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ふたりの王子 ー帰郷

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 いきなり現れた謎の男にベルナルは人気ひとけのない通路まで連れて来られた。黙って従ったのは「陛下の命により」と言う言葉を聞いたからだった。

 ベルナルは幼少時代は城で王族教育なるものに順次していた。陛下と王妃の間には長らく子が誕生していなかったため、いずれは王位になる事を言われていた。それは同じ年のコルクスも同じだが、ベルナルの父は次男である事から次の王位は自然とベルナルにという流れになっていた。
 しかし、王妃に王子が誕生しその地位は落ちた。それでも男児は弱く死亡する確率が高い事があるので王子が5歳になるまではベルナルが第一王位継承者だった。王子が無事に5歳になったとき第一王位継承権は王子に移った。
 ベルナルにとっては特に気にすることではなかったが、周りの大人が気にした。今までベルナルに注いだ一流の教育係はすべて王子に取られ、ベルナルは隅に追いやられた。それはやはりコルクスも同じだった。
 幼心にベルナルとコルクスは大人の変貌に傷ついたのだ。特にベルナルは幼い頃に刻まれた王の言葉は絶対服従の洗脳はまだ解かれていない。王には逆らえないのだと刻まれている。


「申し訳ございません。ベルナル様、ご無礼を致しました」
 謎の男はベルナルに頭を下げた。
「いや、よい。あの場を収めてくれて助かった。本当の話なんだろうな?」
「陛下に聞いて頂いても」
「わかった」
「私はずっとシンフォニーの後を追ってこの街まで来ました。何かあっても助ける事はありません。ただ生末いくすえを見守るだけの役割です」
「これからどうするのだ」
「これからも見張りを続けます」
「もうバレてしまっただろう?」
「私の顔はひとつではありません」
「そんな優秀な隠密をあの女に取られるのは無駄じゃないか?」
「近い内に王都に向かうでしょう。王都に到着すればシシリアキングスの王都に潜伏している隠密と交代します」
「そうか、名は?」
「ジグと申します」
「王都の方は?」
「サクです」
「俺は第一王位継承者だ。後を継ぐ。これから世話になるぞ」
 ジグは深く頭を下げ暗闇に消えていった。


 しばらくするとコルクスが現れた。
「おい、ベルナル。どういう事だ。教室終わりにジグとか言う男からベルナルからの伝言とか言われてここに来たんだが」
「いや…さっきお前の教室を見に行こうとして寄ったんだが…」
「ああ、来ていたのか」

「ああ、そしたらそこにシンフォニー・クローリーがいた」
「は?あのシンフォニー・クローリーが?処刑されたんだろう?」
「確認はまだだが、陛下が逃がしたようだ」
「そのシンフォニー・クローリーっていうのは間違いないのか?」
「間違いない」
 ベルナルは忘れない。当番制で控えていた自分たちのグループにアリアナを魔の森に追放するように命令をしたのはシンフォニーだった事を、あの美しい顔をした悪魔のような笑みを忘れない。

「お前はシンという女を知っているか?」
「シン?ああ、あのすこぶる美人の…ってシン先生か。え!?あれがシンフォニー・クローリー?」
「そうだ」
「どうりで現実離れをした美人だと思ったよ。シシリアキングスと合併したどこかの生き残りの王族じゃないかって、もっぱらの噂だったんだが。俺は金持ち貴族の愛人だと思っていたけどな。なんか底知れぬ計算高さが見えていたんだよな。やばい美人だなって」
「はあ、悔しいがあの女の事はもういい。陛下が放流した。今回の件で安住の地などないと思わせられただろう」
「しかし結構な人気だったぜ。あっという間に取り巻きを作って女王様みたいだったもんな。まあそっか、女王様として生まれてきてたんだっけ?」
「それはアリアナ嬢、しかも王妃な」
「そう言えば、ギルドの中が騒がしかったな。もしかしてベルナルが素性をバラしたんじゃないだろうな」
 ハハ、と笑うコルクスにベルナルは黙った。
「え…マジか…ああ~あ、やはりその件でギルドが騒いてたのか。嫌な奴だな、お前。せっかく知らない土地で快適に暮らしていたのに一瞬で壊しちゃうんだもんな。人気のシン先生をぶち壊したんだろう?」

「笑いながら言うなよ。頭に血が沸いた。そんなつもりはなかったが思わず取り押さえていた。俺は遠めでしたかシンフォニー・クローリーを見てなかったがあんな美人を忘れないだろう?しかもアリアナ嬢を魔の森に追放するように助言したのはあの女だぜ?キレイな顔してゾッとしたよ」

「咄嗟に命令されて、おばあ様から預かっていた麻袋をよく渡せたな」
「ユリウスと婚約が決まったときから、いつ渡そうかと荷物に入れていたんだ。かさ張るもんでもなかったし、でも俺は底辺の兵士だったからな。王子の婚約者様と話をする機会なんてそうそうないだろう?」
「あの女、これからどうするんだろう?」
「王都に向かうだろうな」
「追うのか?」
「追わないよ。国に帰る」
「ああ、お前はおばあ様の秘密の家の事も忘れて国の事に専念しろ」
「…お前逃げ切れると思っているんだろう?お前にも協力してもらうからな」
「ええ~」
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