の締まりそうな蛇の革。束縛、使役、独占……彼女が自分のお気に入りだと他の人にアピールできる。そんな重い自分の欲望を押し付けるなんて、まるで結婚指輪を渡すみたいに素敵でしょ?」
「……良いかも。これプレゼント包装してください─」

「ライラ!ライラ!」
アタシは元主人に抱きかかえられて死んでいく。元主人の淹れてくれたお茶を飲んで。最高の最後じゃないか。
「やっぱり、我の淹れたお茶が死ぬ程不味かったのじゃな。」
そんな的外れな事を聞いても、言葉を返す余裕は無い。息が苦しくて、目が霞む。だけど、最後に一言伝えたかった。
「アタシの名前……ライラじゃなくって、アイラです……」
「ライラはライラなのじゃ。しっかりせよ!」
アタシは身寄りの無い孤児なので、任務に当たるときは捨て駒に最適だった。失敗したときの為に飲む毒薬を持たされていた。後に、身元不明の骸が空き家で見つかるのだろうか。

「こんな時、器用な鼻がないのは不便じゃな……」

名前をずっと間違えているのは、使用人だし、名前なんて覚えなくても良い存在。そういう風に思ってるんでしょ。いつの間にか、アタシの方があなたを慕っていたというのに。

「しかし、擬人化によって器用な指を持てたのは良かった。よいか……突っ込むぞ。」
そして、喉の奥へと指を突っ込まれ、吐かされ咳き込んだ。

「ご、ごしゅじん、さま、のおみ足を汚し……」
「無理に喋るでない。次は、水を飲ますぞ。」
彼女の命令口調が心地よかった。長年染み付いた、従うという行為によって安心した。そして、瞼が段々と重くなっていった。

先輩のバイクは、自身の体の成長に合わせて以前より大きい機体のものになっていた。走行中、大声を張らなくて良い様に、イヤフォンマイクを通して会話した。

「妖精さん、放課後フクロウカフェでアルバイトしてるそうじゃないですか。」
「そうみたいだね。妹分に贈るプレゼントの為だとか……義母はノブ子の事気に入ってるから喜んでた。天然同士気が合うのかもね。それはそうと、林さんうちにこない?」
「貴方は……妖精さんには会わないんですか?」
「会わないよ。またお互いに依存し合うだけだし……だから、代わりに林さんうちにこない?」

「本当は会いたいくせに……」

「ちなみに、林さんが手を回してる所、性感帯だからあんまり触らないでよ。」
「へ、変な所にあるんですね!危うく手を放して落ちそうになりました!」
妖精さんの話を、意図的にそらされたのだった。

「……ちゃんと送り届けるよ。林さんを生徒会に率いれたのは俺だから。責任とるから、うちにこない?」
「最近、データ収集を怠っていた私が悪いのです。華会長のこと……内戦で新しい国が出来ていた事も知らなかった。」
「林さんって、前より人の温かさが出てきたよね。優しー、うちにこない?」
「………何ですか、さっきから枕ことばの様な誘い文句は。呪われてるんですか?」

「本当に呪いだよね、この発情期の口癖。だから、みっともなくて人に会えない。それに林さんの事、全然タイプじゃないからね。ずっと思ってた……顔がAIロボットみたいに整ってて怖いって。」
「その様に容姿を褒められるなんて、思いもしませんでした。今のは少しグッときました。」

その時、背中に背負っていたキャリーバッグから危機を知らせるアラームが鳴った。いつの間にか並走していた車はこのバイクの転倒を狙っている様だった。

「……がっちり掴まって!これから少し衝撃がある。舌噛まない様に歯を食いしばってて!」
急斜面へと軌道をそらしたと思ったら、バイクが空中に投げ出された。そして、下層の道路へと着地した。

「気持ちいいー!!ああー癖になりそう!!つり橋効果で俺に惚れた?ねえ、惚れた?やっぱり、うちくる?」
バックミラーに映された金色の瞳は、アドレナリンがドバドバと出ているのか瞳孔が大きく開いていた。

「つっ─信じられない!!」
漸く声が絞り出せた。やっぱりこんな危険な奴との交際は絶対に認めません!

─だって私は、ノブ子の保護者なんですから!!
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