もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち

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シンのはなし ー逃げる

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 宿の部屋には買ったドレスや帽子、メイク道具、装飾品が所狭しと並んでいた。いつのまにこんなに買い込んだのだろう。明日には王都に向かおうと思いカバンに衣類を詰める。しかし大量に買い込んでしまって入りきれない。入りきれない物は宿に置いていくしかなかった。

「処分して貰える?」
 翌日の朝、宿を出る時に従業員に後を頼む事を伝えた。
「残されると困るので今から古着屋に売ってきたらいかがですか?」
「今から出発なの」
「今から古着屋に来て貰って査定して貰えるようにも出来ますが…」
「時間がないわ…」
「そうですか。では、売れたお金は返金は出来ませんのでご了承を。では支払い金額を少しおまけ致しますね」
「…ありがとう」
 刺繍教室で得たお金でずいぶんな高級宿に宿泊していた。いい宿に泊まってショッピングを楽しんでいた。結局残ったお金は最初にユグンに来た頃と変わらない金額になっていた。

 ドレスや装飾品なんて買わなければよかった。おまけするって言っていたけどたったの銀貨1枚だったし、あれをすべて売れば金貨5枚にはなっていたはず、時間があれば売る事も出来たのに…ニナ、あの女が今すぐ消えろなんて言うからなんだか恐ろしくなって…

 支払いを終えるとシンは宿の受付の裏にあるメイクルームに入る。ユグンに入ってきたばかりの頃のように男装した。帽子を深く被り、大きめのコートを着てマフラーで顔を隠した。個室から誰もいない事を確認して男性用のルームから出て来たかように振舞った。
 そして、王都に向かう駅馬車に向かう。シンは自然と歩みが早くなる。

 気のせいだ。誰も自分の事など噂をしていない。もっとゆっくりしてもよかったかもしれない。アリアナの仇を打とうなんてそんな人いるわけない。
 


 シンは駅馬車に乗り込み出発を待った。すでに王都に向かう数人の旅人がいた。女性もいる事に安堵した。丁度女性子供が乗れる駅馬車であったらしい。しばらくすると駅馬車は王都に向けて出発した。
 そして王都に向かう数人の旅人がなにやら噂話を始めた。

「おい、知っているか?ユグンに処刑されたシンフォニー・クローリーが現れたとよぉ」
「シンフォニー・クローリー?」
「ほら、コバック男爵の姪のアリアナ様を追放したとか言う」
「ああ、あの今世紀最大の悪女と名高いシンフォニー・クローリーか!え?死んでいるんだろう?」
「それが生きていたとさ。モグリベルの王様に泣きついたんだろう。女の武器を使って落としたか」
「なんせ、悪女だからな」
 と、ふたりで笑い合っている。そこへ、違う旅人が混ざった。

「それでか、なんか今朝街中が物々しいかったぞ?」
「何?どういうことだ?」
「なんでも十数人の男が業務ギルドと宿に乗り込んだって話だ。捕まえてコバック男爵に差し出そうとしたのかもしれん」
「ひぇ、こわっ!」
「しかし、その時はもう業務ギルドは女と取引を中止しているし、宿ではもう引き払われてた後だったってわけさ」
「じゃあ、どこに行ったんだよ」
「分からん、宿を見張っていた奴もいたらしいんだが、昨日宿に戻ってから朝まで宿から出てきてなかったそうだぞ」
「なんだよ、それオカルトか?」
「でも確かにチェックアウトしてからメイクルームに入って行く所まで確認しているらしいんだ。メイクルームの窓から逃げたんじゃないかって話だけどな」
「うわ、さすが悪女!アグレッシブだな」
 などと、噂されていた。


 すぐに王都に向かって正解だったのだ。もしかしたらニナはこうなる事を予測していたのかもしれない。宿の従業員は時間稼ぎをしていた気がする。派手なドレスで出発しなくてよかった。最後までお気に入りのピンクのコートを着ていこうか手放すか悩んでいたのだ。

 それにしてもあの男、いったい何者なのか私の姿を見たことがあるなんて。あの男は王都まで私を追いかけてくるつもりなのだろうか。

シンは駅馬車の中で小さくため息を吐いた。
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