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彼女は恋を知る3
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「――猫族とのお見合い、ですか?」
ルースレアの代わりにそう問いかけたのはミューラだった。
夕食後、ルースレアは両親に呼び出され、猫族とのお見合いの話を聞かされたのだ。向かいの席に座る父のアルフレットが侍女の問いかけに頷いて、口を開く。
「猫族の領主の息子だ。あいつの息子っていうのが引っかかるが、社交界では優秀だとよく話に聞くから大丈夫だろう」
アルフレットと猫族の領主……ネイアスは社交界デビューのときからの腐れ縁だと、母のアリアから聞いたことがある。父は認めていないらしいが親友のような間柄らしいので、今回の話が持ち上がったのだろう。そう思ったのだが、どうやら他にも理由があるらしく、アルフレットは説明を始めた。
「今回のお見合いには国王陛下の政策が関わっている。お前は社交界には顔を出さないから、詳しくは知らないか?」
アルフレットの言葉にコクリと頷く。ルースレアは社交界デビューのときに一度顔を出しただけで、それ以降は社交界から遠ざかっている。
そこで自分の病についての差別をまざまざと思い知った。あのときの苦い記憶をルースレアは頭を軽く振って追い出し、今度は国王ハムズの政策の話を思い出す。
たしか、自分のような病の者や異種族同士の交流を改善させる、というような話だったと思う。だが、その詳しい内容は知らない。
「ふむ……。今、陛下は他国のように開けた国造りを目指している。そのために『獣族返り』や『人族返り』の差別を無くし、その能力を活かせるように政策を進めている。それと同時に他種族同士の交流ももっと深めたいとも考えていらっしゃる。……ここまではいいか?」
頷いて見せると、アルフレットは一度紅茶で喉を潤してから話を続ける。
「陛下は最近、その政策を第二王子のルナシーク殿下に一任された。今回の見合いの話はそのルナシーク殿下から提案されたものだ」
領主の娘で差別の対象となっている『獣族返り』。しかも、領地内のお見合いは失敗している。
ルナシークはそんなルースレアの立場を利用してハムズ国王の政策を進めたいらしい。
「地位のある者をモデルケースにして、国内を開いていきたいとのご意向だ。今のところ、お前以外は病をもつ領主の血縁はいない。……だが、お前が嫌だというのなら断るから安心しなさい」
父の言葉にルースレアは顔を伏せた。
王族からの提案は命令と同じだ。自分たちに断ることはできない。それでもこの父は娘のためなら逆らってでも断るだろう。
今まで自分は領主の娘としての仕事なんてほとんどしていない。家族もこの屋敷の使用人たちもとても優しい。だからこそ、役に立てることがあるのなら……
ルースレアは深く息をして、すっと顔を上げた。
話を承諾すると伝えるために彼女は耳をピンと立て、真っ直ぐに父を見つめ、しっかりと頷いて見せた。
「……分かった。では、この話は進めておく」
ルースレアの意思は伝わったようだ。落ち込んだ様子でアルフレットはそう言った。耳を垂らして悲しそうな父を見て、今まで黙っていた母のアリアが口を開く。
「大丈夫ですよ。ルースレアならどこに出しても恥ずかしくない娘なんですから」
「それは、もちろんそうだが……」
「それに相手はあなたもよく知ってる猫族。しかも、婚約ではなくお見合いなんですから、思いつめ過ぎですわ」
「うう……」
優雅な仕草で紅茶を口に運ぶアリアの言葉に、アルフレットがどんどん小さくなっていく。ルースレアはそのやり取りを見ながら、兄のクロウは父に似たんだな、などと呑気に考えていた。
「ミューラ。今回もあなたを同行させます。頼みますね」
「はい。お任せください、奥様」
「ルースレア、いつものお見合いと変わらないから安心しなさい」
優しげな笑みと共に言われた言葉にルースレアは深く頷いた。
初めての異種族とのお見合い。それに、王族が関わっている。緊張することばかりだが、ミューラが一緒ならきっと大丈夫だ。
そっと信頼している侍女に視線を移すと、彼女はしっかりと頷いてくれた。
それに安心したルースレアは談笑を始めた両親の話へ意識を向ける。
「当日は張り切って準備しないといけませんわね」
「ほ、ほどほどでいいんじゃないか?」
「あら、あなたはルースレアが恥をかいてもいいと仰るのですか?」
「そうじゃない! ……そうじゃないが……」
複雑そうな表情の父とは反対に、母はにこにことした笑みを浮かべている。この表情のときの母は、面白がっている。アリアの尻尾がアルフレットの見えないところで、楽しそうに揺れているのを見て、ルースレアは苦笑いを浮かべた。
いつまでも仲のいいのは構わないのだが、こうなるといつも自分のことは忘れられてしまうから困ったものだ。ルースレアは小さくため息をついて、ミューラに助けを求めた。
「旦那様、奥様、ルースレア様はそろそろお部屋に戻りたいようです」
「あら、そう。分かったわ。おやすみなさい、ルースレア」
切り上げてくれたミューラに感謝しつつ、ルースレアはようやく部屋へと戻れたのだった。
ルースレアの代わりにそう問いかけたのはミューラだった。
夕食後、ルースレアは両親に呼び出され、猫族とのお見合いの話を聞かされたのだ。向かいの席に座る父のアルフレットが侍女の問いかけに頷いて、口を開く。
「猫族の領主の息子だ。あいつの息子っていうのが引っかかるが、社交界では優秀だとよく話に聞くから大丈夫だろう」
アルフレットと猫族の領主……ネイアスは社交界デビューのときからの腐れ縁だと、母のアリアから聞いたことがある。父は認めていないらしいが親友のような間柄らしいので、今回の話が持ち上がったのだろう。そう思ったのだが、どうやら他にも理由があるらしく、アルフレットは説明を始めた。
「今回のお見合いには国王陛下の政策が関わっている。お前は社交界には顔を出さないから、詳しくは知らないか?」
アルフレットの言葉にコクリと頷く。ルースレアは社交界デビューのときに一度顔を出しただけで、それ以降は社交界から遠ざかっている。
そこで自分の病についての差別をまざまざと思い知った。あのときの苦い記憶をルースレアは頭を軽く振って追い出し、今度は国王ハムズの政策の話を思い出す。
たしか、自分のような病の者や異種族同士の交流を改善させる、というような話だったと思う。だが、その詳しい内容は知らない。
「ふむ……。今、陛下は他国のように開けた国造りを目指している。そのために『獣族返り』や『人族返り』の差別を無くし、その能力を活かせるように政策を進めている。それと同時に他種族同士の交流ももっと深めたいとも考えていらっしゃる。……ここまではいいか?」
頷いて見せると、アルフレットは一度紅茶で喉を潤してから話を続ける。
「陛下は最近、その政策を第二王子のルナシーク殿下に一任された。今回の見合いの話はそのルナシーク殿下から提案されたものだ」
領主の娘で差別の対象となっている『獣族返り』。しかも、領地内のお見合いは失敗している。
ルナシークはそんなルースレアの立場を利用してハムズ国王の政策を進めたいらしい。
「地位のある者をモデルケースにして、国内を開いていきたいとのご意向だ。今のところ、お前以外は病をもつ領主の血縁はいない。……だが、お前が嫌だというのなら断るから安心しなさい」
父の言葉にルースレアは顔を伏せた。
王族からの提案は命令と同じだ。自分たちに断ることはできない。それでもこの父は娘のためなら逆らってでも断るだろう。
今まで自分は領主の娘としての仕事なんてほとんどしていない。家族もこの屋敷の使用人たちもとても優しい。だからこそ、役に立てることがあるのなら……
ルースレアは深く息をして、すっと顔を上げた。
話を承諾すると伝えるために彼女は耳をピンと立て、真っ直ぐに父を見つめ、しっかりと頷いて見せた。
「……分かった。では、この話は進めておく」
ルースレアの意思は伝わったようだ。落ち込んだ様子でアルフレットはそう言った。耳を垂らして悲しそうな父を見て、今まで黙っていた母のアリアが口を開く。
「大丈夫ですよ。ルースレアならどこに出しても恥ずかしくない娘なんですから」
「それは、もちろんそうだが……」
「それに相手はあなたもよく知ってる猫族。しかも、婚約ではなくお見合いなんですから、思いつめ過ぎですわ」
「うう……」
優雅な仕草で紅茶を口に運ぶアリアの言葉に、アルフレットがどんどん小さくなっていく。ルースレアはそのやり取りを見ながら、兄のクロウは父に似たんだな、などと呑気に考えていた。
「ミューラ。今回もあなたを同行させます。頼みますね」
「はい。お任せください、奥様」
「ルースレア、いつものお見合いと変わらないから安心しなさい」
優しげな笑みと共に言われた言葉にルースレアは深く頷いた。
初めての異種族とのお見合い。それに、王族が関わっている。緊張することばかりだが、ミューラが一緒ならきっと大丈夫だ。
そっと信頼している侍女に視線を移すと、彼女はしっかりと頷いてくれた。
それに安心したルースレアは談笑を始めた両親の話へ意識を向ける。
「当日は張り切って準備しないといけませんわね」
「ほ、ほどほどでいいんじゃないか?」
「あら、あなたはルースレアが恥をかいてもいいと仰るのですか?」
「そうじゃない! ……そうじゃないが……」
複雑そうな表情の父とは反対に、母はにこにことした笑みを浮かべている。この表情のときの母は、面白がっている。アリアの尻尾がアルフレットの見えないところで、楽しそうに揺れているのを見て、ルースレアは苦笑いを浮かべた。
いつまでも仲のいいのは構わないのだが、こうなるといつも自分のことは忘れられてしまうから困ったものだ。ルースレアは小さくため息をついて、ミューラに助けを求めた。
「旦那様、奥様、ルースレア様はそろそろお部屋に戻りたいようです」
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