獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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彼女は恋を知る4

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 翌日、ルースレアは屋敷の書庫を訪れていた。ここには本好きの彼女のために集められたいろいろな書物が保存されている。
 本のタイトルを一つ一つじっくり眺めながら、気になった物を手に取っていく。今探しているのは猫族に関するものだ。
 お見合いは近々セッティングされるようなので、それまでに相手の種族について調べておこうと考えた。
 数冊手に持って、ルースレアは書庫を後にする。頭を下げる使用人たちに微笑みを返しながら、自室に帰るといつものように窓際の丸テーブルに本を置いた。椅子に腰掛け、さっそく持ってきた本を一冊手に取る。

「……」

 ルースレアが本のページを捲る音だけが、部屋の中に響く。
 犬族は家族愛が強く、種族同士の結束も強い。だが本を読む限り、猫族は気まぐれで自由を好む種族らしい。既婚者でも別に気にせず遊び回ったりする者も多いと書かれていて、ルースレアはごくりとつばを飲み込んだ。
 自分を放置して夫が猫族の女性と遊ぶ姿を想像しショックを受けて、彼女の耳と尻尾が力なく垂れる。価値観が違いすぎる。
 不安な気持ちが溢れてくるが、まだお見合い相手がそうだと決まったわけではない、と無理やり嫌な想像を振り払い、次の本を手に取る。
 今度の本は違ったことが書かれていて面白い。珍しい毛色があるだの、瞳の色が違う者は幸福をもたらすとされて人気だの、そういった内容だった。
 そうして夢中になって本を読み進めていると、いつの間にか夕方になっていた。窓から差し込む夕日にルースレアは目を細める。
 もうじき夕食の時間だ。喉も乾いてきたことだし、少々早いが本を片付けがてらダイニングルームへ向かうことにした。
 読み終わった本を手に取って、部屋を出るとタイミングよく廊下の奥からミューラがやってきた。

「読み終わったのですか?」

 コクリと頷く。すると、ミューラはルースレアの手から本を取り上げた。自分で片付けると手を差し出すが、侍女は微笑むだけで返してはくれない。

「わたくしがお持ちいたします。さあ、参りましょう」

 さっさと歩いていってしまう侍女に、小さく息を吐いてルースレアは後を追いかける。
 本を戻し二人がダイニングルームへ向かうと、すでにクロウが席についていた。ルースレアもミューラが引いてくれた椅子に腰を下ろす。

「ルースレア様、喉が乾いておりますでしょう? すぐに紅茶をご用意いたしますね」

 そう言ってミューラが去って行く。それを見送って兄の方を見ると、クロウもこちらを見ていて目があった。いつもはしていないメガネを掛けていたので、先ほどまで仕事をしていたのだろう。
 お見合いのことをまたうるさく言われるかと身構えたが、予想に反してクロウが話したのは関係のないことだった。

「またずっと本を読んでいたのか。いつも思うが、飲み物ぐらい用意して読んだらどうだ」
『本が濡れたら嫌なんです。貴重な書物もありますし……』
「ふむ……。お前は本を読むとき、部屋に一人で閉じこもってしまうから、ミューラが暇そうだぞ」
『……お兄様だって、お仕事のときは部屋から執事を追い出すではありませんか』
「俺は飲み物くらいは飲む」

 ふふん、となぜか誇らしげな兄にルースレアは小さく笑う。お見合い相手の男性ともこんなふうに話せるといいな、と頭の片隅で思っているとミューラが紅茶を持ってきてくれた。
 熱い紅茶を軽く冷まして喉を潤す。
 また兄と話を再開していると、やがて両親がやってきて食事が始まった。家族皆で食べる食事の時間は楽しくて好きだ。
 大好きなお肉を尻尾を振りながらご機嫌に口に運んでいると、ふと父が話を振ってきた。

「さっそく見合いの話を進めてきた。向こうも予定を開けてくれていたから、来週には見合いの場をセッテイングできるそうだ。場所は猫族の領地に一番近い犬族の街だ」
「ごふっ!」
「汚いですよ、クロウ」

 父の話に肉を詰まらせたらしいクロウがうめき声を上げる。それを見たアリアがすかさず突っ込むが兄はそれどころではないらしく、飲みかけのワインで肉を流し込んで勢いよく話に割り込んできた。

「見合いってどういうことですか! 私は聞いていませんよ!」
「お前の見合いじゃないからいいだろ」
「よくありません! 私のかわいい妹の見合いですよ!」
「お前は面倒なやつだな、いつまでたっても」

 呆れた様子のアルフレットはワインを煽って、何事もないかのように食事を再開する。クロウのシスコンぶりは今更なので、両親は気にもとめていない。
 ルースレアは父に食って掛かるクロウを見て納得した。先ほど見合いの話がなかったのは単純に話を聞いていなかったからなのだと。
 それにしても喚き散らす兄をそろそろ宥めたほうがいいだろうかと思っていると、母がすかさず声をかけてきた。

「アレは放っておきなさい」
「そうですよ、ルースレア様。あのご様子では当日は相当揉めると思いますから」

 ミューラにも言われ、ルースレアは口を挟むのを止める。たしかに当日は騒がしそうだ。
 喚く兄と相手にしない父の攻防を眺めながら、ルースレアは大好きなお肉を口に運んだのだった。
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