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ふたりの王子 ー疑惑

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「ちょっと!あんたたち女の子の家に行こうとか、ふざけんるんじゃないよ!うちの店でナンパはやめとくれ!」
 店のおかみがベルナルとコルクスに向かって叫んだ。
 
「いや、俺たちはそんな…」
「いいから、どきな!」
 おかみがベルナルの腕を引っ張り、絡まれている女の子を通した。おかみはその子に向かって言った。
「ごめんよ。私が声を掛けたばかりに、変な男に目を付けられちまったようだね。買い出しは今度にして帰りな」
「ありがとう。おかみさん」
 ふたりの男に絡まれていた女の子は礼を言いそのまま店を出て走っていった。

「あ、ちょっと!」
 コルクスはまだその子を引き留めようとした。
「あんたたちはまだ出るんじゃないよ!あの子の後を付けようたって、そんな事はさせないよ。いい年の男が年端としはも行かないような女のケツを追いかけるなんて、そんな恰好の悪い事するんじゃないよ!街の兵士を呼んできてもいいんだよ!」

「俺たちはそんな…」
「だまりな!しばらくそこへ立ってな!」
 大きな体のおかみは出入口に立ち、ふたりを外に出さないようにした。




「さぁ、もういいだろう。悪さするんじゃないよ!」
 ふたりはたっぷりと10分ほど店に閉じ込められ、やっと解放された。
「誤解ですよ」
「若い女の子を通せんぼしていたのは誰だい!」
「はい、すいません」

 店から出ると当然さっきの女の子はいない。
「はあ、参ったな…」
「飛んだ誤解だ。俺は魔法円に詳しいのかと思って、会話をしていただけなのにさ。なんかベルナルが変な方向に持っていったよな」
「いや、違う。それこそ誤解だ。なぜ兵士と思ったのかと聞いただけだ。それに新品のカバンに麻袋…あの麻袋には身に覚えがある」
「麻袋なんてどれも一緒だろう?」
「ばあちゃんから預かった麻袋には口の内側に赤い糸の飾りが付いていた。麻袋にわざわざ飾りなんかしないだろう。しかもちょっと値の張る赤い糸だ」
「同じものっていうのか?」
「俺はあの麻袋を10年以上持っていたんだぞ」
「あの子がなぜ持っている」
「知るかよ。拾ったとか…それか本人から貰った…」
「まあそんなとこだろう、かたまたまか」
「だからその話が聞きたかったのに…」
「じゃあ、探そうぜ」
「いいのか?家族の元に帰るんだろう?」
「もちろん帰るよ。謎が解けたらな。魔法円関連なら商人ギルドだろう。身分を明かしたら話が聞けるかもしれないぜ」
「そうだな、行こう」





 ふたりは商人ギルドにやって来た。そしてヴァナを見せる。
「魔術部、部長のギルです。よろしく」
 ヴァナを見せられた職員はすぐに魔術部のギルを呼んだ。
「忙しい所すまない。時間は取らせない」
「モグリベルの王子がお供も連れずにどうかしましたか」
 ギルは貴族相手でもあまり態度を変えない。眉間に皺を寄せ迷惑である事を隠さなかった。
「人探しだ」
「去年の秋ごろに言われていた。ピンクの髪の…なんとか」
「アリアナ・カビラ」
「そうそう、その方ですか?」
「いや、違う。えっと、魔法円を生業にしている女の子で水色の巻き毛をしているんだ。この商人ギルドで取引をしていないかな?」
 ここはコミュニケーション力の高いコルクスに任せる。

「…その方がどうか?」
「…知っていそうだな。まぁだから身分を明かした。王子という権限を元にその女の子の事を知りたい」
 ベルナルが言う。
「本来こういう事は許される行為ではありませんが、権力を盾にしてくるのでしたら従わなければなりません」
「悪いね」
「何を知りたいのです?」
「すべてだ」
「アバウトですね」
「名は?」
「リア、というお名前です」
「住んでいる所は?」
「森の住人のようです」
「森?どこの?西のノーズ町か東のウース町か?いや、しかし家は近いと言っていたな」
「そこまでは…」
「住んでいる所を知らないのか?」
「知る必要はありませんが…」
 ギルの眉間に皺が深くなる。
「しかし、なんらかの用があった時はどうするつもりだ?」
「なんの用事もありませんよ。魔法円を作成する事はノルマではありません。みんな好きに作ってお金に換えるだけです。稼ぎたければ毎日作り、そうでなければその日暮らしになるだけです」
「それはそうかもしれないが…両親は?」
「さぁ?」
「真面目に話をしているのだが」
「いち個人の事など気にしていては仕事ができませんよ」
「まだ名前しか分かっていないじゃないか…はあ、まだ若そうだったがいつからこの商人ギルドで取引を始めたのだ」
「去年の秋くらいですかね」
「去年の秋から?」
「ええ」
「彼女は魔法円が苦手なようだったが大体どのくらいで取引をしていた?」
「苦手?なぜそう思われたのですか?」
「え?いや羊皮紙を冬の間、何度も大量に購入していたと聞いたからだけど…」
 ベルナルとコルクスが交互に質問をする。

「そうですか。まぁ知らない方から見たらそう見えるのかもしませんね」
「何の事だ?」
「守秘義務がありますが、王族には関係ありませんからね…他国のですが…」
「何を言っている?」
「モグリベルの王族ですしね…」
「だから何だ」
「リアさんが取り込まれるという事はさすがにないですかね…」
「だから何を言っているのだ!」
「いえ、ですからね。スノーシリーズを発明したのは彼女なんですよ」
「「は?」」
 ふたりの声が重なる。

「どういった経緯でリアさんの事を聞き出したいのか知りませんが、彼女は天才ですかね。お若いのに優秀です。この先もたくさんの便利で安い魔法円を作ってもらいたいですね」

「おいおい、うそだろう。まさかあんな何の特徴もない子がか?」
「見た目は関係ないでしょう」
「いや、そうだが…」

「じょあ、たくさんの羊皮紙は自分で使っていたと?」
「ええ、毎回百単位でお持ちくださいます」
「そのリアと連絡は取れないのか?」
「取れません」
「じゃあ、親しい人は?」
「職員にひとり、家に招待されたり招待したりの関係性の女性がいましたよ」
「おお、呼んできてくれ、ん?いました?」
「はい、彼女は春前に王都に旅立ちました」
「王都に!」
「はい」
「王都から帰ってきたというのに…」
「おや、入れ違いですね」
「リアさんも王都に行くと言っていました。昨日魔法円を納品されまして別れの挨拶をわざわざしてくれたのです。優秀な人材が王都に行ってしまうのは残念です」
「王都に?」
「ええ、親族がいるとかで。友人も行ってしまったからと…」
「親族?」
「はい、確か叔父さんがいるとかで、連絡を春まで待っていたようです。それで春先に連絡が来て王都に会いに行くそうですよ」
「…」

「ちなみにそのリア嬢の容姿だが、水色の髪に灰色の瞳で地味な感じの子で間違えないだろうか?」
「髪色は水色で、瞳は灰色で間違いないですよ。地味ではありますが灰色の瞳は珍しかったですし、始めて来た時は黒のショールを頭に巻いていましたからちょっと可哀そうだなっと」
「…」
「黒ではなく赤とか黄色とかね、そんな明るい色なら女の子らしいというか、まぁ見た目は取引と関係ないですがね。しばらくして黒のショールを外されて巻き毛の水色の髪でいらした時は安心しました」
「安心?」
「いえ、女の子らしいなと思っただけです。余計なお世話ですね」

「黒のショールか…」
 商人ギルドを後にしたふたりはなんらかの関係があるのではないかと結論を出した。

「偶然にしては整っているな」
「俺は王都に行くよ。コルクスは家に戻れ」
「はあ、今更気になるだろう。家族には待っててもらう。俺も王都に戻るよ。行くんだろう?」
「ああ、コバック男爵の所へ」
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