4 / 54
彼女は恋を知る4
しおりを挟む
翌日、ルースレアは屋敷の書庫を訪れていた。ここには本好きの彼女のために集められたいろいろな書物が保存されている。
本のタイトルを一つ一つじっくり眺めながら、気になった物を手に取っていく。今探しているのは猫族に関するものだ。
お見合いは近々セッティングされるようなので、それまでに相手の種族について調べておこうと考えた。
数冊手に持って、ルースレアは書庫を後にする。頭を下げる使用人たちに微笑みを返しながら、自室に帰るといつものように窓際の丸テーブルに本を置いた。椅子に腰掛け、さっそく持ってきた本を一冊手に取る。
「……」
ルースレアが本のページを捲る音だけが、部屋の中に響く。
犬族は家族愛が強く、種族同士の結束も強い。だが本を読む限り、猫族は気まぐれで自由を好む種族らしい。既婚者でも別に気にせず遊び回ったりする者も多いと書かれていて、ルースレアはごくりと唾を飲み込んだ。
自分を放置して夫が猫族の女性と遊ぶ姿を想像しショックを受けて、彼女の耳と尻尾が力なく垂れる。価値観が違いすぎる。
不安な気持ちが溢れてくるが、まだお見合い相手がそうだと決まったわけではない、と無理やり嫌な想像を振り払い、次の本を手に取る。
今度の本は違ったことが書かれていて面白い。珍しい毛色があるだの、瞳の色が違う者は幸福をもたらすとされて人気だの、そういった内容だった。
そうして夢中になって本を読み進めていると、いつの間にか夕方になっていた。窓から差し込む夕日にルースレアは目を細める。
もうじき夕食の時間だ。喉も乾いてきたことだし、少々早いが本を片付けがてらダイニングルームへ向かうことにした。
読み終わった本を手に取って、部屋を出るとタイミングよく廊下の奥からミューラがやってきた。
「読み終わったのですか?」
コクリと頷く。すると、ミューラはルースレアの手から本を取り上げた。自分で片付けると手を差し出すが、侍女は微笑むだけで返してはくれない。
「わたくしがお持ちいたします。さあ、参りましょう」
さっさと歩いていってしまう侍女に、小さく息を吐いてルースレアは後を追いかける。
本を戻し二人がダイニングルームへ向かうと、すでにクロウが席についていた。ルースレアもミューラが引いてくれた椅子に腰を下ろす。
「ルースレア様、喉が乾いておりますでしょう? すぐに紅茶をご用意いたしますね」
そう言ってミューラが去って行く。それを見送って兄の方を見ると、クロウもこちらを見ていて目があった。いつもはしていないメガネを掛けていたので、先ほどまで仕事をしていたのだろう。
お見合いのことをまたうるさく言われるかと身構えたが、予想に反してクロウが話したのは関係のないことだった。
「またずっと本を読んでいたのか。いつも思うが、飲み物ぐらい用意して読んだらどうだ」
『本が濡れたら嫌なんです。貴重な書物もありますし……』
「ふむ……。お前は本を読むとき、部屋に一人で閉じこもってしまうから、ミューラが暇そうだぞ」
『……お兄様だって、お仕事のときは部屋から執事を追い出すではありませんか』
「俺は飲み物くらいは飲む」
ふふん、となぜか誇らしげな兄にルースレアは小さく笑う。お見合い相手の男性ともこんなふうに話せるといいな、と頭の片隅で思っているとミューラが紅茶を持ってきてくれた。
熱い紅茶を軽く冷まして喉を潤す。
また兄と話を再開していると、やがて両親がやってきて食事が始まった。家族皆で食べる食事の時間は楽しくて好きだ。
大好きなお肉を尻尾を振りながらご機嫌に口に運んでいると、ふと父が話を振ってきた。
「さっそく見合いの話を進めてきた。向こうも予定を開けてくれていたから、来週には見合いの場をセッテイングできるそうだ。場所は猫族の領地に一番近い犬族の街だ」
「ごふっ!」
「汚いですよ、クロウ」
父の話に肉を詰まらせたらしいクロウがうめき声を上げる。それを見たアリアがすかさず突っ込むが兄はそれどころではないらしく、飲みかけのワインで肉を流し込んで勢いよく話に割り込んできた。
「見合いってどういうことですか! 私は聞いていませんよ!」
「お前の見合いじゃないからいいだろ」
「よくありません! 私のかわいい妹の見合いですよ!」
「お前は面倒なやつだな、いつまでたっても」
呆れた様子のアルフレットはワインを煽って、何事もないかのように食事を再開する。クロウのシスコンぶりは今更なので、両親は気にもとめていない。
ルースレアは父に食って掛かるクロウを見て納得した。先ほど見合いの話がなかったのは単純に話を聞いていなかったからなのだと。
それにしても喚き散らす兄をそろそろ宥めたほうがいいだろうかと思っていると、母がすかさず声をかけてきた。
「アレは放っておきなさい」
「そうですよ、ルースレア様。あのご様子では当日は相当揉めると思いますから」
ミューラにも言われ、ルースレアは口を挟むのを止める。たしかに当日は騒がしそうだ。
喚く兄と相手にしない父の攻防を眺めながら、ルースレアは大好きなお肉を口に運んだのだった。
本のタイトルを一つ一つじっくり眺めながら、気になった物を手に取っていく。今探しているのは猫族に関するものだ。
お見合いは近々セッティングされるようなので、それまでに相手の種族について調べておこうと考えた。
数冊手に持って、ルースレアは書庫を後にする。頭を下げる使用人たちに微笑みを返しながら、自室に帰るといつものように窓際の丸テーブルに本を置いた。椅子に腰掛け、さっそく持ってきた本を一冊手に取る。
「……」
ルースレアが本のページを捲る音だけが、部屋の中に響く。
犬族は家族愛が強く、種族同士の結束も強い。だが本を読む限り、猫族は気まぐれで自由を好む種族らしい。既婚者でも別に気にせず遊び回ったりする者も多いと書かれていて、ルースレアはごくりと唾を飲み込んだ。
自分を放置して夫が猫族の女性と遊ぶ姿を想像しショックを受けて、彼女の耳と尻尾が力なく垂れる。価値観が違いすぎる。
不安な気持ちが溢れてくるが、まだお見合い相手がそうだと決まったわけではない、と無理やり嫌な想像を振り払い、次の本を手に取る。
今度の本は違ったことが書かれていて面白い。珍しい毛色があるだの、瞳の色が違う者は幸福をもたらすとされて人気だの、そういった内容だった。
そうして夢中になって本を読み進めていると、いつの間にか夕方になっていた。窓から差し込む夕日にルースレアは目を細める。
もうじき夕食の時間だ。喉も乾いてきたことだし、少々早いが本を片付けがてらダイニングルームへ向かうことにした。
読み終わった本を手に取って、部屋を出るとタイミングよく廊下の奥からミューラがやってきた。
「読み終わったのですか?」
コクリと頷く。すると、ミューラはルースレアの手から本を取り上げた。自分で片付けると手を差し出すが、侍女は微笑むだけで返してはくれない。
「わたくしがお持ちいたします。さあ、参りましょう」
さっさと歩いていってしまう侍女に、小さく息を吐いてルースレアは後を追いかける。
本を戻し二人がダイニングルームへ向かうと、すでにクロウが席についていた。ルースレアもミューラが引いてくれた椅子に腰を下ろす。
「ルースレア様、喉が乾いておりますでしょう? すぐに紅茶をご用意いたしますね」
そう言ってミューラが去って行く。それを見送って兄の方を見ると、クロウもこちらを見ていて目があった。いつもはしていないメガネを掛けていたので、先ほどまで仕事をしていたのだろう。
お見合いのことをまたうるさく言われるかと身構えたが、予想に反してクロウが話したのは関係のないことだった。
「またずっと本を読んでいたのか。いつも思うが、飲み物ぐらい用意して読んだらどうだ」
『本が濡れたら嫌なんです。貴重な書物もありますし……』
「ふむ……。お前は本を読むとき、部屋に一人で閉じこもってしまうから、ミューラが暇そうだぞ」
『……お兄様だって、お仕事のときは部屋から執事を追い出すではありませんか』
「俺は飲み物くらいは飲む」
ふふん、となぜか誇らしげな兄にルースレアは小さく笑う。お見合い相手の男性ともこんなふうに話せるといいな、と頭の片隅で思っているとミューラが紅茶を持ってきてくれた。
熱い紅茶を軽く冷まして喉を潤す。
また兄と話を再開していると、やがて両親がやってきて食事が始まった。家族皆で食べる食事の時間は楽しくて好きだ。
大好きなお肉を尻尾を振りながらご機嫌に口に運んでいると、ふと父が話を振ってきた。
「さっそく見合いの話を進めてきた。向こうも予定を開けてくれていたから、来週には見合いの場をセッテイングできるそうだ。場所は猫族の領地に一番近い犬族の街だ」
「ごふっ!」
「汚いですよ、クロウ」
父の話に肉を詰まらせたらしいクロウがうめき声を上げる。それを見たアリアがすかさず突っ込むが兄はそれどころではないらしく、飲みかけのワインで肉を流し込んで勢いよく話に割り込んできた。
「見合いってどういうことですか! 私は聞いていませんよ!」
「お前の見合いじゃないからいいだろ」
「よくありません! 私のかわいい妹の見合いですよ!」
「お前は面倒なやつだな、いつまでたっても」
呆れた様子のアルフレットはワインを煽って、何事もないかのように食事を再開する。クロウのシスコンぶりは今更なので、両親は気にもとめていない。
ルースレアは父に食って掛かるクロウを見て納得した。先ほど見合いの話がなかったのは単純に話を聞いていなかったからなのだと。
それにしても喚き散らす兄をそろそろ宥めたほうがいいだろうかと思っていると、母がすかさず声をかけてきた。
「アレは放っておきなさい」
「そうですよ、ルースレア様。あのご様子では当日は相当揉めると思いますから」
ミューラにも言われ、ルースレアは口を挟むのを止める。たしかに当日は騒がしそうだ。
喚く兄と相手にしない父の攻防を眺めながら、ルースレアは大好きなお肉を口に運んだのだった。
7
あなたにおすすめの小説
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?
22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。
獣人族の彼にマタタビを渡したところ、キャラが崩壊しました。
piyo
恋愛
人間族のルル・クーガーは文化祭の景品でマタタビを手に入れる。使い所が無いそれを、同じクラスの獣人族グエン・イエルが偶然にも摂取してしまい、その後のイエルの態度が急変する。
ええと、あなたは本当にあのイエル君ですか?
獣人族の彼が、好きな子にニャンニャンする話です。
※他サイトにも投稿
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる