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彼女は恋を知る1
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【──かつてこの世界には『獣族』と『人族』の二つの種族が存在していた。この二種族は我ら『獣人』の祖先だ。
『獣族』は人族より遥かに高い身体能力を持ち、動物を従えたとされる。
『人族』は身体能力は低いものの、独自の言語を操り、魔法と呼ばれる力を扱ったとされている。
我ら獣人はその二種族が多くの災害を経て交わり、生まれた種族だ。よってそれぞれの種族の特徴を併せ持つ。
容姿は人族に酷似しているが、人族にはない獣の耳や尾、牙や爪を持つ。
身体能力は人族より優れ、獣族では扱えなかった言語を扱える。だが、代わりに魔法や動物を従える能力は失ったとされる。
しかし、まれに二種族の特徴を持つ子供が生まれることがある。それが『人族返り』『獣族返り』と呼ばれる病だ。
この病は先天性のもので、それぞれ特徴が別れる。
『人族返り』は容姿、身体能力は人族そのものだが、代わりに魔法を扱える。
『獣族返り』は容姿こそ獣人と変わりないが、言葉を話すことができない。だが、代わりに獣人とは比べものにならない強い力を持つ。
我が国ベスティアではこの病は獣人からの退化とされ、差別の一因になっている。だが、他国ではこの病は逆に重宝されているという。我が国でもこの偏見がなくなり、一日も早くこの病を持つ者たちが生きやすくなるべきだろう。
私はこれから他国を周り、より詳しく病や歴史について調べようと思う。
……この本を読んだ者の意識が少しでも変わることを願っている。
獣人・歴史研究家 ザヴァン】
夢中で本を読んでいたルースレアはふと顔を上げた。
形のいい頭から生える分厚い犬耳がピクリと動く。それに合わせて、彼女の明るい茶色の髪が軽く揺れた。
毛先だけ白い髪を撫で、彼女は目の前にある丸テーブルに本を置く。そして、本と入れ替わりに手に取った小さなベルを、チリンと一度鳴らした。
すると、静かに部屋の扉が開かれ、一人の男性が中に入ってきた。ルースレアと同じ髪色を持つ兄のクロウだ。
「また本を読んでいたのか?」
どこか呆れたような声色に、ルースレアは小さく苦笑いを浮かべて頷いた。
「まったく、ルースレアは本当に本が好きだな。……前に座ってもいいか?」
また頷いて返事をする。それを見たクロウが前の席にドカリと腰を下ろし、テーブルに置かれた本に視線を移した。タイトルを読んだらしい兄の眉間に皺が寄る。
「ルースレア。もっと楽しそうな本を読んだらどうだ」
ルースレアは生まれつき『獣族返り』を患っていた。それを家族は気遣ってくれていている。だからか、クロウはあまりそれに関連した本を読むなと言ってくることも多い。
今読んでいた本はまだいいが、中には差別的な本も沢山あるからだろう。たしかに傷つくような内容も多いが、もしかしたら病を治すような記述があるかもしれない。そんな希望を抱いてついつい手を伸ばしてしまうのだ。
残念ながら今のところ見つけることはできていないのだが。
「……そういえば、昨日はお見合いだったろ? どうだったんだ?」
お見合い、の言葉にズーンと気分が落ちる。ルースレアは今、十九歳。適齢期から少々遅れ気味だった。ここベスティア国では王族により各種族の長が選ばれ統治を任せられている。ルースレアはその中の犬族を統治する領主の娘である。
適齢期になってから、同じ犬族の中でも地位のある男性とのお見合いを沢山重ねてきた。
古くから続く血統の家、犬族屈指の商家の息子……などなど。だが、結局どれもうまくはいかなかった。
領主の娘であるルースレアにはっきりと告げる者は流石にいなかったが、原因は明らかに『獣族返り』だった。根強くある病への偏見はお見合いに大きな影響を及ぼしている。
めぼしい所との見合いは昨日で終わってしまい、こうなってしまっては他種族とお見合いするしかないだろう。
だが、それはもっと厳しい。そもそも病がなくても他種族との結婚は難しいとされているのだ。その理由は生まれてくる子供の種族にある。他種族同士の場合、両親のどちらかの種族が生まれるのだが、圧倒的に母親の種族が生まれることが多い。
嫁ぐということはその種族に入るということ。やはり、父親と同じ種族の子供が望まれる。だから、他種族の結婚は上手くいかないことの方が圧倒的に多いのだ。
加えてルースレアは『獣族返り』。そこまで考えて、彼女は上手くいかない現実に大きなため息をついた。
『獣族』は人族より遥かに高い身体能力を持ち、動物を従えたとされる。
『人族』は身体能力は低いものの、独自の言語を操り、魔法と呼ばれる力を扱ったとされている。
我ら獣人はその二種族が多くの災害を経て交わり、生まれた種族だ。よってそれぞれの種族の特徴を併せ持つ。
容姿は人族に酷似しているが、人族にはない獣の耳や尾、牙や爪を持つ。
身体能力は人族より優れ、獣族では扱えなかった言語を扱える。だが、代わりに魔法や動物を従える能力は失ったとされる。
しかし、まれに二種族の特徴を持つ子供が生まれることがある。それが『人族返り』『獣族返り』と呼ばれる病だ。
この病は先天性のもので、それぞれ特徴が別れる。
『人族返り』は容姿、身体能力は人族そのものだが、代わりに魔法を扱える。
『獣族返り』は容姿こそ獣人と変わりないが、言葉を話すことができない。だが、代わりに獣人とは比べものにならない強い力を持つ。
我が国ベスティアではこの病は獣人からの退化とされ、差別の一因になっている。だが、他国ではこの病は逆に重宝されているという。我が国でもこの偏見がなくなり、一日も早くこの病を持つ者たちが生きやすくなるべきだろう。
私はこれから他国を周り、より詳しく病や歴史について調べようと思う。
……この本を読んだ者の意識が少しでも変わることを願っている。
獣人・歴史研究家 ザヴァン】
夢中で本を読んでいたルースレアはふと顔を上げた。
形のいい頭から生える分厚い犬耳がピクリと動く。それに合わせて、彼女の明るい茶色の髪が軽く揺れた。
毛先だけ白い髪を撫で、彼女は目の前にある丸テーブルに本を置く。そして、本と入れ替わりに手に取った小さなベルを、チリンと一度鳴らした。
すると、静かに部屋の扉が開かれ、一人の男性が中に入ってきた。ルースレアと同じ髪色を持つ兄のクロウだ。
「また本を読んでいたのか?」
どこか呆れたような声色に、ルースレアは小さく苦笑いを浮かべて頷いた。
「まったく、ルースレアは本当に本が好きだな。……前に座ってもいいか?」
また頷いて返事をする。それを見たクロウが前の席にドカリと腰を下ろし、テーブルに置かれた本に視線を移した。タイトルを読んだらしい兄の眉間に皺が寄る。
「ルースレア。もっと楽しそうな本を読んだらどうだ」
ルースレアは生まれつき『獣族返り』を患っていた。それを家族は気遣ってくれていている。だからか、クロウはあまりそれに関連した本を読むなと言ってくることも多い。
今読んでいた本はまだいいが、中には差別的な本も沢山あるからだろう。たしかに傷つくような内容も多いが、もしかしたら病を治すような記述があるかもしれない。そんな希望を抱いてついつい手を伸ばしてしまうのだ。
残念ながら今のところ見つけることはできていないのだが。
「……そういえば、昨日はお見合いだったろ? どうだったんだ?」
お見合い、の言葉にズーンと気分が落ちる。ルースレアは今、十九歳。適齢期から少々遅れ気味だった。ここベスティア国では王族により各種族の長が選ばれ統治を任せられている。ルースレアはその中の犬族を統治する領主の娘である。
適齢期になってから、同じ犬族の中でも地位のある男性とのお見合いを沢山重ねてきた。
古くから続く血統の家、犬族屈指の商家の息子……などなど。だが、結局どれもうまくはいかなかった。
領主の娘であるルースレアにはっきりと告げる者は流石にいなかったが、原因は明らかに『獣族返り』だった。根強くある病への偏見はお見合いに大きな影響を及ぼしている。
めぼしい所との見合いは昨日で終わってしまい、こうなってしまっては他種族とお見合いするしかないだろう。
だが、それはもっと厳しい。そもそも病がなくても他種族との結婚は難しいとされているのだ。その理由は生まれてくる子供の種族にある。他種族同士の場合、両親のどちらかの種族が生まれるのだが、圧倒的に母親の種族が生まれることが多い。
嫁ぐということはその種族に入るということ。やはり、父親と同じ種族の子供が望まれる。だから、他種族の結婚は上手くいかないことの方が圧倒的に多いのだ。
加えてルースレアは『獣族返り』。そこまで考えて、彼女は上手くいかない現実に大きなため息をついた。
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