獣人たちは恋を知り愛を育む

月椿

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結婚式3

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 リングピローの上で二つの指輪が光を反射して輝いている。

「手を出して」

 そっと左手を差し出しすとシアンが小ぶりな方の指輪を手に取り、ゆっくりとルースレアの薬指へと通していく。
 ぴったりと収まった指輪に胸が幸せな気持ちで満たされ、自然と笑みがこぼれた。

「僕にもお願いね……」

 今度はシアンが左手を差し出した。
 少し震える手で彼の手袋をすりと外し、残った指輪を手に取る。薬指にゆっくりとはめると、彼が嬉しそうに微笑む。

「ふふ……とても、いい気分だね」

 言葉に同意するように頷く。
 自分と彼の指にはまる指輪が眩しいくらいに輝いて見えた。

「さあ、あと少しだよ」

 ゆっくりと家族の方を向き二人で左手を掲げると、一斉に拍手と祝福の言葉が送られる。
 そして祝福の中、シアンとルースレアは幸せそうに微笑み合いながら退場したのだった。


          ◇


 結婚式が無事に執り行われ、シアンとともに屋敷へとやってきたのは日が暮れてからだった。
 ネイアスとダリアから本日よりシアンが領主の地位を継ぐ説明を事前に受けている。それに伴い義両親たちは別邸へと引っ越したらしい。
 広い屋敷に足を踏み入れると、ずらりと並んでいた使用人たちが一斉に頭を下げた。

「この度はご結婚おめでとうございます」

 きっちり揃った言葉に少し驚きながらも、ルースレアはおっとりとした笑みを浮かべる。
 隣に立つシアンは軽く手を上げて応えていた。

「部屋の準備は?」
「と、整っております」

 主人の問いかけに答えたのはメイリーだ。

「ご苦労様。メイリーとフラン、ミューラ以外はもう下がっていい」

 ルースレアの侍女たちを残し使用人たちは深く頭を下げて、自分の仕事に戻っていった。

「……メイリーは部屋へ案内を。フランは軽食をお願い。ミューラは一緒に来て」
「は、はい」
「承知いたしました。ご用意でき次第お持ちいたします」
「かしこまりました」

 シアンの指示に素早く返事をしてそれぞれが動き出す。
 メイリーに案内された部屋は質のいい調度品でまとめられおり、落ち着いた雰囲気だ。

「こ、こちらが奥さまの部屋になります」
「うん、指示通りだね。どう? 気に入ったかな?」

 何度も頷いて肯定を示す。それから中を見てまわる。
 自分の屋敷から持ってきた荷物はすでに片付けられており、衣装部屋には何着かドレスがかかっていた。

「旦那様、軽食をお持ちしました」
「ん。……お腹すいたでしょう、少し食べよう」

 フランが持ってきた軽食のいい匂いがルースレアの鼻を掠め、思わず尻尾をぶんぶんと振る。丁度お腹が空いていたところだ。
 シアンと向き合って食事を済ませると、彼はゆっくりと立ち上がった。

「それじゃあ、また後で……」

 ルースレアの手を取りちゅっと指輪に口づけを落としたシアンが部屋を後にする。
 予想外のことに固まっているとミューラが近づいてきた。

「さあ、準備をなさいましょう」
「お風呂に参りましょうか」
「つ、爪の先までピカピカにしましょう!」

 気合の入った侍女たちにあっという間に連れて行かれ、爪の先まで綺麗に磨かれる。
 さらに湯上がりにいい香りのする香油を肌に丁寧に塗り込まれ、髪や耳、尻尾にいたるまでいつも以上に念入りに手入れされた。

「お肌もつるつる、毛並みも完璧。文句無しの出来栄えになりましたわね、ミューラ」
「ええ、フラン。メイリーの用意してくれた寝間着も品があっていいですね」
「あ、ありがとうございます」

 いつの間に仲良くなったのか、三人の侍女は主人の出来栄えに満足そうに頷きあっている。
 ルースレアはなんとも言えない恥ずかしさに、ゆるゆると尻尾を振ることしかできない。

「さあ、ルースレア様。こちらの扉からシアン様のところへ向かってください」

 部屋にいくつかある扉の一つを指さしてミューラが言う。
 どうやら夫婦の寝室に繋がっているようだ。
 ルースレアはごくりと唾を飲み込み、侍女たちに見送られながらそっと扉を開いて中に入る。

「……ん?」

 仕事でもしていたのかベッドの上で書類を見ていたシアンが顔を上げた。
 美しいオッドアイと目が合い思わず固まっていると、彼が立ち上がって近づいてくる。

「……緊張してるの?」

 目の前まできたシアンの言葉に頷く。

「僕も、緊張してるんだよ」

 そっと手を取られ引き寄せられる。手のひらがシアンの胸に触れ、力強く早い鼓動が伝わってきた。

「ね?」

 彼も自分と同じ。そう思ったら少しだけ緊張が解れる。
 そのまま手を引かれ、二人はベッドに腰かけた。

「ルースレア」

 ふと静かな声で名前を呼ばれる。思わず顔を上げると近くにシアンの顔があった。彼の手がそっと頬に触れる。

「……とてもきれいだよ」

 頬から顎へとするりと手が滑り、ゆっくりと触れるだけの口づけが落とされた。ドキドキとうるさいくらい高鳴る胸に、ルースレアは呼吸が止まってしまいそうだ。

「……僕を選んでくれてありがとう。一緒に幸せになろうね」

 優しく囁かれた言葉に頷いて、ルースレアがシアンの手を握るとすぐに握り返される。ただつないだだけの手はやがて互いの指を絡ませ、触れるだけの口づけは触れるたびに深くなっていった。
 そして、優しい夜はゆっくりと過ぎていく――……
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