もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち

文字の大きさ
71 / 139

第45話

しおりを挟む
 リアは門の外まで走った。まだ買い出しの途中だったと言うのに好奇心に負けて近づいたのが悪かった。あの麻袋を見られてしまった。兎に角、後を付けられてはいないようだ。

 街へはしばらく行けないようだ。叔父さんのいる王都に行くことはモジャに頼めばすぐにも出来る。だからいつ行くとかあまり考えていなかった。リアはまた見つかる事も考えて、もうシシリーには戻らずに、モジャに次の街まで転移して貰おうと考えた。移動するのは買い出しが終わってからのつもりだったが仕方がない。

 魔の森という所は実は各所に無数に存在している。魔の森を避けて街を造っているので街はジグザグに構成させている。シシリーの次の街アンバーの近くにも魔の森が存在し、モジャは転移した。
 魔の森に囲まれている為人通りはない。あまり人がいないと不審がられるが今回は買い出しがメインなので見られても気にしなかった。

 転移した先にはハゲ山が見える。どうやら鉱山跡のようだった。シシリーからアンバーは頑張れば2日ほどで着く距離だ。アンバーからモダンまでが少々掛かる。


「ヨモはもうお店をオープンさせたかな?何かお土産買って行こうかな」

 アンバーの街に着いたリアは、もう先ほどの危機感なんぞ忘れて王都のヨモが気になった。アンバーの街はシシリーと比べると治安が悪そうだった。あまりキレイにしていない人が朝から飲んだくれていたり、女性も品がないように感じられた。アンバーは鉱山の街ということで昔から素通りされる。アンバーは昔から人気がない。ユグンは王都に近いから需要があり、シシリーは玄関だ。
 あまりフラフラと細い路地裏や店以外の道を歩くのは危険だと感じとったリアは食料の買い出しをして、さっさと森に帰ろうとした。


 食料や羊皮紙などユグンか王都に直に行って買えばよかったのだが、一応街がどんな所なのかを把握しようと思ったのだ。しかし、アンバーは見る所もないし食べ物もあまり美味しそうなものはなかった。

 アンバーと言えばあのタルとかいう、商人ギルドの元職員が強制連行されたと聞いた所だが元気だろうか。無事にアンバーで祖母の世話をしていてくれる事を願う。と、ぼんやり思っていたら若い女性と目が合った。目が合った瞬間にその女性からロックオンされたようで、リアに向かって来る。

 それはタルだった。気が付いた時には、時すでに遅く、回れ右をして回避しようとしたリアは呼び止められた。
「そんなにあからさまに無視しなくてもいいでしょう?」
 捕まってしまった。
「え?あら、私?」
「あんたしかいないでしょう。あんたのせいでシシリーに住めなくなったのよ」
「私のせいではないけど…」
「もう怒ってないわよ。逃げる事ないじゃない」
「怒るのは私の方に権利があるのでは…」
「時間あるんでしょう?ちょっと付き合いなさいよ、ここには女友達もいなくて話す人がいないのよ」
 タルはどうやら人の話を聞かないらしい。
「いえ、私は…」
「奢るわよ。そこの喫茶に行きましょう。鉱山の男はコーヒー好きだからコーヒーしかないけど」
 コーヒーがあるのかと、コーヒーに釣られつい誘いに乗ってしまった。

「マスター、コーヒー2つ、ミルクと砂糖つけてね」
「珍しいな、友達なんか連れて」
 店の店主と顔見知りらしい。

「シシリーにいた頃の友人よ。ねぇー」
 友人ではない。
「あ~いい香り、私紅茶よりコーヒーの香りの方が落ち着くし好きなのよね。あんたコーヒーなんて知らないでしょ?」
「え、ええ」
 確かにこの世界では知らない。しかし、香ばしい香りは確かに落ち着くいい香りだ。タルは長い髪を上で1本で縛っている。色白で薄いブラウンの髪と瞳をしていた。よく見ると美人だ。

「こっちに来たときは友達もいないし、お店も少ないから不満だったんだけど、祖母がもう年だからって、父から面倒を見てくれって頼まれちゃって。ほら、私って頼まれちゃうと断れない性格でしょう。仕方ないなって」
 知らん。

「まあ、おばあちゃんが死んだら戻ってきていいっていう話だったし、最後まで面倒を見たらおばあちゃんの遺産は全部私にくれるって話だからそれもいっかなって。それで寒い冬を乗り越えてたんだけどぉ、うふふ」
 なんだ急に気持ち悪い。
「私、王子様に出会っちゃったの、うふふふふ」
 へぇ、イケメンでも見つけたのだろうか。

「ただのイケメンじゃないのよ。本当にキラキラしてるの。なんか瞳から星がこぼれてくる感じなのよ」
 ん?
「へぇ、どんな王子様なの?興味あるわね」
 思ってもない事を言ってみる。

「でしょう。でも本当の王子様ではないのよ。うふ」
「うふふ」いいからはよ話せ。タルは勿体付けてなかなか話そうとしない。

「彼はねぇ白銀の長い髪をなびかせていてね、ゴールドの瞳なの」
 あの坊ちゃんに似ている。
「背もすらりと高くて取り巻きを何人も連れていたけど、場違いなのは否めないわね。だって魔獣の中に白馬がいるようなものよ。そして彼の瞳は本当に不思議でまさに夜空に輝く星のようなのよぉ」
 タルは思い出しているのか、明後日の方向を見ながら話をしている。

「なんでその白馬がアンバーに?」
「分からないわ。私が見たのはまさにここの店で見たの。たまに祖母の介護から解放されてここでコーヒーに癒されていたら、鉱山の方から白馬様が現れたの」
 白馬様になっている。

「名前は知らないの?」
「知らないわよ。鉱山の方から来たから視察とかじゃない。彼はきっと貴族よ。しかも上級貴族。私なんか愛人にもしてくれないわ」
 正解。
「本当に素敵だったのよぉ」
「なにしてたの?」
「なんか買い物していたわ。羽振りが良さそうだったけど、物珍しさから街を歩いてたんじゃないの」
「なるほど」
「いいわね。あんた見たいなキレイな水色の巻き毛だったら私だってもっと華やかだったのに。やっぱり適正属性は水属性になるの?」
「え?えっと…」
 そういえば、まだ検査していない。

「まだ分かんないくらい若かったの?教会で適正受ければ分かるわよ」
「ありがとう。行ってくるわ」
「私なんて土属性よ。火とか風の方が華やかぽくない?」
「そんな事ないと思うけど…」
「はぁ、家に戻って夕食の準備しないと、私結婚出来るのかしらぁ」
 タルとはあんな感じになってしまったけど、今ではちゃんと祖母の面倒を見ているようだ。
「介護なんてそう簡単に出来ることじゃないわ。あなたがしている事は誇らしい事だと思うわよ。おばあさんをきちんと見送ったら、それを誰かが見ているわ。素敵なご縁があるわよ。そんなよくわからない白馬の王子様じゃなくてね」
「…まあ、そうね。ありがと」

 タルと別れ森に向かう。なぜだか分からないがアンバーにユリウスがいるようだ。出くわす事はないと思うがタルの事もあるのでそうそうにアンバーから離れる事にする。

 ユリウスは王位継承権を剥奪され追放されたと聞いた。まぁ王妃様はユリウスに甘かったから自分の実家にでも避難させていると思っていたがなぜかアンバーにいる。でも私には関係ない事だ。ユグンに向かおう。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

【完結】遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

処理中です...